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Passage Bio (Philadelphia, PA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第223回)ー


遺伝子治療の世界的権威であるペンシルベニア大Prof. James Wilsonらから独占的な権利を取得したAAVベクターの治療法開発を行っているバイオベンチャー。中枢神経系の単一遺伝子疾患に特化している。



背景とテクノロジー:

・遺伝子治療のベクターとしてアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの利用が進んでいる。例えば、2019年にRocheに買収されたSpark Therapeuticsは、先天性の遺伝子変異疾患患者さんの網膜下にAAV2ベクターを投与することで視力を回復させる治療法でアメリカにおけるAAV治療法の初承認を2017年に得ている。また、2018年にNovartisに買収されたAveXisは、先天性の神経疾患患者さんに全身投与でAAV9ベクターを投与することで歩行機能などの障害を回復させる治療法で、2019年にFDAから承認された。


・このような状況の中でAAVベクターによる遺伝子治療を開発しているベンチャーは非常に多い。上記2社以外にも、Voyager TherapeuticsREGENXBIOSolid BiosciencesuniQureLogicBio TherapeuticsSangamo TherapeuticsLysogenePrevail TherapeuticsStrideBioAudentes TherapeuticsTaysha Gene Therapiesとこのブログで紹介したバイオベンチャーだけでもこれだけある。


・一方で最近、AAVベクターの治験では重篤な有害事象の報告が出てきている。Solid Biosciencesのデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療のためのAAVベクターSGT-101は、Phase I/II治験中に赤血球と血小板数の減少、補体免疫系反応の活性化、急性腎障害、心肺機能不全が確認されている(参考)。またAudentes TherapeuticsのX連鎖性ミオチュブラーミオパチー治療のためのAAVベクターAT132は、Phase I/II治験中に3例の死亡が確認されている(参考)。これらの治験では高用量のAAVベクターが投与されており、高用量AAVベクターの投与には副作用の懸念がある。


・このような課題を抱えながらも、AAVベクターなどを用いた遺伝子治療は今後も拡大していくと見込まれている。それは、これまでの低分子化合物や抗体医薬品では不可能な疾患に対する治療法となること、そして遺伝性疾患などに対しては根本治療となる可能性があるというのが大きなポイントだろう。


・今回紹介するPassage BioもAAVベクターを用いた遺伝性疾患の治療法開発を行っているバイオベンチャーであり、遺伝子治療の世界的第一人者の一人であるペンシルベニア大学のProf. James Willsonが共同創業者の一人でありChief Scientific Officerを務めている。ペンシルベニア大学Gene Therapy Program(GTP)と戦略的な研究協力関係の提携を行っており、パイプラインはペンシルベニア大GTPから独占的権利を取得している。主には単一遺伝子性の中枢神経系遺伝子疾患を対象とした治療薬創製を目指している。

・パイプラインのプロダクト以外にも、ペンシルベニア大GTPが開発した新しいカプシド技術について、Passage Bioの製品候補の限定的な独占権を有している。また、ペンシルベニア大GTPが研究開発したカプシド工学、次世代カプシドライブラリ、ベクター工学、導入遺伝子設計、遺伝子治療モダリティ、動物疾患モデル、製品候補の最適化のための関連研究など、遺伝子医療研究分野における最先端の能力と革新的技術を利用することができる。

・AAVベクターの製造については、Catalent Biologics傘下のParagon Gene Therapyで行っている。


・Passage Bioの3つのリード製品候補は、導入された細胞から分泌された遺伝子産物が、導入されていない神経細胞に取り込まれるというCross-correctionメカニズムを利用している。この相互補正機構は、他の遺伝子治療法に見られるベクターの生体内分布や中枢神経系への導入効率の限界を克服し、最終的には臨床効果をもたらすものと考えているとのこと。


・ペンシルベニア大学の希少疾病センター(Orphan Disease Center)との緊密な協力関係を活用して、各疾患の過去および将来の外部データを収集し、介入試験参加者の比較可能な患者プロファイルの構築に役立てている。


パイプライン:

PBGM01

独自に開発した次世代AAVhu68カプシドを用いて、ライソゾームにある酸であるβ-ガラクトシダーゼ(β-gal)をコードする機能的なGLB1遺伝子を脳や末梢組織に導入することで、乳児期のGM1-ガングリオシドーシスを治療する。大槽内投与(頭蓋頚部の接合部に注射する方法)。

開発中の適応症

・Phase I/II


PBFT02

AAV1キャプシドを用いて、プログラニュリン(PGRN)をコードする機能的なGRN遺伝子を脳に導入することで、プログラニュリン 欠損による前頭側頭型認知症(FTD)を治療する。FTD-GRNは、GRN遺伝子に変異があり、PGRNが欠損している遺伝性のFTD。 大槽内投与。

開発中の適応症

・Phase I/II

プログラニュリン欠損による前頭側頭型認知症(FTD-GRN)


PBKR03

独自に開発した次世代AAVhu68カプシドを用いて、加水分解酵素であるガラクトシルセラミダーゼをコードする機能的なGALC遺伝子を脳や末梢組織に導入することで、乳児クラッベ病を治療する。大槽内投与。クラッベ病は、ガラクトシルセラミドやサイコシンなどの特定の脂肪を分解するガラクトシルセラミダーゼという酵素を作る指示を出しているGALC遺伝子の変異によって引き起こされる常染色体劣性のライソゾーム病である。GALC遺伝子は、ガラクトシルセラミドやサイコシンを含む特定の脂肪を分解するガラクトシルセラミダーゼと呼ばれる酵素を作る。クラッベ病では、サイコシンが蓄積され、CNSや末梢神経系(PNS)のミエリン生成細胞が広範囲に死滅する。

開発中の適応症

・Phase I/II


その他

PBML04(ARSA遺伝子に変異がある異染性白質ジストロフィー

PBAL05(C9orf72遺伝子に機能獲得型の変異があるALS)

PBCM06(MFN2遺伝子に変異があるシャルコー・マリー・トゥース病2A)



コメント:

・ペンシルベニアは、世界初のCAR-T療法であるKymriahをNovartisとともに開発したペンシルベニア大学や、フィラデルフィア小児病院の遺伝子療法研究グループがスピンアウトして 創業されたSpark Therapeutics(2019年2月Rocheにより買収、眼のAAVベクター治療法がFDA承認)などがあり、遺伝子細胞治療を先駆けてきた。別名Cellicon Valleyとも呼ばれている(参考PDF)。Passage Bioの共同創業者でCSOのペンシルベニア大Prof. James Wilsonはアデノウイルスベクターの治験を行い、患者さんが死亡してしまったゲルシンガー事件(1999年)の担当者だったため、その後の遺伝子治療には慎重派だったが、近年はAAVベクターを用いた遺伝子治療に積極関与している。ただAAVベクターの大量投与による副作用懸念に関する研究も報告している。

・中枢神経系の遺伝性疾患は、遺伝子治療以外の現行モダリティでの治療が非常に困難であるケースが多い。そのため、これらの疾患が1回の投与で治療可能であれば非常に高い価値があるだろう。 ただ、大槽内投与は非常に侵襲性が高い投与法であり、その点は留意が必要かもしれない。


キーワード:

・遺伝子治療(AAVベクター)

・遺伝性疾患

・中枢神経系


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。


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