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Sangamo Therapeutics (Richmond, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第74回)ー


臨床ステージまで進んでいるゲノム編集治療開発品を複数パイプラインに持つ有名な遺伝子治療バイオベンチャー。ジンクフィンガーヌクレアーゼによるゲノム編集技術を武器とする。PfizerやShireと共同開発を行っている。

ホームページ:https://www.sangamo.com/

背景とテクノロジー:

・これまで単一遺伝子疾患は治療薬を作るの難しい疾患とされていた。それは低分子化合物やペプチド、抗体などのモダリティでは遺伝子変異によって起こる現象を元に戻すことが難しいためだった。近年、遺伝子を編集できる技術が開発され、遺伝子変異疾患への臨床応用が進められている。

・Sangamo Therapeuticsは、遺伝子を編集する技術としてジンクフィンガーヌクレアーゼを用いた治療法の開発を進めている。

・ジンクフィンガーヌクレアーゼによるゲノム編集技術は、第1世代と言われ、第2世代のTALENに比べるとゲノムへの結合様式が複雑なため汎用はされていないが、第3世代のCRISPR/Casに比べて特異性が高くオフターゲット効果は少ないと考えられている。一方で編集効率についてはCRISPR/Casの方が高いと言われているが、Sangamo Therapeuticsは高い編集効率を持つジンクフィンガーヌクレアーゼ技術を持っているとのこと。

・ジンクフィンガーヌクレアーゼによるゲノム編集技術以外にも、アデノ随伴ウイルス(AAV)技術を用いた遺伝子治療技術も保有している。これは単一遺伝子疾患によって、必要な遺伝子が発現しなくなっている患者さんに対して、標的細胞に発現遺伝子を送達させるウイルスベクターである。

・Sangamo Therapeuticsは体外で遺伝子編集した造血幹細胞やT細胞を患者さんに細胞移植する技術も保有し、臨床開発を行っている。特にT細胞移植については、ジンクフィンガーヌクレアーゼによってゲノム編集を行うことで他家移植できるT細胞療法の確立を目指している。

パイプライン:

SB-525

血液凝固第VIII因子(Bドメイン欠失)を発現するAAV2/6ベクター。Sangamo Therapeuticsが独自開発した肝臓特異的なプロモーターによって発現する。Pfizerとの共同開発。

開発中の適応症

・Phase 1 / 2

血友病A

SB-FIX

ジンクフィンガーヌクレアーゼによる患者さんの肝臓細胞内でのゲノム編集によりアルブミンのローカスに血液凝固第IV因子遺伝子を挿入するゲノム編集治療。AAVを用いて遺伝子導入する。静脈内投与。

開発中の適応症

・Phase 1 / 2

血友病B

SB-318

ジンクフィンガーヌクレアーゼによる患者さんの肝臓細胞内でのゲノム編集によりアルブミンのローカスにα-L-イズロニダーゼ遺伝子を挿入するゲノム編集治療。AAVを用いて遺伝子導入する。静脈内投与。

開発中の適応症

・Phase 1

SB-913

ジンクフィンガーヌクレアーゼによる患者さんの肝臓細胞内でのゲノム編集によりアルブミンのローカスにイズロン酸-2-スルファターゼ遺伝子を挿入するゲノム編集治療。AAVを用いて遺伝子導入する。静脈内投与。

開発中の適応症

・Phase 1

ST-400

患者さん自身の造血幹細胞を体外に取り出し、ジンクフィンガーヌクレアーゼを用いたゲノム編集によりBCL11Aのエンハンサー部分を破壊する。これによりBCL11Aの発現が減少する。BCL11Aは胎児βグロビンから成人βグロビンへのスイッチングを制御する分子である。患者さんの成人βグロビン遺伝子が変異し機能欠失しているため、このスイッチングを止めて胎児βグロビンを発現した造血幹細胞を移植する。Biogenの血液部門のスピンアウトBioverativとの共同開発。

開発中の適応症

・Phase 1

・非臨床段階

SB-728T

患者さんから取り出したCD4陽性T細胞に対してジンクフィンガーヌクレアーゼを用いてCCR5遺伝子に変異を入れCCR5 delta-32遺伝子に改変する。HIV感染に抵抗を持つ人ではCCR5遺伝子がCCR5 delta-32に変異していることからこのようなアプローチが考案された。ゲノム編集されたCD4陽性T細胞を患者さんに戻す遺伝子改変型T細胞移植療法。

開発中の適応症

・Phase 1 / 2

AIDS

SB-728HSPC

患者さんから取り出した造血幹細胞/前駆細胞に対してジンクフィンガーヌクレアーゼを用いてCCR5遺伝子に変異を入れCCR5 delta-32遺伝子に改変する。HIV感染に抵抗を持つ人ではCCR5遺伝子がCCR5 delta-32に変異していることからこのようなアプローチが考案された。ゲノム編集された造血幹細胞/前駆細胞を患者さんに戻す遺伝子改変型造血幹細胞/前駆細胞移植療法。

開発中の適応症

・Phase 1

AIDS

・この他にもハンチントン病に対する遺伝子制御タンパク質(ジンクフィンガータンパク質)治療(Shireとの共同開発)などが非臨床段階にある。

最近のニュース:

Gilead子会社のKite PharmaはSangamo Therapeuticsが持つ独自技術ジンクフィンガーヌクレアーゼによるゲノム編集を用いた、がん領域における細胞療法の提携を締結。

筋萎縮性即索硬化症(ALS)に対する遺伝子治療の共同開発契約を締結。

コメント:

・ゲノム編集といえばCRISPR/Casが有名だが、ジンクフィンガーヌクレアーゼを用いた方法は第1世代だからといってCRISPR/Casより全て劣っている訳ではない。どちらかといえばラボレベルで使いづらい、効率が低めというのが違いである。一方ジンクフィンガーヌクレアーゼによるゲノム編集は実用化されたのが早いため、臨床応用でCRISPR/Casに先行している。

・人口のジンクフィンガータンパク質を作り、プロモータ領域に結合させて転写因子のように使う治療法は非常に面白い。一つとしてハンチントン病への適応を進めているが、どうやって脳内に送達させるのだろうか?やはり今流行りの中枢移行性のあるAAV技術を使う予定なのだろうか?

・遺伝子治療といえば、この疾患というように、各社とも遺伝子治療で治せる疾患は重複している。それ以外の疾患への応用は進んでいかないのだろうか?遺伝子変異→遺伝子を治すというアプローチ以外ということになるのでリスクはあるが、患者数の多い遺伝性でない疾患に応用できるとインパクトは大きいだろう。

キーワード:

・ゲノム編集

・遺伝子治療

・アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター

・血液疾患

・ライソゾーム病

・中枢神経系疾患

・HIV

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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