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Surface Oncology (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第144回)ー

更新日:2020年1月12日

がん微小環境において免疫を抑制している免疫細胞やサイトカインに着目し、抗体医薬品によってがん免疫の抑制阻害する治療薬の創製を目指すバイオベンチャー。パイプラインに多くの候補品を持つ。

背景とテクノロジー:

・患者さん自身の免疫機能を調節することでがんを治療するがん免疫の領域にはさまざまなアプローチによる新たな治療法が開発されている。抗体医薬品、がんワクチン、遺伝子細胞治療(CAR-Tなど)、核酸医薬品、腫瘍溶解性ウイルスなどのモダリティを用いて、多くのバイオベンチャーが新たな治療薬創製を目指している。

・がん組織の周りには、血管新生が起こり、栄養素の供給が行われる。また、マクロファージなどの免疫細胞が浸潤し好腫瘍免疫応答を抑制している。また、がん細胞からサイトカインが放出されることでも免疫系が抑制される。このように、がん細胞の周りだけの特殊な環境ができ、これは「がん微小環境」と呼ばれる(参考)。

・がん微小環境には、骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)や、樹状細胞、制御性T細胞、NK細胞、CD4、CD8陽性T細胞、抑制性代謝物、サイトカインなどが分布している。このがん微小環境をうまく調節することで、新たながん免疫療法を見つけ出せる可能性がある。

・今回紹介するSurface Oncologyはがん微小環境をコントロールする抗体医薬品を開発しているバイオベンチャーである。詳細はパイプラインの欄に記載する。

パイプライン:

NZV930

細胞外アデノシンの生成に重要な役割を担っているエクトエンザイム(細胞膜表面酵素)であるCD73に対する完全ヒト化抗体。静脈内投与。CD73の酵素活性を阻害することで、がん微小環境で免疫抑制効果を持つアデノシンの生成を抑制する。これによりT細胞受容体(TCR)が活性化されたCD4陽性T細胞の増殖を促す。非臨床試験では、抗PD-1抗体との併用効果を示す。Novartisとの共同開発。

開発中の適応症

・Phase I/Ib

進行性悪性腫瘍(非小細胞肺がん、トリプルネガティブ乳がん、膵管腺癌、マイクロサテライト不安定性のない大腸がん、卵巣がん、腎細胞がんなど)。単剤、もしくは抗PD-1抗体PDR001との併用、もしくはアデノシンA2aアンタゴニストNIR178との併用、もしくはNZV930、PDR001、NIR178の3薬剤併用。

SRF617

アデノシンの生成とATPの分解に重要な役割を担っているCD39に対する完全ヒト化抗体。静脈内投与。CD39の酵素活性を阻害することで、がん微小環境で免疫抑制効果を持つアデノシンの生成を抑制する。また、CD39は免疫刺激作用を持つ細胞外ATPの分解も担っており、SRF617は細胞外ATPの分解を抑制する。これによりT細胞の増殖と樹状細胞の成熟化を促す。腫瘍浸潤リンパ球においてCD39の発現上昇が見られる。またPD-1を阻害することで制御性T細胞、B細胞、単球においてCD39の発現が上昇することが示されている。

開発中の適応症

・IND申請準備段階

がん

・SRF388

CD4陽性T細胞およびCD8陽性T細胞の活性を抑制する因子の発現を制御する免疫抑制サイトカインであるIL-27に対する完全ヒト化抗体。静脈内投与。非臨床試験において抗転移活性を持つことが示されている。

開発中の適応症

・IND申請準備段階

がん

SRF231

抗CD47抗体。CD47はがん細胞の膜表面に発現し、マクロファージが抗原として認識し、がん細胞を貪食するのを防ぐ役割(Don’t eat meシグナル)を持つ。抗CD47抗体であるSRF231は、CD47(がん細胞がわ)とSIRPα(マクロファージがわ)の結合によるこのDon’t eat meシグナルを抑えることでがん細胞がマクロファージに貪食されるのを促進する。

開発中の適応症

・Phase I/Ib

進行性固形がん、血液がん

SRF813

抗CD112R抗体。詳細不明。非臨床研究段階。

制御性T細胞プログラム

詳細不明。Novartisが購入権を持つ。

最近のニュース:

抗IL-27抗体SRF388について、2016年にNovartisと締結していた買取のオプションについて、買い取らないことを決定した。全世界における権利はSurface Oncologyに戻された。

コメント:

・がん微小環境に着目した創薬は今最もホットな創薬領域だが、Surface Oncologyはこの領域に多くの候補品、しかも臨床入りもしくは間近の候補品を持つ。同様なバイオベンチャーとして、SRF231と同じターゲットである抗CD47抗体を開発しているForty Sevenなどがある。

・免疫抑制を阻害するアプローチは重要だが、ベースの免疫機能が落ちている患者さんが多く、その場合は、免疫抑制を阻害しても十分な効果が得られないという臨床エビデンスが出てきている。ベースの免疫機能が落ちている患者さんに対する対処法を作らないと、やはり効果を持つ患者さんの層は広がっていなかないのではないだろうか。がん微小環境で免疫機能活性化というアプローチを行っているBolt Biotherapeuticsの結果がどうなるか。

キーワード:

・がん微小環境

・がん免疫

・抗体医薬品

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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