top of page
検索

Arkuda Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第143回)ー

更新日:2020年1月12日

ライソゾーム機能の低下と神経変性疾患の関係に着目した創薬を行っているバイオベンチャー

ホームページ:https://www.arkudatx.com/

背景とテクノロジー:

ライソゾームに局在する酵素の欠失によって起こる病気として遺伝子変異疾患であるライソゾーム病が知られているが、最近の研究により神経変性疾患の一部においてもライソゾームの機能異常が原因である可能性が報告されてきている。ライソゾームは細胞内たんぱく質を分解する細胞内小器官で、その機能異常により、たんぱく質の細胞内異常蓄積が起こり、細胞機能の低下、細胞死に至ると考えられている。

・例えばパーキンソン病患者さんの一部ではGBA遺伝子の変異が報告されている。GBA遺伝子はグルコセレブロシダーゼをコードする遺伝子で、グルコセレブロシダーゼはライソゾームにおいて、生体糖脂質であるグルコセレブロシドを加水分解する。この遺伝子の変異疾患としてはライソゾーム病の一つであるゴーシェ病が知られている。E-scape Bioでは、GBA遺伝子変異を持つパーキンソン病に着目し、スフィンゴシン1リン酸受容体5(S1P5)の選択的アゴニストESB1609によってグルコセレブロシドの合成を阻害する治療薬創製を目指している。

・順天堂大学などのグループは、認知症を合併するパーキンソン病においてライソゾームに局在する酵素であるアリルスルファターゼAの量が減少していることを報告している(参考)。アリールスルファターゼA(Arylsulfatase A)は、セレブロシド-3-硫酸をセレブロシドと硫酸に分解する酵素であり、この遺伝子の変異によって異染性白質ジストロフィーというライソゾーム病が起こる。

・今回紹介するArkuda Therapeuticsは、ProgranulinをコードするGRN遺伝子に変異を持つ前頭側頭型認知症(FTD)に着目し、Progranulinを増加させることで疾患治療する創薬を行っているバイオベンチャーである。

・Progranulinは、ミクログリアから細胞外に放出され、ニューロンの細胞膜上に存在するSortilinに結合し、ライソゾームに輸送される。ライソゾームでProgranulinはGranulinに分解される。ProgranulinやGranulinがライソゾームでどんな機能を持っているのかはよく分かっていない。東京都医学総合研究所は、ライソゾームに運ばれたProgranulinによってライソゾームが酸性化されることを報告している(参考)。ライソゾームは酸性化されることで、安定的にたんぱく質を分解でき、TDP-43など前頭側頭型認知症の原因物質の分解を行っているのではと考えられる。また、Progranulinがライソゾーム中のプロテアーゼの活性調節を行っている可能性もある。

・マイクログリアから細胞外に放出されたProgranulinには抗炎症作用があることも知られている。神経変性疾患では脳内炎症が起こっている可能性が報告されており、Progranulinの抗炎症作用が寄与する可能性がある。

パイプライン(詳細未開示):

Progranulin & Granulin

ProgranulinとGranulinを増加させる治療法。詳細は未開示のためモダリティは不明(おそらく低分子化合物?)。

開発中の適応症

・ステージ不明

GRN遺伝子変異を持つ前頭側頭型認知症

コメント:

Alectorも、Progranulinに着目して、Progranulin の量を増やす抗体医薬品AL001の開発を行っており、現在Phase II治験中である(参考

・ホームページで紹介されている会社メンバーの中にメディシナルケミストや、化合物スクリーニングを行っているメンバーがいるので、おそらく低分子化合物の創薬を行っていると考えられる。どうやってProgranulinやGranulinの量を増やすのかはホームページには記載がなく不明。

・Progranulinの量に着目して前頭側頭型認知症治療薬を作るアプローチを行っている会社は多いが、これは血中のProgranulinをバイオマーカーとして測定することで、薬物の効果を簡便にモニタリングすることができるためだろう。中枢神経疾患の治験は、薬を投与して効果がなかった場合に、薬物が思った作用(例:Progranulin増加作用)をしていないのか、それとも作用しているが症状(例:認知機能)を改善することができないのかが分からないことが多い。バイオマーカーがしっかりしていて、しかも比較的簡便に測定できる中枢神経疾患であるGRN遺伝子変異を持つ前頭側頭型認知症に着目するのはこれが理由だろう。

キーワード:

・中枢神経疾患(前頭側頭型認知症)

・ライソゾーム

・低分子化合物

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

最新記事

すべて表示

Surface Oncology (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第144回)ー

がん微小環境において免疫を抑制している免疫細胞やサイトカインに着目し、抗体医薬品によってがん免疫の抑制阻害する治療薬の創製を目指すバイオベンチャー。パイプラインに多くの候補品を持つ。 ホームページ:https://www.surfaceoncology.com/ 背景とテクノロジー: ・患者さん自身の免疫機能を調節することでがんを治療するがん免疫の領域にはさまざまなアプローチによる新たな治療法が開

Audentes Therapeutics (San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第142回)ー

希少疾患に対してアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬の開発を行っているバイオベンチャー。現在課題となっているAAVの大量製造およびヒトへの高濃度投与に関して先行している。2019年12月アステラス製薬による買収が発表された。 ホームページ:https://www.audentestx.com/ 背景とテクノロジー: ・遺伝子治療のベクターとしてアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクタ

Bolt Biotherapeutics (Redwood City, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第141回)ー

免疫賦活たんぱく質と抗体を組み合わせたISAC(Immune-Stimulating Antibody Conjugates)という独自技術で、がん周辺部で自然免疫を活性化させる新規がん免疫療法の開発を行っているバイオベンチャー ホームページ:https://boltbio.com/ 背景とテクノロジー: ・免疫チェックポイント分子であるPD-1やPD-L1、CTLA-4を標的として抗体医薬品(オ

bottom of page