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LogicBio Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第70回)ー


アデノ随伴ウイルスベクターと相同組換え技術を組み合わせて、増殖細胞において外来性遺伝子を発現させる(ゲノムへ挿入する)GeneRideという遺伝子治療法を開発しているバイオベンチャー

ホームページ:https://www.logicbio.com/

背景とテクノロジー:

・アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療が臨床で効果を示し注目を浴びている。AAVはゲノム内に遺伝子を挿入しない。また、感染後にヒトの体内では増幅しない。このため安全性は極めて高いとされる。しかし、そのために神経細胞などの非分裂細胞でしか持続的な遺伝子発現ができない(増殖細胞(特に小児期の増殖が早い細胞)ではAAVが希釈されてしまい、時間とともに発現が低下する)。

・LogicBio Therapeuticsが持つ独自技術GeneRideは、AAVによって感染された細胞内のゲノムに遺伝子を挿入することで、増殖細胞においても外来遺伝子を持続的に発現させる技術である。

・GeneRideでは旧来からの相同組換え技術を用いている。導入する外来遺伝子の両端に、遺伝子を挿入したいゲノム領域と相同領域を導入する(5’相同アームと3’相同アーム)。この時、挿入するゲノム領域を、内在性遺伝子の末尾とつなぎ合わせることで、mRNAレベルでは内在性遺伝子と外来性遺伝子がつながった状態で転写される。

・外来性遺伝子と内在性遺伝子の間には2Aという配列を付加することで、mRNAまではつながった状態で転写され、アミノ酸レベルに翻訳される時には2つの遺伝子は切れて、別々のタンパク質となる。

このウェブページのイラストを見ながら上記の説明を読んでいただければ分かりやすいかも。

・この技術により、任意の内在性遺伝子が発現する細胞でのみ外来性遺伝子を発現させることができる。また内在性遺伝子と発現量も合わせることができる。

パイプライン:

LB-001

メチルマロン酸血症(MMA)はメチルマロニルCoAムターゼという酵素の遺伝子に異常がある希少疾患。この酵素の異常により体にメチルマロン酸が蓄積してしまう代謝異常病である。LB-001はAAVベクターを用いてメチルマロニルCoAムターゼ遺伝子を患者さんのゲノムに挿入する遺伝子治療法。

開発中の適応症

・IND申請可能段階(2019年臨床入り予定)

メチルマロン酸血症

・他にGeneRide技術を用いた、ライソゾーム病への酵素遺伝子導入による治療・感染症治療などが非臨床研究や探索段階にある。

コメント:

・増殖細胞での遺伝子発現としては、感染細胞で増幅するウイルスを用いた方法もあるが、安全性という面ではまだ確立されていない。その点AAVを用いた方法は相対的に安全性が高いと言える(現在分かっている情報ではという限定で)。

・。近年スポットライトを浴びているCRISPR/Casによる遺伝子編集技術ではオフターゲットの高さが懸念されている。また、Casは微生物由来のヌクレアーゼであり、Casに対する抗体ができ、効果が発揮できない可能性が指摘されている。一方、相同組換え技術はノックアウトマウス作製で古くから用いられている確立された技術であり、オフターゲットが比較的少ない技術とされる(相同アームの長さが重要)。

・ゲノムへの挿入による治療のため、AAV投与は1回だけ。

・欠点はAAVは小さなウイルスのためおよそ4.7kb程度までしか遺伝子を入れられない。相同アーム・外来遺伝子はこの制約を受ける。

・加えて、相同組換えは組換え効率が低い(ということは治療効果も弱いかもしれない)。ここについては何か効率を上げられるアイデアがあるのだろうか?

キーワード:

・遺伝子治療

・アデノ随伴ウイルス(AAV)

・相同組換え

・増殖細胞

・代謝異常(肝臓)

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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