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ILIAS Biologics (Daejeon, South Korea) ーケンのバイオベンチャー探索(第189回)ー

更新日:2020年11月1日


オプトジェネティクスを用いてエクソソーム内に効率的に特定のたんぱく質を充填する独自技術を持つバイオベンチャー。標的細胞の細胞質内にたんぱく質をデリバリーすることで、たんぱく質ーたんぱく質間相互作用阻害など新たな作用機序を持つ治療薬創製を目指す。


ホームページ:http://iliasbio.com/eng/


背景とテクノロジー:

・新しいモダリティの開発が進んでいるが、核酸医薬品(mRNA、アプタマーなど)、ペプチド医薬品、遺伝子治療製品(CRISPR/Casなど遺伝子サイズが大きい場合)などの一部のモダリティは、生体内の標的臓器にそれをデリバリーする技術、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発が急務となっている。

・例えば、Modernaの新型コロナウイルスワクチン候補mRNA-1273や、同じくBioNTechの新型コロナウイルスワクチン候補BNT162b2はSARS-CoV-2のスパイクたんぱく質(Sたんぱく質)をコードしたmRNAだが、mRNAはそのまま投与すると生体内で急速に分解されたり自然免疫を惹起する。そのため、mRNA-1273やBNT12b2は脂質ナノ粒子(LNP)に封入することで生体内の安定性を高め免疫原性を下げている。


・in vivo遺伝子治療ではアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの臨床での効果が示されてきているが、AAVベクターに搭載できる遺伝子サイズはおよそ4.7 kBと小さく、Cas9遺伝子(4.1 kb)やデュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子ジストロフィン遺伝子(14 kb)などサイズが大きい遺伝子を搭載するのは難しい。AAVベクター以外のウイルスの応用も考えられているが、安全性の懸念があり、比較的安全性の高いと考えられる非ウイルス性ベクターの利用が開発されてきている。

・例えば、Generation Bioは、細胞質内に取り込まれ核内に移行することができるDNAであるclosed-ended DNA (ceDNA) Technologyを開発しており、全身投与によってceDNAを肝臓に届けることができるLNPと組み合わせた、非ウイルスベクターによる遺伝子治療の開発を行っている。


Ligandalは、陽イオンチャージされたポリマーと陰イオンチャージされたポリマーの2つで構成されたナノ粒子の表面上に標的細胞に特異的に結合するペプチドリガンドを発現させた非ウイルス性ベクターを開発し、mRNAやCRISPR/Cas分子を内包化させた医薬品の創製を目指している。


・細胞が放出するナノメートルサイズの小胞であるエクソソームなどの細胞外小胞を用いたDDSの開発も行われている。タンパク質やRNA、低分子を送達させるためのエクソソーム技術を開発しているEvox Therapeuticsや、エクソソームの中に特異的にペイロード(低分子・抗体・核酸・脂質・CRISPR/Cas・ウイルスベクターなど)を入れる技術や、表面や内部に薬物を結合させたエクソソームを分泌する細胞を作ることが出来る技術を持つCodiak Biosciences、血液脳関門を透過できる、神経幹細胞由来のエクソソームを用いて神経疾患の治療薬開発を行っているArunA Bioなどのバイオベンチャーがある。


・サイトカイン、ホルモン、モノクローナル抗体など、臨床的に利用可能なタンパク質ベースの薬剤の大部分は、細胞外での作用機序に限定されている。細胞内タンパク質は、バイオ医薬品としての可能性が確認されているが、細胞内にタンパク質を送達するためには多くの課題がある。LNPを用いた送達法も開発されてきているが、カーゴタンパク質とLNPの間に分離機構がないため、細胞質送達の効率が制限されるだけでなく、これらの粒子の調製には複雑なタンパク質精製工程が必要となることが多い。


・今回紹介するILIAS Biologicsはエクソソームを用いたDDS技術の開発を行っているバイオベンチャーである。最近の研究では、エクソソソームを用いて全身注射により特定の標的組織に siRNA や miRNA を in vivo で送達する新しい方法が開発されてきている が、高分子であるタンパク質のエクソソームへの封入には課題が多い。ILIAS Biologicsでは、制御された可逆的なたんぱく質-たんぱく質間相互作用を介して可溶性蛋白質を細胞質に送達することができる、オプトジェニック分子を用いて設計されたエクソソソームシステムEXPLOR™(EXosomes for Protein Loading via Optically Reversible protein–protein interactions)を開発している。


・EXPLOR™は以下のメカニズムで小胞内に特定のたんぱく質が充填されたエクソソームを作製する技術である。

光受容体CRY2(Cryptochrome2)とCIBN(Cryptochrome Interacting Basic-Helix-Loop-Helix1の短縮版)タンパク質は、シロイヌナズナの光感知タンパク質として同定されていたが、青色光の照射に反応して、これらのタンパク質は可逆的な結合を示すことが知られている。このメカニズムを利用して効率的にタンパク質をエクソソームに充填するのがILIAS Biologicsの持つ独自技術である。

エクソソソームの産生は、HEK293T細胞などのエクソソーム産生細胞に、2種類の異なるタンパク質複合体を発現するように遺伝子操作する。エクソソソーム産生細胞には、CRY2と共役したカーゴタンパク質(エクソソームに封入するたんぱく質)とCIBNと共役したエキソソソーム膜関連タンパク質(例:CD9)の2つの異なるタンパク質複合体を発現するように遺伝子導入する。エクソソソーム産生の間、エクソソーム産生細胞を青色光下で培養し、CRY2-CIBN相互作用を介してカーゴタンパク質をエクソソソーム内に引きずり込むようにする。カーゴを搭載したエクソソソームが細胞から産生された後、青色光を除去し、エクソソームを細胞培養液から単離/精製し、さらに濃縮して治療薬として使用する。ILIAS Biologicsは、このエクソソームを用いた治療法をExo-Target®と命名している。



パイプライン:

抗炎症性タンパク質を搭載したExo-Target®。標的細胞(自然免疫細胞)に細胞内で送達され、敗血症の原因となる炎症シグナル伝達経路を特異的に阻害する。

開発中の適応症

・前臨床研究段階


早産

妊婦の早産の主な原因である胎盤の炎症を抑制するために、胎盤バリアを介して抗炎症タンパク質を送達するExo-Target®。

開発中の適応症

・前臨床研究

早産


ライソゾーム病の1つであるI型ゴーシェ病(GD1)治療のために肝臓や脾臓の標的細胞に欠損酵素(グルコセレブロシダーゼ)を送達するExo-Target®。

同じくライソゾーム病の一つであるII型・III型ゴーシェ病(GD2・3)の治療のためのExo-Target®は、血液脳関門を越えて神経細胞に欠損酵素(グルコセレブロシダーゼ)を送達することができる。

開発中の適応症

・探索研究段階


コメント:

・能動的にエクソソーム中にたんぱく質を充填し、標的細胞の細胞質内にデリバリーする技術は独自性があって面白い。ライソゾーム病の現行治療は、欠損酵素をたんぱく質のまま投与しているが、細胞質内にデリバリーできればより効果が高くなる可能性がある。

抗体医薬品については、もともと天然の抗体自体が細胞外で働くのだが、細胞内にデリバリーすることで、細胞内のたんぱく質ーたんぱく質間相互作用を阻害できることが示されており、ILIAS Biologicsの技術によって抗体を細胞内に効率的にデリバリーできれば、これまでなかなか狙って作ることが難しかった、たんぱく質ーたんぱく質間相互作用阻害薬が作れるかもしれない。


・オプトジェネティクスを用いたのがキモで、青色光をオフにすると封入後のエクソソーム内でカーゴたんぱく質がフリーの状態になることができる。これで、標的細胞にエクソソームがデリバリーされたあと、カーゴたんぱく質が細胞質内を拡散することができる。


・EXPLOR™技術では、シロイズナズナ由来のたんぱく質を用いているが、このたんぱく質がエクソソーム膜(細胞との融合後は細胞膜にも)、カーゴたんぱく質に残存するため、生体内において免疫反応を惹起するリスクがあるのではないだろうか。


キーワード:

・薬物送達システム(DDS)

・エクソソーム(たんぱく質充填)

・オプトジェネティクス

・炎症性疾患

・代謝性疾患


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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