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Ligandal (San Francisco, CA, USA)  ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第159回)ー






標的細胞に特異的に結合するペプチドが付与された非ウイルスベクターによる新規遺伝子治療法の開発を行っているバイオベンチャー



ホームページ:https://www.ligandal.com/



背景とテクノロジー:

・AAVベクターなどのウイルスを用いたin vivo遺伝子治療(生体内で直接遺伝子治療する方法)の開発が進むにつれて、標的の細胞にどうやってAAVベクターを届けるかということが課題となってきている。現状のAAVベクターは標的細胞、標的臓器、投与経路によってセロタイプを選択する方法をとっていて、例えば眼(網膜下投与)への局所投与はAAV2ベクター(Spark Therapeutics/RocheのLuxturna)、脳に感染させるための静脈内投与にはAAV9ベクター(AveXis/NovartisのZolgensma)、肝臓に感染させるための静脈内投与にはAAV5ベクター(Biomarin PharmaceuticalsのBMN270)を用いている。

・しかしより正確に標的細胞、標的臓器に遺伝子を送達させるためには、セロタイプ選択による方法では不十分である。そこで、AAVベクターのカプシドに部分変異を入れることで、より正確な指向性を持つような新規AAVベクターの開発が進んでいる。


・例えば、Stride Bioはクライオ電子顕微鏡によるたんぱく質構造解析手法を用いて、特異的な臓器・細胞への指向性を持ったカプシドや、感染効率を増強したカプシドなどを作製する技術を開発している。このような技術開発は多くのバイオベンチャーが開発を競っているため、非常に速いスピードで技術が進歩している。しかし、カプシドデザインだけで標的細胞特異的に遺伝子を送達するには限界があるだろうと考えられる(プロモーターで細胞選択性を制御するアプローチも行われているが、特異的で発現の高いプロモーターを作る技術も現状道半ばである)。

・in vivo遺伝子治療にAAVベクターを用いる場合の課題は他にもある。その一つとしてAAVベクターは最大サイズ4.7 kbまでの遺伝子しか搭載できない(プロモーター含む)。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子であるジストロフィン遺伝子はおよそ14 kb,嚢胞性線維症の原因遺伝子であるCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)遺伝子はおよそ189 kbもある。これらの遺伝子をAAVベクターに搭載することはできない。そのため、変異しているDNAを直接改変するゲノム編集法などの新規技術の開発が進んでいるが、ゲノム編集で汎用されるCas9もAAVベクターに搭載するには遺伝子サイズが大きい(約4.1 kb)。


・そこで遺伝子サイズの制限を受けにくい、非ウイルスベクターを用いた遺伝子治療法の開発も進められている。例えばGeneration Bioは、細胞質内に取り込まれ核内に移行することができるDNAであるclosed-ended DNA (ceDNA) Technologyを開発しており、全身投与によってceDNAを肝臓に届けることができる脂質ナノ粒子と組み合わせた、非ウイルスベクターによる遺伝子治療の開発を行っている。


・今回紹介するLigandalも、ペプチドリガンドによって細胞選択性を持つ非ウイルスベクターを用いて、標的細胞に正確に遺伝子を導入する技術を開発しているバイオベンチャーである。その方法としては、まず標的細胞に特異的に発現している膜表面の受容体を同定する。次に、この受容体と特異的に結合できるタンパク質をin silico解析などを用いて見出す。そしてそのタンパク質のうち、受容体の結合に重要な部分のペプチドを合成する。このペプチドを、陽イオンチャージされたポリマーと陰イオンチャージされたポリマーの2つで構成されたナノ粒子上に発現させ、標的細胞に特異的に取り込ませる。ナノ粒子内部には治療効果を持つmRNA分子やCRIPSR分子を封入する。標的細胞にmRNA分子やCRISPR分子が取り込まれることで、遺伝子を発現させたりゲノム編集されたりするシステムである。


・標的細胞の膜表面に特異的に発現する受容体、およびその受容体に結合するタンパク質を見出す方法として、in silico解析法を開発している。Ligandalでは、見出したタンパク質(受容体)-タンパク質(リガンド)相互作用を模倣するペプチドリガンドを合成する。


・非ウイルスベクターの特徴は以下の通り。

①より大きなサイズの遺伝子を搭載できる

②他の技術と組み合わせることで、今までにない細胞選択性を持たせることが期待される

③毒性が弱いことが期待される

④AAVベクターは中和抗体をすでに持っているヒトには投与できないが、非ウイルスベクターは中和抗体を持っている可能性が低い

⑤ウイルスベクターは1度投与すると免疫ができて繰り返し投与が難しいが、非ウイルスベクターは可能なことが想定される

⑥感染効率はウイルスベクターより劣ることが多い


CRISPR Therapeuticsも、in vivo CRISPR/Cas治療のために非ウイルスベクターの開発をCureVacと共同で行っている(詳細は未開示)。



パイプライン(未開示):



コメント:

・標的細胞に特異的に発現する受容体を同定するところがキーポイントになるだろう。全く報告されていない新規の標的細胞特異的な受容体を見つけてくるのは簡単ではないだろう。その辺りのノウハウを持っているのならば、他社には真似しにくい武器になると思われる。


・AAV搭載可能なサイズのCas分子を作り出すアプローチを行っているバイオベンチャーもあり、これらのバイオベンチャーもライバルになるだろう。どちらのアプローチが先に実用化されるか楽しみだ。


・標的細胞特異的な受容体に結合するペプチドデザイン技術を持っていることから、急遽、新型コロナウイルス(COVID-19)に対するペプチドワクチン開発や、治療薬開発に乗り出しているようだ。ホームページ上では、ヒト細胞が発現するCOVID-19の標的分子とされるACE2とCOVID-19の結合をブロックし、細胞への侵入を阻害するペプチドのin silicoデザインのイラストが公開されている。



キーワード:

・in silicoペプチドデザイン

・非ウイルスベクター

・遺伝子治療

・薬物送達システム(DDS)



免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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