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CRISPR Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第146回)ー

更新日:2020年1月12日

CRISPR/Casシステムを用いたゲノム編集の臨床応用のトップランナーの1社。血液疾患、他家CAR-T療法などへの応用を開発している。



ホームページ:http://www.crisprtx.com/



背景とテクノロジー:

・CRISPR/Casという遺伝子を自在に書き換えることができるゲノム編集技術の応用が、漁業・農業・工業など各方面で広がっている。例えば農業系巨大企業のデュポンやモンサントは、より長持ちするジャガイモ、洪水に強い米、干ばつ耐性のトウモロコシ、防カビ性のある小麦、収穫量が非常に多く果実が落下しないトマトなどをCRISPR/Cas技術を用いて開発している(参考)。


・CRISPR/Casの医療応用も進められている。例えば、eGenesisは、CRISPR技術を用いてゲノム編集ブタを作製し、ブタ臓器をヒトに移植可能にする異種移植を目指すバイオベンチャーである。Editas Medicineはアデノ随伴ウイルスベクターを用いてCRISPR/Casのゲノム編集をヒトの体内で行うin vivoゲノム編集の治験をすでにスタートさせているバイオベンチャーである。Beam Therapeuticsは切らないゲノム編集であるbase editingという技術の開発を行っているバイオベンチャーである。base editingはゲノムDNA, mRNAの一塩基変異を元に戻す方法である。また、Sherlock Biosciencesは、CRISPR-Casを応用した診断技術を開発しているバイオベンチャーである。


・今回紹介するCRISPR TherapeuticsはCRISPR/Cas技術の医療応用を世界に先駆けて行っているトップランナーの1社である。一遺伝子変異疾患に対するアプローチだけでなく、他家移植のCAR-T療法やその他細胞治療に対するCRISPR/Cas技術の開発も行っている。他家細胞移植はCRISPR/Casシステムを用いてTCRα遺伝子およびβ2M遺伝子をノックアウトすることで可能にするアプローチ。



パイプライン:

CTX001

患者さんから採取して単離したCD34陽性細胞(造血幹細胞)にエレクトロポレーションでCRISPR/Casシステムを導入し、胎児ヘモグロビン(HbF)の発現が増えるようにする自家細胞移植療法。ヘモグロビンの構成要素であるβグロビン遺伝子に変異を持つことで成人ヘモグロビン(HbA)の機能に異常がある患者さんに対して、CTX001を患者さんの血中に戻すことで、正常なHbFを発現する赤血球細胞に分化しHbAの代替として治療効果を示すことが期待される。Vertex Pharmaceuticalsとの共同開発。

開発中の適応症

・Phase I/II


CTX110

健常人から単離したT細胞に対して、T細胞受容体alpha constant遺伝子座にCRISPR/Casシステムを用いてCD19-CAR(キメラ抗原受容体)を挿入しTCRをノックアウトする。またMHCクラスIを構成する遺伝子であるβ2M遺伝子をノックアウトする処置をCRISPR/Casシステムを用いて行う。これをがん患者さんに投与する他家細胞移植療法。CD19はB細胞の膜表面に発現する抗原。

開発中の適応症

・Phase I/II

非ホジキンリンパ腫、B細胞リンパ腫


CTX120

健常人から単離したT細胞に対して、T細胞受容体alpha constant遺伝子座にCRISPR/Casシステムを用いてBCMA-CAR(キメラ抗原受容体)を挿入しTCRをノックアウトする。またMHCクラスIを構成する遺伝子であるβ2M遺伝子をノックアウトする処置をCRISPR/Casシステムを用いて行う。これをがん患者さんに投与する他家細胞移植療法。BCMA(B-Cell Maturation Antigen)は多発性骨髄腫細胞の膜表面に発現する抗原。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

多発性骨髄腫


CTX130

健常人から単離したT細胞に対して、T細胞受容体alpha constant遺伝子座にCRISPR/Casシステムを用いてCD70-CAR(キメラ抗原受容体)を挿入しTCRをノックアウトする。またMHCクラスIを構成する遺伝子であるβ2M遺伝子をノックアウトする処置をCRISPR/Casシステムを用いて行う。これをがん患者さんに投与する他家細胞移植療法。CD70はリンパ腫を含む血液がんや固形がんの膜表面で発現上昇しているとされる抗原。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

がん


I型糖尿病

拒絶反応に関係する遺伝子をCRISPR/Casシステムを用いてノックアウトした幹細胞をpancreatic endoderm細胞(β前駆細胞)に分化させ、カプセル化し、生体内に移植する方法。ViaCyteとの共同研究。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

I型糖尿病


in vivo CRISPR/Cas9

ヒト生体に局所投与もしくは全身投与でCRISPR/Casシステムを導入する治療法のため、大きく分けて2つのモダリティ開発を行っている。

①非ウイルスによるデリバリー

脂質ナノ粒子(LNP)を用いたデリバリー法についてMITと共同研究を行っている。主に肝臓へのデリバリー法として。

カプセル化した(Cas9とガイドRNAをコードする)mRNAによるデリバリー法についてCureVac社と共同研究を行っている。場合によってはこのmRNAをLNPに入れることについても検証している。

②ウイルスによるデリバリー

アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた筋肉、肺、中枢神経系へのデリバリー法についてStrideBioと共同研究を行っている。標的臓器に対してより特異性を持ち、中和抗体を回避できる新規のAAVベクターの開発を目指している。

開発中の適応症

・非臨床研究段階



最近のニュース:

Neon Therapeuticsと新規のT細胞療法に関する共同研究契約を締結


治療用の糖タンパク質製造技術を持つProBioGenと新規in vivoデリバリー技術に関する共同研究契約とライセンス契約を締結



コメント:

・他家によるCAR-T療法については、Universal CellsCellectisAdicet BioAllogene Therapeuticsなど多くのバイオベンチャーが取り組んでいて競争がし烈。


・in vivo CRISPR/CasではEditas Medicineが治験をスタートさせている。CRISPR Therapeuticsはそれを追っている形。


・AAVベクターを用いてin vivo CRISPR/Casを行うには、AAVベクターに搭載できる遺伝子サイズがおよそ4.7kb以下という制約に課題がある (Cas9はそれだけで4.1kbもあり、Cas分子の小型化の研究も進められている)。CRISPR Therapeuticsが非ウイルスベクターの開発を行っているのはこの点があるからだろう。ただ、非ウイルスベクターで肝臓以外の疾患に応用するのは現状なかなか難しい。



キーワード:

・ゲノム編集(CRISPR/Cas)

・βサラセミア、鎌状赤血球症

・他家移植細胞療法(CAR-T療法)

・in vivo CRISPR/Cas



免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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