他家移植可能なCAR-T療法の開発を行っている有名ベンチャー
ホームページ:https://www.allogene.com/
背景とテクノロジー:
・血液がんの治療薬として、CAR(キメラ抗原受容体)-T細胞療法の著効が報告され、この分野への大手製薬会社の投資が進んでいる。先行しているのは、NovartisのKymriah、Kite Pharma(Gilead)のYescartaだが、ベンチャー含めて多くの会社が次のCAR-T療法の開発を進めている。
・これまで承認されているCAR-Tはすべて、患者さんの血液から抽出したT細胞にレトロウイルス/レンチウイルスで外来遺伝子としてCARを導入する自家細胞を用いた移植療法である。だが、この方法には以下のような問題点がある。
①血液採取からCAR-T投与まで時間がかかる
患者さん自身のT細胞を体外で増殖させ加工するために、診断して治療法が選択されてから実際に治療が行われるまでに時間を要する。
②効力のバラつきがある
患者さんごとに異なる細胞を用いるため効力がばらつく。
③製造コストがかさむ
患者さん一人一人に個別に細胞を作るため製造コスト・輸送コストがかかる。
④再治療のハードル
再度同じ治療を行おうと思っても非常に困難である。
・そこでこれらの問題点を解決するために、Allogeneでは他家移植可能なCAR-T細胞作製技術AlloCARsを開発している。方法としては、まず健康なドナーから増やしたT細胞に対し、CARを発現させるとともに、免疫を回避するためにTCR(T細胞受容体)遺伝子とCD52遺伝子を遺伝子編集で取り除く。また何か問題が起こった時にリツキシマブ を投与することでCAR-T細胞を取り除けるように、リツキシマブ認識ドメインを持つたんぱく質を細胞表面に発現させてある(ALLO-715はCARの中にリツキシマブ認識ドメインを組み込んである)。
・他家移植可能なCAR-T細胞療法は以下のようなメリットがある。
①素早い投与
事前に作製しておけるため、治療法決定から投与まで時間がかからず、治療タイミングを逃さないため、効果を最大化できる。
②効力の増強(安定)
全ての患者さんに同じ細胞を用いるため、安全性と効力に関して予想がつく。
③製造効率が良い
1回の製造から100人程度分の細胞を調製可能である。製造行程を効率化することでコストを下げることが可能。
④再治療可能
再度同じ治療を行うことが容易。体外で細胞が増えにくい患者さんにも適応可能。
パイプライン:
・UCART19
CD19を認識するCARを発現し、TCR、CD52遺伝子を除去し、リツキシマブ認識ドメインを持つ表面たんぱく質を発現させた他家移植可能な健常ドナー由来T細胞の移植療法。すべてのB細胞に共通する細胞表面抗原であるCD19を認識するCAR-Tを用いて全てのB細胞を除去することで、B細胞に由来する血液がんを治療できる。Servierとの共同開発。
開発中の適応症
・Phase 1
難治性/再発性の急性リンパ芽球性白血病(ALL)
・ALLO-501
CD19を認識するCARを発現し、TCR、CD52遺伝子を除去し、リツキシマブ認識ドメインを持つ表面たんぱく質を発現させた他家移植可能な健常ドナー由来T細胞の移植療法。すべてのB細胞に共通する細胞表面抗原であるCD19を認識するCAR-Tを用いて全てのB細胞を除去することで、B細胞に由来する血液がんを治療できる。
開発中の適応症
・IND申請段階(2019年のPhase I開始予定)
非ホジキンリンパ腫
・ALLO-715
B細胞成熟抗原(BCMA)を認識するCAR(リツキシマブ認識ドメインを併せ持つ)を発現し、TCR、CD52遺伝子を除去した他家移植可能な健常ドナー由来T細胞の移植療法。すべての成熟B細胞に共通する細胞表面抗原であるBCMAを認識するCAR-Tを用いて全ての成熟B細胞を除去することで、成熟B細胞に由来する血液がんを治療できる。
開発中の適応症
・IND申請段階(2019年のPhase I開始予定)
多発性骨髄腫
・ALLO-819
FLT3を認識するCAR(リツキシマブ認識ドメインを併せ持つ)を発現し、TCR、CD52遺伝子を除去した他家移植可能な健常ドナー由来T細胞の移植療法。造血幹細胞・前駆細胞に共通する細胞表面抗原であるFLT3を認識するCAR-Tを用いて造血幹細胞・前駆細胞を除去することで、造血幹細胞・前駆細胞に由来する血液がんを治療できる。
開発中の適応症
・前臨床試験段階
急性骨髄性白血病
・ALLO-647
抗CD52抗体。B細胞のほとんどには膜表面上にCD52を発現している。腫瘍リンパ球細胞膜上に発現するCD52抗原に結合し、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)および補体依存性細胞傷害活性(CDCC)を介して細胞溶解を引き起こし、抗腫瘍効果を示す。アレムツズマブと同様の薬を目指している。
開発中の適応症
・前臨床試験段階
血液がん
最近のニュース:
2014年に締結したCellectisとの他家移植CAR-T療法の共同研究を継続する。
コメント:
・Kite PharmaのCEOだったDr. Arie Belldegrunや 同じくKite PharmaのCMOだったDr. David Changらが創業し、Pfizerが出資している、鳴り物入りのバイオベンチャー。
・UCART19はCellectisからの導入品。Allogeneのホームページには記載がないが。
・UCART19とALLO-510は他家移植可能にするための技術(TCRとCD52遺伝子除去)の違いが分からないが、CellectisとAllogeneは同じ技術を使っているのだろうか?それとも独自技術を持っているのだろうか?
キーワード:
・他家移植細胞療法(CAR-T療法)
・血液がん
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。