top of page
検索

Cellectis (Paris, France) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第78回)ー


他家移植可能なCAR-T療法の臨床開発を行っている有名バイオベンチャー

ホームページ:http://www.cellectis.com/en

背景とテクノロジー:

・CAR-T療法は、患者さん自身から取り出したT細胞に対しウイルスなどを用いて遺伝子改変し、キメラ抗原受容体(CAR)を発現させたT細胞(CAR-T)を患者さんに戻すことで、CAR-T細胞ががん細胞を死滅させる治療法である。CD19を認識するCARを発現させた治療法であるKymriah(Novartis)、Yescarta(Kite Pharma)が、急性リンパ芽球性白血病やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫などで劇的な効果を持つことが示され、開発が加熱している。

・一方でKymriahは治療費が約5000万円、Yescartaも約4000万円と非常に高額となり、問題視されている。この原因の一つがどちらの治療法も患者さん自身の細胞を使う自家移植で行っているためである。しかし、他人の細胞を使う他家移植の場合、HLAが適合しないと免疫反応を惹起し、移植片対宿主病(GVHD)を引き起こすリスクが高い。

・そこでHLAマッチングを必要としない細胞を作るアプローチが進められている(前回紹介したUniversal Cellsも類似のアプローチを行っている一社)。Cellectisでは健康なドナーから得られたT細胞に対して、レンチウイルスでCARの遺伝子を導入するとともに、TALENという第2世代ゲノム編集技術(参考)をエレクトロポレーションで導入して細胞のT cell receptor α chainとCD52を欠失させることで、他家移植できる細胞の作製を行っている。

・1人の健常人のドナーから100人以上の患者さんの治療の細胞を製造することが可能とのこと。

パイプライン:

UCART19

CD19を認識するCARを発現する他家移植T細胞療法。すべてのB細胞に共通する細胞表面抗原であるCD19を認識するCAR-Tを用いて全てのB細胞を除去することで、B細胞に由来する血液がんを治療できる。ServierとPfizerが共同で臨床開発を行っている。

開発中の適応症

・Phase 1

難治性/再発性の急性リンパ芽球性白血病(ALL)

UCART123

急性骨髄性白血病(AML)や芽球形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)における標的細胞の表面抗原であるCD123(IL-3RA)を認識するCARを発現する他家移植T細胞療法。

開発中の適応症

・Phase 1

急性骨髄性白血病(AML)

芽球形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)

UCART22

B前駆細胞からB成熟細胞になるステージで発現するCD22を認識するCARを発現する他家移植T細胞療法。B細胞急性リンパ芽球性白血病患者さんの90%以上でCD22の発現が認められる。MD Anderson Cancer Centerとともに臨床試験を実施する準備を進めている。

開発中の適応症

・Phase 1(2018年後期に開始予定)

急性リンパ芽球性白血病

UCARTCS1

CS-1を認識するCARをを発現する他家移植T細胞療法。CS-1を発現する血液がんを対象とした臨床試験を予定している。MD Anderson Cancer Centerとともに臨床試験を実施する準備を進めている。

開発中の適応症

・前臨床試験段階

多発性骨髄腫

UCART38

CD38を認識するCARをを発現する他家移植T細胞療法。CD38を発現する血液がん(多発性骨髄腫、T細胞急性リンパ性白血病、非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫)を対象とした臨床試験を予定している。MD Anderson Cancer Centerとともに臨床試験を実施する準備を進めている。

開発中の適応症

・前臨床試験段階

T細胞急性リンパ性白血病

最近のニュース:

Allogene Therapeuticsは、2014年にCellectisとPfizerが締結した他家移植CAR-T療法に関する共同研究契約を引き継ぐことを発表。Allogene Therapeuticsは血液がん、固形がんにおける他家移植CAR-T療法の開発を行っているベンチャーでPfizerなどが出資している。

コメント:

・UCART19についてはB細胞急性リンパ性白血病の2人の小児へ投与され28日以内の分子的寛解が認められたことを2017年1月に報告している(参考)。

・自家移植CAR-T療法のコストダウンはなかなか難しそうなので、他家移植CAR-T療法がそれほど大きな副作用なく治療可能であれば、今のCAR-T療法はほとんど置き換わる可能性がある。

キーワード:

・他家移植細胞療法(CAR-T療法)

・血液がん

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

最新記事

すべて表示

Surface Oncology (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第144回)ー

がん微小環境において免疫を抑制している免疫細胞やサイトカインに着目し、抗体医薬品によってがん免疫の抑制阻害する治療薬の創製を目指すバイオベンチャー。パイプラインに多くの候補品を持つ。 ホームページ:https://www.surfaceoncology.com/ 背景とテクノロジー: ・患者さん自身の免疫機能を調節することでがんを治療するがん免疫の領域にはさまざまなアプローチによる新たな治療法が開

Arkuda Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第143回)ー

ライソゾーム機能の低下と神経変性疾患の関係に着目した創薬を行っているバイオベンチャー ホームページ:https://www.arkudatx.com/ 背景とテクノロジー: ・ライソゾームに局在する酵素の欠失によって起こる病気として遺伝子変異疾患であるライソゾーム病が知られているが、最近の研究により神経変性疾患の一部においてもライソゾームの機能異常が原因である可能性が報告されてきている。ライソゾー

Audentes Therapeutics (San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第142回)ー

希少疾患に対してアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬の開発を行っているバイオベンチャー。現在課題となっているAAVの大量製造およびヒトへの高濃度投与に関して先行している。2019年12月アステラス製薬による買収が発表された。 ホームページ:https://www.audentestx.com/ 背景とテクノロジー: ・遺伝子治療のベクターとしてアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクタ

bottom of page