Codiak Biosciences (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第86回)ー
- Ken Yoshida
- 2018年10月27日
- 読了時間: 3分
エクソソームの産生・改変・精製・大量製造に関する独自技術を用いて、がん免疫療法・自己免疫疾患などの治療法開発を目指すバイオベンチャー
ホームページ:http://www.codiakbio.com/
背景とテクノロジー:
・生体内において細胞が放出する細胞外小胞、エクソソームは、元々は細胞内のゴミを排出する機構であると考えられていたが、近年、細胞間のコミュニケーションツールとして働いていることが明らかになってきた。エクソソーム内部にはmicroRNAなどの核酸、たんぱく質、脂質、炭水化物などが内包されており、放出された細胞から受け取る細胞に伝わり情報が伝達されている。
・このエクソソームを疾患治療に用いようとする試みが始まっている。イギリスのバイオベンチャーEvox Therapeuticsはエクソソームを薬物送達システム(DDS)として用いた創薬を行っている(参考)。
・Codiak Bioscienceではエクソソームを正確に改変し、製造する独自プラットフォームengExを保有している。
①エクソソームの中に特異的にペイロード(低分子・抗体・核酸・脂質・CRISPR/Cas・ウイルスベクターなど)を入れる技術を持つ。また、表面や内部に薬物を結合させたエクソソームを分泌する細胞を作ることが出来る技術を持つ。
②エクソソーム内に入れる分子を制御することによって、エクソソームを受け取った細胞の生物学的機能を変えることができる。
・エクソソームは組織指向性を持たせることができる。例えば静脈内投与されると肝臓に特異的に蓄積する。髄腔内投与すると脊髄に特異的に蓄積する技術を持つ。
パイプライン:
・STING(stimulator of interferon genes)
STING経路を活性化させる低分子化合物を運ぶエクソソームを用いて、自然免疫応答を刺激し、がんに対するT細胞応答を誘導する。
開発中の適応症
・IND申請準備段階
がん
・IL-12(インターロイキン12)
IL-12たんぱく質を運ぶエクソソームを用いて、Th1、CD8T細胞、NK細胞の活性化、インターフェロンγ産生増強などを活性化させることでがん免疫を誘導する。
開発中の適応症
・前臨床試験段階
がん
・KRAS siRNA
細胞増殖を促進する分子であるKRASの野生型KRASの発現を抑制するsiRNAを運ぶエクソソームを用いて、すい臓がんなどのがん細胞の治療を目指す。
開発中の適応症
・前臨床試験段階
がん
コメント:
・人工のリポソームに比べて、エクソソームは膜上にたんぱく質や脂質が含まれているため、より生体に対して自然であるため、免疫反応を惹起する可能性が低いことが考えられる。また、エクソソームの産生細胞の遺伝子改変により、エクソソームの膜表面分子などを変えることが可能で、これにより臓器指向性をコントロールできる可能性があるが、様々な臓器・細胞種に対する精密な指向性コントロールできる技術はまだまだ発展途上だろう。
・間葉系幹細胞や樹状細胞から得られたエクソソームには免疫抑制作用が期待される。一方、がん細胞から得られたエクソソームをワクチンとして用いることでがん免疫を誘導する作用も期待されている。これらについて、いくつか報告はあるが、実用化可能なレベルの効力なのだろうか。もし可能であれば細胞治療より安全性が高く、コスト削減可能な治療法確立が期待できる。
キーワード:
・エクソソーム
・薬物送達システム(DDS)
・がん免疫
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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