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Vesigen Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第200回)ー


エクソソームとは異なる細胞外小胞ARMMを用いたドラッグデリバリーシステムを開発しているバイオベンチャー。たんぱく質やmRNA、CRISPR/Casなどのペイロードの搭載技術を保有している。



ホームページ:https://www.vesigentx.com/


背景とテクノロジー:

・新しいモダリティの開発が進んでいるが、核酸医薬品(mRNA、アプタマーなど)、ペプチド医薬品、遺伝子治療製品(特にCRISPR/Casなど遺伝子サイズが大きい場合)などの一部のモダリティは、生体内の標的臓器の細胞内にそれをデリバリーする技術、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発が急務となっている。


・最近の研究では、エクソソソームを用いて全身注射により特定の標的組織に siRNA や miRNA を in vivo で送達する新しい方法が開発されてきている が、高分子であるタンパク質のエクソソームへの封入には課題が多い。ILIAS Biologicsでは、制御された可逆的なたんぱく質-たんぱく質間相互作用を介して可溶性蛋白質を細胞質に送達することができる、オプトジェニック分子を用いて設計されたエクソソソームシステムEXPLOR™(EXosomes for Protein Loading via Optically Reversible protein–protein interactions)を開発している(詳細はこちら)。


・細胞外小胞をDDSとして用いる技術を開発しているバイオベンチャーは上記のILIAS Biologics以外にもEvox TherapeuticsCodiak BiosciencesAruA Bioなどがあり、近年注目を集めている。一方でエクソソームのデリバリー効率や生産技術については、まだ実用化に課題が多いとされている(例:小胞の生成を制御できない、粗雑なパッケージング方法(エレクトロポレーションなど))。


・今回紹介するVesigen Therapeuticsは、エクソソームとは異なる細胞外小胞であるArrestin domain containing protein 1 (ARRDC1)-mediated microvesicles (ARMMs) を用いたDDS技術を開発しているバイオベンチャーである。


・ほ乳類細胞は、細胞外に様々なマイクロベシクルを分泌することができるが、その中でも特にエクソソームは、後期エンドソームの多胞性エンドソーム(MVB:エンドソーム膜上に形成される多胞体)に由来するものである。Vesigen Therapeuticsが開発しているARMMsは、direct plasma membrane budding(細胞膜から直接出芽する)という、エクソソームとは異なるメカニズムで作られる細胞外小胞である。ARMMは、CD63、LAMP1のような後期エンドソームマーカー(そしてエンドソームマーカー)を欠いている。これらの知見は、Gagや他のウイルスタンパク質を介したウイルスの出芽(例:HIV)とARMM形成の間に直接的な類似性があることを示唆している。


・ARMM の出芽には Arrestin domain containing protein 1 (ARRDC1)が必要であり、ARRDC1 は細胞質膜の細胞質側に局在し、テトラペプチドモチーフを介して ESCRT-I 複合体タンパク質 TSG101を細胞表面にリクルートし、外向きの膜の出芽を開始する。ARRDC1たんぱく質の過剰発現により、細胞内でのARMMの産生が増加する。これにより、生物学的製造法を用いたARMMの制御された生産が可能になる。


・ARMM内には、たんぱく質、mRNA、CRISPR/Cas9分子など任意の分子をペイロード(積荷)として搭載させる技術が開発されている。

A. たんぱく質を搭載する場合

ARMMのペイロードとなるたんぱく質とARRDC1との融合たんぱく質をほ乳類細胞に発現させることで目的たんぱく質を搭載したARMMsが形成され、細胞外に放出される。p53たんぱく質とARRDC1の融合たんぱく質をHEK293T細胞に発現させ、培養上清から回収された細胞外小胞ARMMをp53ノックアウトマウスに静脈内投与すると、p53ノックアウトマウスの脾臓、胸腺では障害されている放射線誘発性アポトーシスが回復する。つまりp53たんぱく質搭載ARMM投与によって脾臓、胸腺の細胞におけるp53のたんぱく質の機能発現が確認されている。

B. mRNAを搭載する場合

stem-loop-containing trans-activating response (TAR) エレメントを含むRNAと特異的に結合できるたんぱく質transactivator of transcription (Tat) を利用する。TatのTARエレメント認識ペプチドとARRDC1の融合たんぱく質、TARエレメントを含むmRNAの2つをほ乳類細胞に発現させることで任意のmRNAを搭載したARMMが形成され、細胞外に放出される。GFP mRNAを搭載したARMMをA549細胞に添加するとGFPたんぱく質の発現が確認されている。

C. CRISPR/Cas9を搭載する場合

Cas9たんぱく質はおよそ160 kDaとサイズが大きいため、ARRDC1とCas9の融合たんぱく質ではなく、①ARRDC1とPPXYモチーフを持つたんぱく質と、それとは別に②PPXYモチーフと特異的に結合するWWドメインとCas9たんぱく質の融合たんぱく質、さらに③ガイドRNAをほ乳類細胞に発現させる。するとCas9たんぱく質、ガイドRNAを搭載したARMMが細胞外に放出される。GFP配列を認識するガイドRNA、Cas9たんぱく質を搭載するARMMをGFP発現細胞に添加すると、一部の細胞においてGFPが発現しなくなることが確認されている。


・ARMMsプラットフォームは、エクソソーム、LNP、浸透性ペプチド、ウイルス送達システムよりも以下のような点にベネフィットがある。

A. 生体内で観察される広い組織分布

B. ペイロード(ARMMsに入れる分子)とデリバリー技術の単一プロセスでの生産

C. 上流・下流の共通プロセス技術を用いたスケーラブルな生産システム

D. 幅広い治療クラスへの応用が可能な優れた技術性


パイプライン:(詳細未開示)

・中枢神経系

現状、中枢神経系特にニューロンに送達させる技術はハードルが高い。ARMMsを用いて、治療薬がない中枢神経系疾患創薬を行っている。


・眼疾患

現状、眼疾患治療のための全身デリバリー、局所デリバリーは不十分で、忍容性に問題がある。硝子体内投与は侵襲性が高く、医者によってしか投与できない。ARMMsを用いて、これらの課題を解決できる眼疾患創薬を行っている。


・がん

がん領域には、すでにvalidateされているが、治療薬のない細胞内ターゲット分子が多数ある。ARMMsを用いて、特異性の高い治療薬をがん細胞の細胞質に送達させる創薬を行っている。



コメント:

・機能面でのエクソソームとARMMとの違いは不明だが、後期エンドソームからリソソームへの分解機構へ向かう可能性があるエクソソームより細胞膜周辺で出芽するARMMの方が生産効率を高められると考えているとのこと。生物製剤は、生体内の機構を利用しているために副作用が少ない可能性は十分にあるが、生産・製造技術に課題がある場合がほとんど。ARMMプラットフォームがその点を解決できるのであれば、ベネフィットはあるかもしれない。しかし、生物学的同等性をどうやって担保するのかなどの課題はエクソソームと同様となるかもしれない。


・安全性の懸念が全くない訳ではない。細胞から分泌されたARMM中にどんな内在性分子(miRNAやたんぱく質?)が含まれているのか分かっていないし、ARRDC1やTatが生体内で問題にならないかどうかの検証は必要になる。


・CRISPR/Casをどうやって生体内にデリバリーするのかという課題に対する解決策を持っているため、CRISPR/Casのin vivo治療法を開発しているCRISPR TherapeuticsIntellia TherapeuticsEditas Medicineなどは興味を持っているのかもしれない。


・ARMMを静脈内投与した場合に、どの細胞に指向性を持つのか?また、どうやって目的細胞への指向性をもたせるのか?という点が今後のポイントになってくるのではないだろうか?p53ノックアウトマウスを用いた実験では静脈内投与で胸腺や脾臓へのデリバリーが確認できているようだ。


キーワード:

・薬物送達システム(DDS)

・細胞外小胞

・CRISPR/Cas


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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