top of page
検索

Vaxart (South San Francisco, CA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第175回)ー

更新日:2020年8月15日


新型コロナウイルス感染症COVID-19に対する経口ワクチンを開発しているバイオベンチャー。小腸に届く錠剤で、粘膜免疫を誘導するメカニズムのワクチン技術を持つ。



ホームページ:https://vaxart.com/


背景とテクノロジー:

・新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対するワクチンの開発が進んでいる。ModernaBioNTechが開発を進めているのが、脂質ナノ粒子にSARS-CoV-2のスパイクたんぱく質のmRNAを内包させたmRNAワクチンで、抗原となるたんぱく質のDNA配列がわかっていれば作製可能なため、開発スピードが早く、2020年7月段階ですでにPhase III治験がスタートしている。


・ただ、承認されているワクチンの中にmRNAワクチンはないため、ワクチン技術としては未知数の部分が多く、実際に効果を示せるかどうかは未確定である。そのため、mRNAワクチン以外にもさまざまなアプローチが取られている(ワクチンタイプの詳細はMedicago紹介ページに記載)。


・今回紹介するVaxartが作っているワクチンはアデノウイルスベクターを用いたワクチンで、同じアデノウイルスベクターを用いたSARS-CoV-2ワクチンとしてはCansino Biologicsや、オックスフォード大学/アストラゼネカなどが開発を行っているが、Vaxartのワクチンは同じアデノウイルスベクターワクチンだが、経口ワクチンであるという点が異なり、特徴となっている。


・開発中のSARS-CoV-2ワクチンのほとんど、そして、承認されているSARS-CoV-2以外のワクチンの多くも、注射によって投与され全身性免疫を誘導するワクチンである。ModernaBioNTechCansino BiologicsMedicagoINOVIOらはどれも全身性の免疫を誘導することを目的としている。一方で、Vaxartのワクチンは錠剤型のワクチンで、口から投与され、小腸の粘膜から作用し、粘膜免疫を誘導するという他の新型コロナウイルスワクチンとは異なるアプローチを取っている。


・粘膜免疫とは、腸管を中心とする体の粘膜のバリア機能で、口から入ってきた細菌などから体を防御する役割を担っている。粘膜には生体内の免疫細胞の6〜7割が分布しており、全身免疫系にも影響を与えている。腸管に到達した外来抗原はパイエル板のM細胞によって取り込まれ、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞に送られ、その後B細胞、T細胞に提示される。刺激を受けたB細胞やT細胞は全身循環に入った後、再び全身の粘膜に分布する。B細胞から分泌されるIgAは、上皮細胞で産生される分泌片と結合して分泌型IgAとして粘膜面に分泌される。そして、侵入したウイルスや細菌、アレルゲンなどを認識し、これらを排除する。


・粘膜免疫を利用したワクチンは、粘膜免疫のみならず全身免疫も誘導できると考えられている。


・粘膜免疫を利用した経口ワクチンとしては、現在日本で承認されているのは経口ポリオワクチン(弱毒生ワクチン)のみだが、海外においてはロタウイルス、コレラウイルス、腸チフスなどが承認されている。


・Vaxartの経口ワクチンは複製できないように遺伝子改変したアデノウイルス5型ベクターを用いている。アデノウイルスのゲノム中に、抗原となる標的ウイルスのたんぱく質をコードするDNAを組み込むことで、アデノウイルスベクターが小腸の粘膜上皮細胞に取り込まれると抗原たんぱく質を発現し、免疫を誘導する。アデノウイルスのゲノム中には抗原の遺伝子ともう一つ、アジュバント(自然免疫を賦活化する分子)として Toll-like receptor 3アゴニスト をコードするDNAを組み込み、小腸において抗原と一緒に発現させることで、ワクチンの効果を高める。Vaxartではこの独自技術をVAAST™(Vector-Adjuvant-Antigen Standardized Technology)デリバリープラットフォームと名付けている。


・Vaxartの経口ワクチンは錠剤化されていて、錠剤表面をコートすることで胃酸からは守られ、小腸に送達するように製剤化されている。錠剤が飲めない幼児や老人のための液剤化も開発中である。Vaxartの経口ワクチンの長所は以下の通り

1.室温で安定な錠剤

2.幅広く持続的な免疫応答

3.独自の製造プロセス、基本的に同一なVaxartのワクチン製造技術

4.最先端の組み換え技術


パイプライン:

ノロウイルス2価予防ワクチン

錠剤の経口ワクチン。ノロウイルスは小腸に感染する病原体であるため、血液中を循環する全身抗体に加え、腸内で局所的に粘膜抗体を産生するワクチンの方が、注射ワクチンよりもノロウイルス感染症を予防できる可能性があると考えられる。GI.1ノロウイルス株をベースとした1価経口錠剤ワクチンの2つの第1相臨床試験を完了しており、ノロウイルス錠剤ワクチンは忍容性が高く、全身および粘膜の幅広い免疫応答が得られることが実証されている。

開発中の適応症

・Phase I

ノロウイルス予防


季節性インフルエンザ予防ワクチン

H1インフルエンザ予防のための錠剤の経口ワクチン。Janssen Vaccines & Preventionとの共同開発。

開発中の適応症

・Phase II(1価)

季節性インフルエンザ予防

・Phase I(4価)

季節性インフルエンザ予防


ユニバーサルインフルエンザ予防ワクチン

どのタイプのインフルエンザウイルスにも効果を持つワクチン。Janssenとの共同開発。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

インフルエンザ予防


RSウイルス予防ワクチン

Respiratory syncytial(RS)ウイルス感染症予防のため経口ワクチン。改変していないRSV融合タンパク質(Fタンパク質)を抗原としている。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

RSウイルス感染症予防


COVID-19予防ワクチン

新型コロナウイルス感染症COVID-19予防のための経口ワクチン。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

新型コロナウイルス感染症COVID-19


ヒトパピローマウイルス感染症治療ワクチン

HPV-16とHPV-18の両方を標的とした治療ワクチン。

開発中の適応症

・前臨床研究段階


最近のニュース:

Jannsenの独自抗原を含むいくつかの抗原のユニバーサルインフルエンザ経口ワクチンをVaxartが製造し、前臨床試験を行う共同研究契約をJanssen Vaccines & Prevention B.V.と締結。


コメント:

・新型コロナウイルスSARS-CoV-2は呼吸器の粘膜から感染すると考えられているため、粘膜免疫を誘導するVaxartの経口ワクチンは、より良いワクチンになる可能性が論理的には考えられる。


・これまでの経口ワクチンとしては弱毒化したウイルスそのものを投与する生ワクチンばかりで、Vaxartのような、標的ウイルスの抗原(+アジュバント)を発現するアデノウイルスベクターによる経口ワクチンは私の知る限りはまだないと思われる。もしこの方法が強い効果を持つなら、投与も簡単で、非常によいワクチンだが、果たして十分な効果が得られるのだろうか。


キーワード:

・新型コロナウイルス感染症COVID-19

・経口ワクチン

・アデノウイルスベクター

・ユニバーサルインフルエンザワクチン


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても筆者は責任をとれません。よろしくお願いします。

bottom of page