
新型コロナウイルスSARS-CoV-2のワクチン開発をリードする中国のバイオベンチャー。エボラウイルスのワクチンなどを上市済み。
ホームページ:http://www.cansinotech.com/
背景とテクノロジー:
・新型コロナウイルス感染症COVID-19のパンデミックによってワクチン開発が急務となり、世界の創薬企業が開発を行っている。Moderna、BioNTech、CureVacは、mRNAを用いた新型コロナウイルスSARS-CoV-2ワクチンの開発を行っている。mRNAワクチンには以下の利点・欠点がある。
mRNAワクチンのメリット
①mRNA投与による治療はDNAのように細胞核まで到達する必要がなく、細胞質に入れば翻訳される。またゲノムに組み込まれるリスクも少なく、永続的に発現し続ける可能性も少ない。
②mRNAは合成可能であり、通常のワクチンのような生物製剤よりも迅速かつ安価に製造できる。またウイルスそのものではなく一部のたんぱく質を発現させるため、製造・保存・投与時のリスク・留意事項(温度管理など)が少ない。
③アジュバントがなくても自然免疫を活性化できる。
mRNAワクチンのデメリット
①私が知る限りmRNAワクチンで承認されたものは今のところない。そのため十分な効力があるか、長期的な効果があるかなどの未知数な部分が多い。
②どのたんぱく質を発現するmRNAにするかを選ばなければならず、選択次第では体内のウイルスを除去できない可能性がある。
・そのため、他のアプローチを検討している、もしくは開発をスタートさせている機関もある。まだアイデア段階だと思われるが、SARS-CoV-2の変異株の中に、病原性の低い株(弱毒株)が見つかってきている。これを投与する弱毒株ワクチンというアプローチである(参考)。SARS-CoV-2の不活性化したワクチンというアプローチもある(不活性化ワクチン)。弱毒株ワクチンには以下の利点・欠点がある。
弱毒株ワクチンのメリット
①ワクチンのアプローチとしては古くからあるアプローチであり、進め方がわかっている。
②すでに弱毒株が同定されている。
弱毒株ワクチンのデメリット
①生産方法が確立されていない。
②生物製剤になるため製造に時間がかかり、コストもかかる可能性が高い。
③弱毒株の免疫で、全てのSARS-CoV-2のワクチンとなるかが未知数。
④SARS(重症急性呼吸器症候群)や風邪を引き起こすコロナウイルスの免疫は1〜2年で免疫が落ちてしまうと報告されている。この方法も同じ結果になる可能性がある(アジュバントと共投与なら大丈夫な可能性も?)。
⑤人によっては弱毒株ワクチンで重篤化してしまう可能性がある。
・今回紹介するCanSino Biologicsのアプローチは上記の2つの方法と異なるアプローチである。これは風邪やプール熱(咽頭結膜炎)を引き起こすウイルスであるアデノウイルスを改変したワクチンである。通常のアデノウイルスはヒトの体内で増えてしまうが、体内では複製不可能で、目的のたんぱく質を発現するようにしたアデノウイルスを用いる。具体的には5型アデノウイルスを用いてSARS-CoV-2のたんぱく質を発現させることで新型コロナウイルス感染症COVID-19の免疫を獲得させるという方法である。アデノウイルスベクターワクチンには以下の利点・欠点がある。
アデノウイルスベクターワクチンのメリット
①アデノウイルスは実験などでベクターとして用いられている。また、中国では2003年にがん治療薬Oncorine(腫瘍溶解性ウイルス)として承認されている。日本においても開発中(テロメライシン)。
②非常に高い遺伝子発現。
③製造方法が確立されている。
④アデノウイルスそのものに免疫活性化作用がある
アデノウイルスベクターワクチンのデメリット
①生産に難がある(高コストで時間がかかる)。
②タイプによっては中和抗体を持つひとがいる可能性がある(参考)。
③細胞傷害性、ウイルスベクターへの免疫がワクチンの効果に影響を与える可能性がある。
・CanSino Biologicsは、SARS-CoV-2に対するワクチン以外にもいろいろなワクチンを開発しており、アデノウイルス以外にも複数の独自技術を持っている
①アデノウイルスをベースとしたウイルスベクターワクチン技術
上記
②結合たんぱく質ワクチン技術
ウイルス表面の多糖体への免疫を促す場合、多糖体の単体では抗原認識されにくいため、たんぱく質(キャリア)に多糖体を結合させて抗原性を高める。例えば、肺炎球菌ワクチンのプレベナーは、ジフテリアトキソイドをキャリアたんぱく質とし、肺炎球菌の莢膜多糖体をキャリアたんぱく質と結合させることで莢膜多糖体への免疫を誘導する(トキソイドとは細菌の産生する毒素を取り出し、免疫を作る能力は持っているが毒性は無いようにしたもの)。CanSino Biologicsでは、CRM197(非病原性ジフテリアたんぱく質)を含む多くのキャリアたんぱく質を保有しており、独自の細菌株を用いて高い生産能力を持っている。また結合プロセスにも独自ノウハウを保有している。
③たんぱく質構造設計技術とリコンビナント技術
たんぱく質構造設計技術を用いて、肺炎球菌タンパク質抗原の設計を行っている。また、新世代百日咳ワクチンを製造するための新規組換え株の開発を行っている。加えて、独自の細胞株を開発し、ウイルスベクターの製造に利用している。
④製剤化技術
Cansino Biologicsの培地には動物成分が含まれておらず、最終製品製剤には望ましくないフェノールや防腐剤が含まれていない。このような特性により、一貫した製品品質を確保し、副作用のリスクを低減している。
パイプライン:
・Ad5-EBOV
アデノウイルス5型ベクターをベースとしたエボラウイルス感染症ワクチン。組換え複製欠損型のヒトアデノウイルス5型ベクターに免疫反応を誘導させることでエボラウイルスを予防する。2017年10月に中国で初めて承認されたエボラウイルスワクチンであり、緊急時の使用や国家備蓄用として使用されている。安定性に優れており、超低温保存条件を必要としない。
開発中の適応症
・上市済み
エボラウイルス感染症予防
・MCV2
髄膜炎菌N. meningitidesの予防に使用されるワクチン。
開発中の適応症
・上市済み
髄膜炎球菌予防
・MCV4
髄膜炎菌N. meningitidesの予防に使用されるワクチン。
開発中の適応症
・上市済み
髄膜炎球菌予防
・DTcP(乳幼児)
現行の百日咳予防ワクチンに比べて効果の強いベストインクラスの百日咳予防ワクチン。副作用が少なく、免疫原性が安定している。
開発中の適応症
・Phase I
百日咳予防
・DTcPブースター
百日咳ワクチンの予防する防御力の弱さに対応したワクチン(ブースター)。一次予防接種後の子ども(4歳〜6歳)を対象としている。
開発中の適応症
・Phase I
百日咳予防
・Tdcp Adolescent and Adult
思春期・成人向けの百日咳ワクチン。上記のDTcP(乳幼児)よりも破傷風トキソイド(TT)抗原を増やし、百日咳菌抗原およびジフテリアトキソイド抗原を減らしている。BoostrixやAdacelなどの世界的なワクチンと比較して、より優れた製剤と免疫原性を有する。
開発中の適応症
・治験開始申請済み
百日咳予防
・PBPV
タンパク質をベースとする血清型に依存しない肺炎球菌ワクチン。既存の肺炎球菌ワクチンは血清型特異的であり、Prevnarは90以上の血清型のうち13個にのみ有効である。PBPVは、血清型非依存性であり、実質的にすべての肺炎球菌血清型をカバーする可能性があり、肺炎球菌疾患の予防に大きな効果を発揮することが期待される。
開発中の適応症
・Phase I
肺炎球菌感染症予防
・PCV13i
改良した肺炎球菌の結合型ワクチン。既存ワクチンに比べてキャリアたんぱく質と製造工程に改良を加えている。これにより前臨床試験において既存ワクチンより高い免疫原性が確認されている。
開発中の適応症
・Phase I
肺炎球菌感染症予防
・Ad5-nCoV(詳細不明)
アデノウイルス5型ベクターをベースとしたCOVID-19ワクチン。
開発中の適応症
・Phase II
新型コロナウイルス感染症COVID-19
最近のニュース:
Ocugenが開発しているOCU400(核内ホルモン受容体NR2E3の遺伝子変異による網膜変性疾患にたいしてNR2E3発現アデノ随伴ウイルスベクターを用いた遺伝子治療)のCMCおよび臨床開発用ウイルスの提供をCanSinoが行うパートナー契約を締結。CanSinoは承認後の中華圏における販売権も取得。
Vaccitechによって前臨床試験評価済みの帯状疱疹(herpes zoster)ワクチンについてCanSinoが製造を行い、イギリス、中国で共同で臨床開発を行う共同開発契約を締結。
コメント:
・地域によって偏りがあるようだが、アデノウイルスベクターによるワクチンは、アデノウイルスがヒト型の場合、すでに自然界のアデノウイルスに感染済みで中和抗体を保有しているヒトが多くいるケースがある。その場合、アデノウイルスを投与しても免疫で除去されてしまい、ワクチンが効果を持たない。そのため、イギリスのワクチン特化バイオベンチャーであるVaccitechはチンパンジーアデノウイルスOxford(ChAdOx)ベクターを用いている。
・COVID-19のワクチンではすでにPhase II治験がスタートしており、世界で1番早いスピードで開発が進んでいる。どのような結果がでるのか注目される。ただ、アデノウイルスベクターをベースとしているため、mRNAワクチンに比べて大量製造が難しい。そのため、例え効果が見られたとしても広く行き渡るのは難しいことが予想される。
・COVID-19は感染して回復しても再感染する症例が報告されている。これは、抗体が効かない可能性、感染しても抗体ができないを示しているが、自然に免疫を獲得する場合に比べて、ワクチンを用いた免疫獲得は、投与時に強力な免疫を誘導することから効果が得られる可能性がある。しかし、免疫が獲得しにくいウイルスである可能性もあり、ワクチンが効かない可能性も考えられる。
キーワード:
・ワクチン
・アデノウイルスベクター
・新型コロナウイルス感染症COVID-19
・エボラウイルス
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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