
新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対するDNAワクチンを開発しているバイオベンチャー。それ以外にもモノクローナル抗体をコードするDNA医薬品技術dMAb™という独自技術を持つ。がんワクチンの臨床開発も。
ホームページ:https://www.inovio.com/
背景とテクノロジー:
・新型コロナウイルス感染症COVID-19の治療薬としてGileadのレムデシビルがFDAより緊急使用許可を取得した(2020年5月2日)。これは米当局主導の臨床試験において、回復にかかった期間がレムデシビルの静脈内投与を受けた患者で平均11日だったのに対し、プラセボ群では15日だったことによる(参考)。
・その後、重症患者に対するレムデシビルの有効性を5日投与と10日投与で比較したところ、差がなかったという報告はあった(参考)が、今のところ、レムデシビルは回復期間の短縮以外の効果(死亡率低下など)の報告はない。
・これらの結果から、新型コロナウイルス感染症にはレムデシビルだけでは十分とは言えず、新たな治療薬が必要とされている。Vir Biotechnologyは、SARS-CoV-2のスパイクたんぱく質を認識する中和モノクローナル抗体VIR-7831、VIR-7832を開発している。
・新型コロナウイルスのパンデミックを解決するためには、上記の治療薬だけではなく、ワクチンの開発も必要である。治療薬は新型コロナウイルスに感染した人が回復するために必要となるが、感染が広まることを抑える効果は低いためである。感染が広まることを抑えるには、健康な人が新型コロナウイルスに感染することを抑制することが必要で、それにはワクチンを開発する必要がある。
・新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対するワクチン開発のアプローチとしてどんなものがあるのかは、Medicagoを紹介するブログに記載した(こちら)。世界のワクチン競争は、mRNAワクチンを開発しているModerna、BioNTech、アデノウイルスベクターワクチンを開発しているCanSino Biologicsなどが先行しているが、効果を持つワクチンを作るのは簡単ではない可能性がある。それはHIV(AIDSのウイルス)ワクチンが未だに完成していないことからもその可能性が推測される。mRNAワクチンやアデノウイルスベクターワクチンが必ずしもうまくいくとは限らないため、それ以外のアプローチも進めていく必要がある。
・今回紹介するINOVIOは新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対するDNAワクチンの開発を行っているバイオベンチャーである。ヒトパピローマウイルス(HPV)や、がん、感染症に対するDNA医薬品の開発を行っている。
・INOVIOでは以下の独自技術を開発している
①正確にデザインされたプラスミド(SynCon®)
INOVIOのDNA医薬品はSynCon®というプロセスによって作られる。SynCon®では、標的抗原のDNA配列を同定し最適化するための独自のコンピューターアルゴリズムを使っている。
②独自のスマートデバイス(CELLECTRA®)
DNA医薬品(プラスミド)は筋肉内もしくは皮内に投与される。投与には携帯型(手で持って操作できる)CELLECTRA®という独自のスマートデバイスを用いる。CELLECTRA®は短時間の電気パルスを発生させることで、可逆的に細胞に小さな穴を開け、プラスミドが細胞内(核内)に入るようにするためのデバイスである。
・CELLECTRA®で筋肉内もしくは皮内に投与されたプラスミドは、細胞内に入ると標的抗原を発現し、T細胞性免疫や抗体による免疫反応を惹起する。
・DNAワクチンの利点、欠点は以下の通り(Medicagoの背景とテクノロジー欄から転記)。
DNAは細胞核まで到達させる必要がある(RNAは細胞膜を透過して細胞質まで到達すれば発現する)。安定性、遺伝子導入効率を上げるために脂質ナノ粒子などに封入するケースも考えられる。
メリット 生物製剤ではないために製造が簡便で大量製造しやすい(ただし承認済みワクチンがないため認可済み製造施設がまだない)。研究、製造、輸送、保存、投与時に病原性ウイルスを扱う必要がない。常温保存可能。
デメリット ワクチンの免疫効果のために特殊な投与デバイスが必要となる。
・INOVIOではDNAによって発現させるモノクローナル抗体(dMAb™)という独自技術を持つ。抗体医薬品は製造に非常にコストがかかるが、DNA医薬品の形であればコストを減らすことができる。dMAb™は、特定のモノクローナル抗体のDNA配列をコードするプラスミドDNAを上記のCELLECTRA®デバイスを用いて投与する技術である。これにより、モノクローナル抗体をヒトの体内で生産させる。モノクローナル抗体以外にも2重特異性T細胞エンゲージャー(BiTEs)などにも応用可能である。
パイプライン:
・VGX-3100
子宮頸がんを引き起こすリスクが特に高いヒトパピローマウイルスHPV16、HPV18のE6/E7遺伝子をコードするプラスミドDNA。中国における開発は中国Apollobioとの共同開発。
開発中の適応症
・Phase II/III
・MEDI0457
子宮頸がんを引き起こすリスクが特に高いヒトパピローマウイルスHPV16、HPV18のE6/E7遺伝子をコードするプラスミドDNA。AstraZenecaとの共同開発。
開発中の適応症
・Phase I/II
頭頸部がん
・INO-3107
尖圭コンジローマの90%以上の原因となっているHPV6、HPV11のE6/E7遺伝子をコードするプラスミドDNA。
開発中の適応症
・Phase I/II
・INO-5401
WT1、PSMA、hTERTをコードするプラスミドDNA。REGENERONとの共同開発。
開発中の適応症
・Phase II
・INO-5151
PSA、PSMAをコードするプラスミドDNA。
開発中の適応症
・Phase II
前立腺がん
・PENNVAX-GP
HIVウイルスのGag、pol、env遺伝子をコードするプラスミドDNA。
開発中の適応症
・Phase I/II
HIV感染
・INO-4201
エボラウイルスの糖タンパク質遺伝子をコードするプラスミドDNA。
開発中の適応症
・Phase I
エボラウイルス感染症
・INO-4700(GLS5300)
MERS(中東呼吸器症候群)コロナウイルスのスパイクたんぱく質をコードするプラスミドDNA。
開発中の適応症
・Phase II
MERSコロナウイルス感染
・INO-4600(GLS5700)
Zikaウイルスの糖タンパク質遺伝子をコードするプラスミドDNA。
開発中の適応症
・Phase I
Zakaウイルス感染
・INO-4500
ラッサウイルス(ラッサ熱を引き起こすウイルス)の糖タンパク質遺伝子をコードするプラスミドDNA。
開発中の適応症
・Phase I
ラッサ熱感染
・INO-4800
新型コロナウイルスSARS-CoV-2のスパイクたんぱく質遺伝子をコードするプラスミドDNA。
開発中の適応症
・Phase I
新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染
・INO-A002
Zikaウイルスの糖タンパク質を認識するモノクローナル抗体遺伝子をコードするプラスミドDNA。
開発中の適応症
・Phase I
ジカ熱
最近のニュース:
新型コロナウイルスSARS-CoV-2ワクチンINO-4800の中国における臨床開発を中国Advaccine Biotechnologyと共同で行う契約を締結。
コメント:
・ワクチン開発プログラムのうちのいくつかにおいて、標的抗原を発現するプラスミドと一緒に、IL-12遺伝子をコードするプラスミドINO-9012を共投与している。これにより免疫反応を惹起することを目的としている。
・DNAワクチンはmRNAワクチンに比べて安定性に優れるため、長期の低温保存が難しい発展途上国などにおいて、特に有利になると思われる。一方で、DNAは細胞核まで導入されないと遺伝子発現しないため、特殊なデバイス(CELLECTRA®)を用いて投与しないといけないという欠点がある。また、DNAはmRNAに比べるとゲノムに組み込まれるリスクがあるため、がん化の可能性なども注意しないといけない。
・新型コロナウイルスのPhase II以降の治験は、以下のような課題がある
①感染が蔓延しているタイミングでないと非常に期間がかかる(もしくは組み入れ人数を増やす必要がある)。
②世界中でワクチン開発が進む中で、治験参加者(ワクチンの場合は健常人)の奪い合いが起こってくるだろう。
③政府からのサポートが得られる会社にとっては治験がスムーズに進むが、それ以外の会社にとっては治験進捗の課題になりそうだ。
キーワード:
・DNAワクチン
・新型コロナウイルス感染症COVID-19
・ヒトパピローマウイルス
・がん
・感染症
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても筆者は責任をとれません。よろしくお願いします。
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