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Design Therapeutics (Carlsbad, CA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第239回)ー

更新日:2021年11月28日

ゲノムDNAのリピート配列を認識する部分と、転写制御分子を認識する部分をリンカーでつないだ、ヘテロ2重機能性低分子化合物を用いて、リピート配列によって起こる遺伝性疾患を治療するGeneTAC技術を開発しているバイオベンチャー


ホームページ:https://www.designtx.com/


背景とテクノロジー:

・標的のたんぱく質を特異的にユビキチン化させて、プロテオソームによる分解を誘導するメカニズムの治療薬、たんぱく質分解誘導薬に注目が集まっている。この領域をリードするのはPROTAC(Proteolysis-Targeting Chimera)というたんぱく質分解誘導技術を用いたアンドロゲン受容体分解薬ARV-110を前立腺がんを適応にすでに臨床後期段階にあるArvinasである。その他にもC4 TherapeuticsKymera TherapeuticsNurix TherapeuticsCedilla Therapeuticsなどたんぱく質分解誘導薬を開発しているベンチャーは増加している。ファイザー、アストラゼネカ、ノバルティス、バイエルなどのメガファーマもこの領域の創薬を行っている。

・たんぱく質分解誘導薬は、ターゲットたんぱく質とE3ユビキチンリガーゼをつなぐ低分子化合物を投与することによって、ターゲットたんぱく質のポリユビキチン化を促し、病原となるたんぱく質の分解を誘導する技術である。PROTACは化合物内でターゲットたんぱく質を認識する部分と、E3ユビキチンリガーゼを認識する部分をリンカー部分でつないだ、ヘテロ多機能性低分子化合物である。一方でMolecular Glue(分子のり(糊))と呼ばれる技術は、ターゲットたんぱく質とE3ユビキチンリガーゼの相互作用を強化して分解を誘導する、PROTACと類似の技術である。Molecular Glueの創薬はMonte Rosa Therapeuticsが取り組んでいる。


・今回紹介するDesign Therapeuticsは、Protacと同様のヘテロ2価分子構造を持つ低分子化合物によって遺伝子の発現を誘導するというGeneTACプラットフォームを使って創薬を行っているバイオベンチャーである。GeneTACプラットフォームの化合物は、ゲノムDNAの特定配列に結合する部分と、内在性の転写制御たんぱく質に結合する部分をリンカー部分でつないだヘテロ多機能性低分子化合物となっている。つまり、特定のゲノムDNA配列部分に転写制御因子を近接させることで、遺伝子の発現を制御(回復もしくは阻害)するというコンセプトである。


フリードライヒ運動失調症などの特定のゲノムDNAリピート配列伸長疾患では、特定のmRNAの発現が低下する。また、DM1型筋強直性ジストロフィーフックス角膜内皮変性症ハンチントン病などの疾患では、ゲノムDNAリピート配列の伸長により毒性のある遺伝子産物が生成され、しばしば病的な核内フォーカスを伴う。


・GeneTAC分子の構造は、疾患の原因となるリピート配列の伸長部位に特異的に作用するように設計されており、変異対立遺伝子を標的として、細胞内の転写機構を調節することができる。その結果、細胞は遺伝子の発現を再開し、生理的に正常なタンパク質のアイソフォームを産生することができる。GeneTACプラットフォームの化合物多様性により、リピート数にかかわらず、特定のゲノムDNAリピート配列伸長をターゲットにしてGeneTAC分子を設計し、以下のような2つ方法で疾患に特有の遺伝子制御の機能障害に対処することができる。

転写の回復

伸長したゲノムDNAリピート構造によって内因性の転写機構が停止し、十分な量のたんぱく質が生成されない疾患では、GeneTAC分子をゲノム上の目的の遺伝子座に結合させ、内因性の転写機構に関与させ、完全長のプレmRNAを正常なレベルに回復させることを目的として設計することができる。例えば、遺伝子の非コード領域であるイントロンに、伸長したトリプレット・リピート(3塩基の反復配列)が存在するフリードライヒ運動失調症では、異常に長いヌクレオチド配列がプレmRNAからスプライシングされるため、既存の生理学的な制御にしたがって天然のたんぱく質アイソフォームが正常に産生されるようになる。

毒性のある遺伝子産物のレベルを下げる

別のタイプの反復配列伸長疾患は、転写プロセスによって毒性のある遺伝子産物(DM1型筋強直性ジストロフィー、ハンチントン病、フックス角膜内皮変性症 など)が蓄積され、場合によっては核内フォーカスが形成され、下流の細胞機能障害が多発する場合に生じる。このような場合、疾患を引き起こすには、伸長したリピートを含む対立遺伝子のコピーが1つあれば十分となる。GeneTAC分子は、異常に伸長したヌクレオチド・リピートを選択的に標的とし、正常な対立遺伝子の遺伝子発現を阻害することなく、下流の毒性遺伝子産物の形成を阻止し、細胞機能を回復させるように設計されている。

・GeneTAC低分子化合物の利点は以下の通り

①複雑な生物製剤と比較して、免疫反応を引き起こす可能性が低いため、忍容性が高いと考えられる。

②免疫原性が低いため、再投与の制限がない可能性がある。

③引き起こす反応は可逆的

④細胞の転写装置に作用するように設計されており、ゲノムを変化させない。

⑤転写の調節は、通常の生理的な転写後の制御およびたんぱく質翻訳の制御を維持することができる。

⑥疾患の原因となる変異部位に直接展開できるように設計されており、特異性と効力を高め、オフターゲット効果を最小限に抑えることができる。

⑦投与量を継続的に最適化できる

⑧特別なエンジニアリングやデリバリー技術を必要とせずに、標的臓器全体および細胞内への生体内分布を可能とする

⑨合成が可能であり、複雑なカスタマイズされた製造装置やプロセスを必要とせず、容易にスケールアップできる可能性があり、費用対効果の高い開発パスを提供できる。


パイプライン:

フリードライヒ運動失調症プログラム

フリードライヒ運動失調症は、ミトコンドリアのたんぱく質であるフラタキシンをコードするFXN遺伝子の第1イントロンにおけるホモ接合のグアニン-アデニン-アデニン(GAA)トリプレットリピートの伸長が原因で、95%以上の症例が発症する常染色体劣性の進行性疾患であるフリードライヒ運動失調症。脊髄小脳失調症、構音障害、錐体筋力低下、深部感覚障害、肥大型心筋症、骨格異常、および糖尿病を特徴とする。思春期に発症することが多く、成人期の早い段階で重度の障害が生じ、かなりの機能低下、車椅子への依存、生活の質の低下が見られる。罹患者の平均寿命は短く、多くの早死には心筋症の合併症が原因。フラタキシンの機能レベルを回復させることで、この疾患の遺伝的基盤に対処するよう設計されたGeneTAC低分子化合物を用いる。

開発中の適応症

・非臨床研究段階(2022年前半臨床試験開始予定)

フリードライヒ運動失調症


DM1型筋強直性ジストロフィープログラム

DM1型筋強直性ジストロフィーは、常染色体優性の単発性進行性神経筋疾患で、骨格筋、心臓、脳、その他の臓器に影響を及ぼす。その特徴は、筋力低下、筋緊張(筋肉の弛緩が遅い)、初期の白内障など。DM1は、DMPK遺伝子の変異によって引き起こされ、DM1 GeneTAC分子は、有害な遺伝子産物の発現を阻止し、その結果として核融合を防ぐことで、この疾患の遺伝的基盤を解決するように設計

開発中の適応症

・非臨床研究段階(2023年にIND準備試験を完了予定)

DM1型筋強直性ジストロフィー


その他

フックス角膜内皮変性症、脆弱性X症候群、脊髄小脳失調症、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、ハンチントン病、脊髄小脳筋萎縮症など、重篤なゲノムDNAの反復伸長を伴う単原性疾患での開発を進めている。


コメント:

・PROTACと同じようなヘテロ2重機能性低分子化合物を用いて、ゲノムDNAのリピート配列が原因となる疾患を治療しようという、独創性のある試み。低分子化合物のために薬物送達技術が不要という点が利点な一方、PROTACもそうだが、ヘテロ2重機能性低分子化合物は2つの機能性を持たせるために分子量が大きくなりがちという欠点がある。パイプラインには中枢神経系疾患が多いが、中枢移行性を持たせるには分子量が500以下が良いというハードルをクリアできるのだろうか?

・PROTACの場合、E3ユビキチンリガーゼを認識できる化合物構造があまり見つかっていないために、現状利用できるE3ユビキチンリガーゼが限られているという課題がある。Design Therapeuticsでは、転写制御因子を認識できる化合物構造がどの程度の種類(ターゲットである転写制御因子の数)見つかっているのだろうか?


・(2021年11月28日追記)知り合いの方に教えていただいたが、特許を確認すると、GeneTAC分子のゲノムDNAリピート配列を認識する部分は、低分子化合物というにはかなり大きいため、現状は経口投与ではなく局所投与とのこと。現状の技術では、ゲノムDNA認識部分はアンチセンスオリゴヌクレオチドで置き換えても変わらないくらい。


キーワード:

・ヘテロ2重機能性低分子化合物

・ゲノムDNAリピート配列

・遺伝性疾患


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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