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Monte Rosa Therapeutics (Boston, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第210回)ー


たんぱく質分解誘導技術Molecular Glueを用いたがん治療薬の創製を目指すバイオベンチャー


ホームページ:https://www.monterosatx.com/


背景とテクノロジー:

・標的のたんぱく質を特異的にユビキチン化させて、プロテオソームによる分解を誘導するメカニズムの治療薬、たんぱく質分解誘導薬に注目が集まっている。この領域をリードするのはPROTAC(Proteolysis-Targeting Chimera)というたんぱく質分解誘導技術を用いたアンドロゲン受容体分解薬ARV-110を前立腺がんを適応にすでに臨床段階にあるArvinasである。その他にもC4 TherapeuticsKymera TherapeuticsNurix TherapeuticsCedilla Therapeuticsなどたんぱく質分解誘導薬を開発しているベンチャーは増加している。ファイザー、アストラゼネカ、ノバルティス、バイエルなどのメガファーマもこの領域の創薬を行っている。


・たんぱく質分解誘導薬は、ターゲットたんぱく質とE3ユビキチンリガーゼをつなぐ低分子化合物を投与することによって、ターゲットたんぱく質のポリユビキチン化を促し、病原となるタンパク質の分解を誘導する技術である。PROTACは化合物内でターゲットたんぱく質を認識する部分と、E3ユビキチンリガーゼを認識する部分をリンカー部分でつないだ、ヘテロ多機能性低分子化合物である。一方でMolecular Glue(分子のり(糊))と呼ばれる技術は、ターゲットたんぱく質とE3ユビキチンリガーゼの相互作用を強化して分解を誘導する、PROTACと類似の技術である。


・たんぱく質分解誘導薬の代表とされる、サリドマイドの類縁体であるレナリドマイドは、E3ユビキチンリガーゼ複合体の構成要素であるCereblonを介して転写因子IKZF1およびIKZF3のユビキチン化とプロテアソームによる分解を亢進し,抗腫瘍効果を発揮する(論文1論文2)。このレナリドマイドは、PROTACのようなヘテロ多機能性低分子化合物ではなく、Molecular Glueに分類される。


・Molecular Glueは、E3ユビキチンリガーゼやターゲットたんぱく質との結合親和性は低いが、酵素の表面を変化させてたんぱく質-たんぱく質間相互作用を強化(安定化)することで、ターゲットたんぱく質とE3ユビキチンリガーゼの結合を可能にし、その後のターゲットたんぱく質のポリユビキチン化と分解を可能にする。PROTACのように、ターゲットたんぱく質とE3ユビキチンリガーゼの相互作用を導くのではないが、ヘテロ多機能性のために分子量が大きくなるPROTACと比べて、分子量が小さいために生体内での吸収、分布に優れる傾向があると考えられる。


・今回紹介するMonte Rosa Therapeuticsは、コンピューターなどを用いてMolecular Glueをデザインする技術プラットフォームを持ち、そのプラットフォームを用いた治療薬創製を目指すバイオベンチャーである。プラットフォームの内容は開示されていない


パイプライン:詳細未開示

GSPT1分解誘導薬

リボソームからのmRNAの放出を触媒する翻訳終結因子GSPT1の分解を誘導する低分子化合物(Molecular Glue)。Monte Rosa TherapeuticsではGSPT1が、c-Myc、l-Myc、n-MycといったMycファミリーのメンバーを発現しているがんの合成致死ターゲットであることを発見した。合成致死とは、2つの遺伝子の相互作用で、両方が不活性化されると細胞死を引き起こすことである。がん細胞において、一方の遺伝子が突然変異によって不活性化されている状態で、もう一方の遺伝子を薬剤によって機能停止することで再防止を誘導する。

開発中の適応症

・開発ステージ不明(2021年中にIND申請予定)

Mycファミリーが原因となっているがん


その他

DNAに結合して特定の遺伝子を「オン」または「オフ」にする転写因子たんぱく質を標的としたMolecular Glue。


コメント:

・PROTACと異なり、Molecular Glueは標的たんぱく質にアロステリックな変化(参考)を引き起こすことでたんぱく質ーたんぱく質間相互作用を強化(安定化)させる技術。アロステリックモジュレーターのデザインはPROTACに比べて技術的ハードルが高いが、たんぱく質の立体構造からコンピューターによるデザインによってそれを可能にしていると推測される。


・確かにPROTACはヘテロ多機能性分子のために分子量が大きくなり、分子量を下げると、標的たんぱく質への親和性が下がるというハードルがある。Molecular Glueはその点で有利だが、元々生体内でターゲットたんぱく質を分解しているE3ユビキチンリガーゼを見出し、その結合を安定化する低分子化合物を見つけてくるのは高い技術レベルを必要とする。Monte Rosa Therapeuticsは、それが可能な技術プラットフォームを保有しているとすれば優位点となるだろう。


キーワード:

・たんぱく質分解誘導薬

・Molecular Glue

・がん

・合成致死

・転写因子


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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