top of page
検索

Elicio Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第233回)ー

更新日:2021年9月5日

より強力にがん免疫を賦活化するために、がんワクチン抗原をリンパ節に特異的に分布させることができる独自DDS技術AMPプラットフォームを持つバイオベンチャー


ホームページ:https://elicio.com/


背景とテクノロジー:

ニボルマブ(抗PD-1抗体、商品名:オプジーボ)やキイトルーダ(抗PD-1抗体、商品名:ペムブロリズマブ)、イピリムマブ(抗CTLA-4抗体、商品名:ヤーボイ)などの免疫チェックポイント阻害薬が臨床で高い効果を示したことから、第4のがん治療法としてがん免疫療法が確立され、免疫をターゲットとした新たながん治療薬創製に注目と資金が集まっている。


・免疫チェックポイント阻害薬は、免疫系のブレーキを解除することによってがん免疫を活性化するアプローチだが、免疫を活性化することでがんを治療するアプローチも進められている。その一つが人工改変自家T細胞を用いたキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法である。これは患者さんから抽出した自家T細胞に対し、がん細胞の表面抗原を認識する人工受容体CARを体外で導入し、患者さんに戻すことで、この輸注したT細胞によってがん細胞を除去する治療法である。NovartisのKymriahやKite Pharma/Gilead SciencesのYescartaなどがあり、血液がんへの適用で承認されている。

・このように免疫を活性化することでがんを治療できることが臨床で示されてきているが、CAR-T細胞療法は、非常に複雑な工程のために高額な治療費が必要となる。また細胞改変には時間がかかるため、細胞改変中に患者さんの状態が変わってしまい治療法変更を余儀なくされることも多い。これらの課題を解決するための数々のアプローチが試されている。


・例えばBolt Biotherapeuticsは、HER2を標的とする抗体部分と 免疫刺激作用を持つTLR7/8を結合させた 複合体HER2-Immune-Stimulating Antibody Conjugates(ISAC)を開発している。これは全身投与でもHER2を発現するがん周辺部でのみ自然免疫を活性化することができるというコンセプトの創薬である。


・今回紹介するElicio Therapeuticsは、低分子、核酸、ペプチド、たんぱく質など様々な薬剤のリンパ節での曝露を増やすことで、免疫賦活能力を高めることができるモダリティ技術AMPプラットフォームを開発しているバイオベンチャーである。マサチューセッツ工科大学(MIT)で独自に開発されたAMPプラットフォームは、がん、感染症、その他の疾患の適応症にわたって幅広い可能性を秘めているとElicio Therapeuticsは考えている。


・リンパ系は、B細胞とT細胞の両方の産生、分化、増殖に大きな役割を果たしており、リンパ節は、リンパ球の活性化と必須機能の獲得に重要な役割を果たしている。リンパ節は全身に存在し、リンパ管のルート上に様々な間隔で存在し、T細胞もB細胞も抗原提示細胞(APC)とともに集まる。組織に由来する抗原やその他の生体分子を含むリンパ液は、リンパ節に排出され、そこで免疫細胞と接触する。リンパ節にいるAPCなどの免疫細胞は、常にリンパ液を採取し、組織内に潜在する脅威の兆候を探している。APCは、これらの手がかりをリンパ節内のリンパ球に提示し、獲得免疫反応の細胞が適切に標的化された機能的な防御反応を展開するように指示する見張りの役割を果たす。適切な特異性と機能性を備えたリンパ球が活性化されると、獲得免疫反応の始まりとなり、疾患に特異的で機能的に成熟した多数のリンパ球が増殖し、展開される。活性化されたリンパ球は、リンパ節内でAPCと十分に相互作用した後、リンパ節を出て、最終的には血流に入り、全身に分布して、疾患部位に蓄積される。重要なのは、リンパ節に存在する免疫細胞間で伝達されるシグナルが、免疫反応を調整し、発生した反応の大きさ、効力、持続性、機能性、特異性、記憶能力を決定することである。


・ワクチン成分や免疫調整剤として一般的に使用されている低分子の多くは、組織内に注射された部位の血管壁を容易に通過し、リンパ節に入ったり、リンパ節内に関与したりすることなく、全身循環に速やかに回ってしまう。そのため、従来の抗原や免疫調整物質は、リンパ節に存在するAPCやB細胞、T細胞に検出されにくく、免疫反応を最適に刺激することができず、病気を取り除く効果が低くなってしまう。一方、たんぱく質のような大きな分子は、組織内の小血管にある孔を通過できず、リンパの流れに乗って組織からリンパ節に運ばれてしまう。AMPプラットフォームは、この大きな分子の能力を利用して、治療目的のペイロード(積荷)をリンパ系に送達するように設計されている。


・AMPプラットフォームは、大分子と小分子のリンパ系での移動経路の違いを利用して、様々な薬剤のリンパ節での曝露を増やすことで、免疫賦活能力を高める。また、AMPプラットフォームはモジュールの組み合わせ(ビルディングブロックのような形)を採用しており、ペプチド、たんぱく質、核酸、低分子など、さまざまな治療法への応用が可能である。AMPの構成は、アルブミン結合脂質、治療ペイロード、およびオプションのリンカーで構成されており、大きな高分子の効率的なリンパ行路を模して設計されており、リンパ節に優先的に蓄積し、そこで免疫細胞を活性化して、反応の大きさや機能の質など、防御免疫反応の主要な特徴を指揮することができる。本来、リンパ節へのアクセスが悪い免疫賦活剤にAMP戦略を適用すると、リンパ節への取り込みを促進し、主要な免疫細胞への作用を高めるように、生体内分布を効果的に再プログラムすることができる。この基本的なメカニズムの違いを製品候補のポートフォリオ全体に適用することで、リンパ節に最適に作用する免疫療法を開発し、現在承認されている免疫療法の治療上の限界を克服し、研究開発中の特定の免疫療法プログラムを可能にすることができる。AMPプラットフォームの3つのコアコンポーネントの詳細は以下の通りである。

アルブミンを標的とした結合媒体

内因性アルブミンへの注射部位における結合は、脂肪酸鎖を組み込むことで可能となる。この部分は、アルブミンに自然に結合する内因性の脂肪酸を模倣しており、アルブミンとの効率的な結合を可能にする最適な結合特性を提供し、目的のペイロードをリンパ節に送達するように設計されている。この成分の構造を実験的に改良することで、特定の鎖長と炭素-背骨の飽和度を持つ2鎖(ジアシル)の分子構成を選択し、リンパ節での生体内分布を高めるように設計した。

リンカー分子

AMPプラットフォームの2つ目のコンポーネントは、PEGから作られたリンカー分子で、アルブミン結合部位と治療用ペイロードをつなぐ。PEGベースのリンカーをAMPに組み込むことで、以下のような利点が得られる。その一つはAMPの親水性を高めることで、溶解性などの医薬品の特性を高めることができること。また2つ目は、リンカー分子は、治療薬がリンパ系を通過する際に酵素による分解から保護し、治療薬の送達特性をコントロールすることができる。

治療目的のペイロード

AMPは、低分子、核酸、ペプチド、たんぱく質など、さまざまな治療法に使用できるように設計されている。このように様々な種類の治療薬を、リンパ節に直接作用するAMPプラットフォームに合わせて設計することで、免疫系の活性化や刺激のための治療薬を柔軟に選択することが可能になる。さらに、免疫学的活性が証明されている、十分に特性化されたペイロードを使用することで、臨床的な治療反応を引き起こすことができる製品候補を、より迅速かつ確実に生み出すことができる。


パイプライン:

ELI-002

KRAS駆動型のがんをターゲットにしたAMP治療用ワクチン。ELI-002は変異KRASペプチド抗原をペイロードとするAMPと免疫刺激性オリゴヌクレオチドアジュバントをペイロードとするAMPであるELI-004から構成される。

開発中の適応症

・Phase I/II

大腸がん、膵管腺がん、非小細胞肺がん


ELI-004

TLR-9に依存した自然免疫の活性化を誘導し、その後ヒトの獲得免疫を誘発する機能を持つCpGを含むオリゴヌクレオチド(ELI-002ではアジュバントとして用いている)をペイロードとするAMP。分子サイズの小さいCpGをリンパ系に濃縮して保持するようにAMP修飾している。様々な適応症や治療法に応用できるユニバーサルAMP。

開発中の適応症

・Phase I

さまざまな適応症

ELI-011

AMPベースの免疫療法AMPlifier(詳細不明)とCD19 CAR-T療法の併用療法。併用することで有効性が向上することが期待される。

市販されているCD19特異的CAR-T療法の初期奏効率は高いものの、治療後、50%以上の患者でがんが進行してしまう。このような進行は、投与されたCAR-Tの拡張性や持続性の低さと関連していると考えられる。AMPプラットフォーム技術を用いたAMPlifierは、前臨床試験においてこの制限を克服するとともに、腫瘍へのトラフィッキングを改善し、サイトカイン産生の増加を促すために必要な、生成されたT細胞の機能的品質を向上させることが確認されている。


ELI-003

ALK駆動型のがんをターゲットにしたAMP。詳細不明。

開発中の適応症

・Phase I

ALK駆動型のがん


ELI-005

SARS-CoV-2を標的とした免疫反応を誘導するAMP。詳細不明。ELI-004もアジュバントとして用いられる?

開発中の適応症

・Phase I

COVID-19予防


コメント:

・一般的に、がんワクチンは成功確率が低いという臨床結果が多いが、このAMPプラットフォームを用いたがんワクチンはどうなのだろうか?免疫誘導が強いことは強みになるだろうが、結果が待たれる。


ModernaBioNTech/PfizerのCOVID-19用mRNAワクチンはリンパ節が腫れる現象が見られている。mRNAで十分な免疫賦活作用が見られるのであれば、AMPプラットフォームはmRNAワクチンと差別化できるかどうかがポイントになるだろうl.


キーワード:

・薬物送達システム(DDS)

・リンパ節へのデリバリー技術

・がんワクチン

・TLR9

・新型コロナウイルス感染症ワクチン


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

bottom of page