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Moderna (Cambridge, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第217回)ー


知らない人はいないかもしれない、ここ数年で一気に有名企業になったmRNAワクチンのバイオベンチャー。COVID-19ワクチン以外にもがんワクチン、治療薬なども開発中。


ホームページ:https://www.modernatx.com/


背景とテクノロジー:

・Modernaは本ブログでは2017年12月に紹介している(こちら。この時はModerna Therapeuticsという社名だった)。当時は新型コロナウイルスのパンデミック前であり、バイオベンチャーの中では有名企業ではあったが、よるある新興ベンチャーの一つにすぎなかった。しかし2020年1月に新型コロナウイルスによるパンデミックが起こり、その後、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の全ゲノム配列が報告されると、Modernaが最も早くワクチンを治験入りさせた。その後の治験の進行具合により、最終的なFDA承認はBioNTech/ファイザーに先を越されてしまったが、Modernaも2020年12月にFDAから緊急使用承認(EUA)を取得し、現在多くの人に接種されている。


・当初Modernaを紹介した際には、感染症のワクチンの会社というより、がんワクチンを開発している会社というイメージだった。しかし確かに後から考えてみれば、mRNAを用いた創薬が最もその力を発揮するのは新型コロナウイルスのようなパンデミックであり、迅速に創薬できることのメリットを最大限に活かした結果だと言える。そうであったとしても、1年以内にCOVID-19ワクチンを作り上げた創薬力にはただただすごいというよりほかない。


・mRNA創薬はさまざまなところで解説されているためで割愛する(おすすめ1おすすめ2おすすめ3おすすめ4)。


・アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターとの違いはいろいろあるが、大きな1つの違いとしては、これらのウイルスベクターはDNAウイルスのためプロモーターを搭載しており、搭載遺伝子を発現させる細胞を制限することが可能だ。しかし、mRNAはプロモーター制御ができない。そのため脂質ナノ粒子(LNP)の組成や、投与経路によって標的細胞を制御しなければいけない。ワクチンとして使用する場合は標的細胞を選ばないためにこの問題はないが、がんなど他の疾患にmRNAを応用する場合には課題となりえる(COVID-19ワクチンは筋肉内投与で、筋肉細胞で抗原(SARS-CoV-2のスパイクたんぱく質)を発現させている)。LNPでの標的細胞制御は、さまざまなアプローチが試みられているがまだ時間がかかりそうだ(参考)。


・Modernaが持つ独自技術プラットフォームの一つがmRNA Design Studio™である。これは、Modernaの科学者が新しいmRNAのコンセプトを生み出すと、独自のシステムを使って数日以内に研究や試験用のmRNAを設計することができる。Sequence Designerモジュールを使用すると、常に改善されている独自の学習に基づいて、5'-UTRからコーディング領域、3'-UTRまでのmRNA全体を調整することができる。その後、独自のバイオインフォマティクス・アルゴリズムを用いてmRNAの配列をさらに最適化する。


パイプライン:

mRNA-1273(Moderna COVID‑19 Vaccine)

新型コロナウイルスSARS-CoV-2のスパイクたんぱく質を発現するmRNAを脂質ナノ粒子で内包化した予防ワクチン。筋肉内投与。

開発中の適応症

・上市済み

新型コロナウイルス感染症COVID-19予防


mRNA-1647

サイトメガロウイルスの6種の抗原たんぱく質をコードするmRNAを用いた予防ワクチン。

開発中の適応症

・Phase II


mRNA-1653

ヒトメタニューモウイルス(下部呼吸器に感染するウイルス)に関連するウイルス抗原たんぱく質をコードするmRNAと、パラインフルエンザウイルス3に関連するウイルス抗原たんぱく質をコードするmRNAを1つのワクチンにまとめた多価ワクチン。

開発中の適応症

・Phase Ib

ヒトメタニューモウイルスとパラインフルエンザウイルス3の感染症予防


mRNA-1893

ジカウイルスのエンベロープたんぱく質prMEをコードするmRNAを用いた予防ワクチン。prMEを発現することでウイルス様粒子(VLP)が形成、放出されることで抗原となる。

開発中の適応症

・Phase I

ジカ熱予防


mRNA-1345

Respiratory Syncytial Virus(RSV)の表面にあるFたんぱく質のプレフュージョン構造の安定化したフォームをコードするmRNAを用いた予防ワクチン。ポストフュージョン構造に比べて優れた中和抗体を誘導する。Moderna独自のLNPを用いて内包化している。

開発中の適応症

・Phase I

RSV感染症予防


mRNA-1189

Epstein-Barr virus (EBV) の表面にある、細胞への感染に関わる5つの糖たんぱく質(gp350、gp42、gH、gL、gB)をコードするmRNAを用いた予防ワクチン。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

伝染性単核球症予防


mRNA-1010,mRNA-1020,mRNA-1030

Influenza A H1N1、Influenza A H3N2、Influenza B Yamagata lineage、Influenza B Victoria lineageの4株をカバーする、mRNAを用いた季節性インフルエンザの多価ワクチン

開発中の適応症

・非臨床研究段階

季節性インフルエンザ予防


mRNA-1644,mRNA-1574

広範囲に中和するHIV-1抗体を誘導するmRNAワクチン

開発中の適応症

・非臨床研究段階

HIV感染症予防


mRNA-1215

ニパウイルス(マレーシアで見つかった新規の脳炎ウイルス)のFたんぱく質のプレフュージョン構造フォームとGたんぱく質をコードするmRNAを用いた予防ワクチン。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

ニパウイルス感染症予防


mRNA-1851

インフルエンザウイルスの膜結合型のヘマグルチニン7(H7)たんぱく質をコードするmRNAを用いた予防ワクチン

開発中の適応症

・Phase I

インフルエンザ予防


mRNA-1944

チクングニア感染に対して強力な免疫を持つ患者のB細胞から分離された完全ヒトIgG抗体をコードするmRNAを用いた治療用抗体。Moderna独自のLNPで内包化している。

開発中の適応症

・Phase I

チクングニアウイルス感染症


mRNA-0184

心血管リモデリングに関連する血管作動性ペプチドであるrelaxinをコードするmRNAを用いた治療用たんぱく質。血管の過労を防ぎ、腎機能を高め、細胞の成長と生存を促進し、血管の構造を維持する。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

適応症不明


mRNA-6981

PD-L1をコードするmRNAを用いた治療用たんぱく質。ミエロイド細胞で発現させることでT細胞の活性化を抑制し免疫反応を抑制する。Moderna独自のLNPで内包化している。

開発中の適応症

・非臨床研究段階


mRNA-6231

持続効果を持つ変異IL-2をコードしたmRNAを用いた治療用たんぱく質。Moderna独自のLNPで内包化している。制御性T細胞の活性化・増殖を促すことで免疫反応を抑制する。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

自己免疫疾患


mRNA-4157

ネオアンチゲンを標的とした個別化mRNAがんワクチン。患者さんの生検サンプル(腫瘍組織、血液)から次世代シークエンサーを用いて同定した変異(ネオアンチゲン)、MHC情報を用いて自動アルゴリズムによりmRNA配列をデザイン(最大34個のネオアンチゲンをコードするmRNAワクチン)。LNPに内包化し静脈内投与されると、細胞内でたんぱく質により翻訳され、MHCとともに細胞膜上に抗原提示され、ネオアンチゲン特異的なT細胞を誘導、活性化する。単剤、もしくはキイトルーダとの併用療法(メルクとの共同開発)。

開発中の適応症

・Phase II

メラノーマ

・Phase I

固形がん


mRNA-5671/Merck V941

最も有名ながん遺伝子の一つですい臓がん、肺がん、大腸がんにおいて変異が見られることが多いKRASのネオアンチゲンを含むmRNAを用いたがんワクチン。筋肉内投与もしくは静脈内投与。

開発中の適応症

・Phase I

すい臓がん、肺がん、大腸がん


mRNA-2416

OX40LをコードするmRNAを用いたがん免疫活性化薬。OX40Lは抗原提示細胞が膜表面に発現しT細胞のOX40と結合することでT細胞刺激を活性化することでがん免疫を促進する。腫瘍内投与。免疫チェックポイント阻害薬Durvalumabとの併用療法。

開発中の適応症

・Phase I

難治性/再発性固形がん、リンパ腫

・Phase II

卵巣がん


mRNA-2752

OX40L(上記mRNA-2416参照)、IL-23、IL-36γ(両者とも炎症促進性サイトカイン)の3種をコードするmRNAを用いたがん免疫賦活化治療薬。腫瘍内投与。

開発中の適応症

・Phase I

難治性/再発性固形がん、リンパ腫


MEDI1191

炎症促進性サイトカインIL-12をコードするmRNAを用いたがん免疫賦活化治療薬。腫瘍内投与。免疫チェックポイント阻害薬Durvalumabとの併用療法。

開発中の適応症

・Phase I

固形がん


AZD8601

vascular endothelial growth factor-A (VEGF-A)タンパク質をコードするmRNAを用いた治療薬。血管新生を促進する。AstraZenecaとの共同開発。

開発中の適応症

・Phase II

心不全


mRNA-3927

プロピオニオニルCoAカルボキシラーゼのα、βサブユニットをコードするmRNAを用いた治療薬。ミトコンドリア内で働く酵素であるプロピオニオニルCoAカルボキシラーゼの活性低下によって、プロピオン酸をはじめとする有機酸が蓄積し、代謝性アシドーシスに伴う各種の症状を呈する常染色体劣性遺伝形式の先天代謝異常症であるプロピオン酸血症を適応症とする。

開発中の適応症

・Phase I/II


mRNA-3705

メチルマロニルCoAムターゼをコードするmRNAを用いた治療薬。ミトコンドリア内で働く酵素であるメチルマロニルCoAムターゼという酵素の異常のために体内にメチルマロン酸が蓄積する病気であるメチルマロン酸血症を適応症とする。

開発中の適応症

・非臨床研究段階


mRNA-3283

フェニルアラニンをチロシンに代謝するフェニルアラニン水酸化酵素をコードするmRNAを用いた治療薬。身体にフェニルアラニンが蓄積しチロシンが少なくなる比較的希な生まれつきの病気であるフェニルケトン尿症を適応症とする。

開発中の適応症

・非臨床研究段階


mRNA-3745

グルコース-6-リン酸を加水分解しグルコースを生成、輸送するグルコース-6-ホスファターゼ(G6Pase)をコードするmRNAを用いた治療薬。糖新生とグリコーゲンの分解が障害され、低血糖や肝腫大が生じる糖原病のIa型(原因遺伝子が G6Pase)を適応症とする。

開発中の適応症

・非臨床研究段階


最近のニュース:

腫瘍モデルにおける薬理学的データを含む有望な前臨床データに基づく2つの具体的ながん免疫治療プログラムに関し創薬、共同開発および共同商業化に関する提携契約を締結


新しい個別化mRNAがんワクチンの開発と商業化のためのパートナーシップを拡大。KRASがんワクチンであるmRNA-5671を含む共通抗原mRNAがんワクチンも含まれる。


嚢胞性線維症を治療するための遺伝子編集治療薬を送達するためのLNPおよびmRNAの同定および開発に関する共同研究契約を締結


コメント:

・BioNTech/ファイザーのCOVID-19ワクチンとModernaのCOVID-19ワクチンは、類似のものだろうと思っていたのだが、保存方法の違い(BioNTechは-80℃保管に対して、Modernaは-20℃前後で6か月間、2℃-8℃で1か月間保管することが可能)や、副作用に違いがある(ModernaワクチンはModerna Armという赤く腫れる炎症反応が出やすい(こちら))とのこと。今後のmRNA創薬のためにも、これらの違いが何によるのかの解明が待たれる。


・BioNTechもModernaもLNP技術についてあまり公開しないが、LNPの製造技術ノウハウはもちろんのこと、標的細胞への指向性(参考)や保存技術、安定した製造技術などLNPの改良余地は大きい。


・前回Modernaを紹介した際には、まだmRNAの承認薬はなかった。それが今回の新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対するワクチンによって、このmRNA技術が臨床で有効であることが証明された(おそらく新型コロナウイルスのパンデミックがなかったら臨床でのmRNA医薬品の効果は時間がかかっただろう)。mRNA医薬品は、臨床において十分な有効性と安全性を示すこと、臨床グレードの製造技術が確立しているという保証が得られたことから、今後のmRNA医薬品の発展が見込まれる。


キーワード:

・核酸医薬品

・mRNA

・がんワクチン

・感染症


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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