免疫賦活たんぱく質と抗体を組み合わせたISAC(Immune-Stimulating Antibody Conjugates)という独自技術で、がん周辺部で自然免疫を活性化させる新規がん免疫療法の開発を行っているバイオベンチャー
ホームページ:https://boltbio.com/
背景とテクノロジー:
・免疫チェックポイント分子であるPD-1やPD-L1、CTLA-4を標的として抗体医薬品(オプジーボ、キイトルーダ、テセントリク、バベンチオ、イミフィンジ、ヤーボイ)が、免疫抑制機能を阻害することで患者さん自身の免疫機能(T細胞)を活性化させる、がん免疫療法として効果を示すことが臨床で示されて以降、がん免疫分野の研究・開発が盛んになっている。
・がん免疫分野の新しいアプローチとしては、上記の免疫チェックポイント分子以外の新しい免疫チェックポイント分子を探索する方法が試みられており、Palleon Pharmaceuticalsもそのようなアプローチを行っているバイオベンチャーの一つである。
・免疫を賦活化することでがんを治療するアプローチとしては、既に承認されているものとしてIFNαやIFNγ、IL-2を投与するサイトカイン療法があるが、全身で投与すると、がんでない臓器でも免疫が活性化されてしまうために、強い副作用がでる懸念がある。
・今回紹介するBolt Biotherapeuticsは、全身投与でありながら、がん周辺部でのみ免疫を賦活化する抗体医薬品の独自技術Boltbody™を持つバイオベンチャーである。これは、がん細胞に特異的に結合する抗体部分と、Toll-Like Receptor(TLR)アゴニストのような強力な免疫刺激作用を持つたんぱく質を結合させた複合体ISAC(Immune-Stimulating Antibody Conjugates)である。これにより全身投与でもがん周辺部でのみ自然免疫を活性化することができる、新しいがん免疫治療が可能となる。
・全身投与してもがん周辺部にのみ集積して作用を持つという特長から、局所投与では届かないがんに対して有効であること、また転移がんへの効果が期待される。
・全身投与で血中に入ったISACは、がん細胞の表面抗原を特異的に認識する抗体部分で、がん細胞周辺に集積する。集積後は免疫刺激作用を持つ部分が、がん周辺部の樹状細胞を活性化することで、がん細胞が樹状細胞に貪食される。がん細胞を貪食した樹状細胞はリンパ節においてT細胞に抗原提示することで、がん細胞を認識するT細胞が活性化・増殖する。これにより、転移したがん細胞を含めた全身のがん細胞を患者さん自身の免疫細胞によって除去できる。
・また、ISACは抗体Fc 領域を持ち、ナチュラルキラー細胞や活性化マクロファージといったエフェクター細胞の膜表面上の Fc 受容体の 1つである Fc γ受容体 IIIa(Fc γ RIIIa)と結合できる。これによりADCC活性を併せ持つ。
・抗体薬物複合体(ADC)は、同様にがん細胞特異的な表面抗原を持つ細胞に細胞毒性を持つ薬物を届けることでがん細胞を殺す。一方、ISACはがん細胞を貪食した樹状細胞がT細胞に抗原提示することで、ISACで認識できるがん抗原以外のがん抗原(ネオアンチゲンなど)も認識するT細胞を活性化することができる。このため、より強い作用を持つことが期待される。また、T細胞による免疫記憶を誘導できることから、がんの再発を予防する効果も期待できる。
・非臨床モデルにおいて、ISACが認識できるがん抗原を持たないがん細胞に対しても効果を持つことが示されている。また、免疫記憶が成立することも確認している。
パイプライン:未開示
・ HER2 ISAC
HER2を標的とする抗体部分と 免疫刺激作用を持つTLR7/8を結合させた ISAC。単剤療法。非臨床研究においては、HER2抗体に対して抵抗性を持つがんに対しても効果を示している。
開発中の適応症
・非臨床研究段階(2020年初期での臨床入りを計画)
HER2陽性のがん
コメント:
・現在の免疫チェックポイント阻害薬は、基本的に標準の化学療法で効果を示さない患者さんに対して行われているが、化学療法によって免疫機能が落ちてしまっているケースが多い。そんなケースで免疫チェックポイント阻害薬を用いて免疫抑制を解除しても、落ちてしまっている患者さん自身の免疫が活性化できないことが少なくないとのこと。免疫機能が落ちている患者さんがISACによってどれほど免疫を賦活化できるのかは未知数だが、興味がある。
・ADCも同じだが、がん細胞の表面抗原として使える抗原はかなり限りがある。ISACでもトリガーはがん細胞の表面抗原に依存している。広いがんに適応するにはここがネックになるだろう。
キーワード:
・免疫刺激ー抗体複合体(ISAC)
・がん免疫
・TLR
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。