RNA編集酵素を利用しmRNAの配列を編集する技術とアデノ随伴ウイルスベクター技術を用いた遺伝性疾患への遺伝子治療法を開発しているバイオベンチャー
ホームページ:https://www.shapetx.com/
背景とテクノロジー:
・Intellia TherapeuticsによるCRISPR/Casゲノム編集技術を用いたin vivo治療法開発のPhase I途中経過が2021年New England Journal of Medicineに報告された(こちら)。それによると、トランスサイレチン(ATTR)アミロイドーシスに対する治験用CRISPR治療薬NTLA-2001の単回注入後、疾患の原因となるたんぱく質(血清中トランスサイレチン)の減少を示すデータが得られたとのこと。これはCRISPR/Casを用いたin vivoゲノム編集の臨床結果として初の報告となった。NTLA-2001の0.3 mg/kg単回投与により血清TTRが平均87%減少し、28日目には最大96%の血清TTR減少を示し、用量依存的な反応が見られた。また、忍容性、安全性が確認された。
・Intellia Therapeutics以外にも、CRISPR Therapeuticsや、Editas Medicineなどでゲノム編集の臨床試験が進行しているが、ゲノムDNAを改変するため、がんを引き起こすリスクが懸念されている。実際、Allogene Therapeuticsが行った他家CAR-T細胞療法の臨床試験ALPHA2において、TALENによるex vivoゲノム編集を行った患者さん1人の骨髄生検を行った結果、投与したALLO-501A CAR T細胞に染色体異常が認められた(一方で、類似の臨床試験を行っているCRISPR TherapeuticsのCTX110ではそのような現象は今のところ見つかっていない)。
・そこでゲノムDNAではなく、ゲノムDNAから転写されたmRNAに対して編集を行う技術の開発も試みられてきている。今回紹介するShape TherapeuticsはRNAに作用するアデノシンデアミナーゼ(ADAR)酵素とADARガイドRNA(adRNA)によるin vivoでの配列特異的なRNA塩基編集技術の臨床応用を眼剤しているバイオベンチャーである。
・アデノシンからイノシンへのRNA編集は、一般的な転写後RNA修飾であり、ADAR酵素によって触媒される。イノシンはアデノシンの脱アミノ化体であり、生化学的にグアニンとして認識される。adRNAは、標的RNA配列と相補的で、標的アデノシンの反対側にミスマッチのシチジンを持つプログラム可能なアンチセンス領域から構成されている。
・ADARは生体において広く発現しており、例えば、ADAR1はほとんどのヒト組織で、ADAR2は特に肺と脳で発現していることから、長いアンチセンスドメインを持つadRNAを介してこれらを内因的に動員するアプローチも考えられる。
・Shape Therapeuticsでは、神経系や筋肉に直接遺伝物質を送り込むAAVベクターを開発している
・非臨床研究では、デュシェンヌ型筋ジストロフィーモデルマウスやオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損マウスにおいて、この技術(ADAR+adRNAをAAVベクターを用いて導入する方法)による治療効果(標的たんぱく質の発現上昇)が確認されている(こちら)。デュシェンヌ型筋ジストロフィーモデルマウスの実験ではCRISPR/Casシステムを用いたゲノム編集との比較も行い、RNA編集と同等の標的たんぱく質発現上昇を確認している。
・この技術の課題としては、①内在する酵素とRNAの結合②送達手段(脂質ナノ粒子、ウイルスベクターなど)の選択③RNA干渉を引き起こす可能性のあるadRNA④adRNAのアンチセンスドメインの標的外ハイブリダイゼーションが起こり、有害な影響を及ぼす可能性などがある。また、Shape Therapeuticsの共同創業者の一人であるカリフォルニア大学サンディエゴ校のProf. Prashant Maliらの研究によると、高活性ADAR変異体を全身投与したマウスに毒性があることが判明している。
パイプライン:未開示
治療分野としてパーキンソン病、アルツハイマー病、α-1アンチトリプシン欠損症、レット症候群が挙げられている
最近のニュース:
Shape Therapeuticsが、AIを活用したプラットフォームであるRNAfix™と独自AAVベクター技術AAVid™によって開発候補品を特定、前臨床研究を実施し、Rocheが、この提携から生まれる可能性のある製品の開発および世界的な商業化を行う契約を締結
コメント:
・RNA編集による治療法としてはCRISPR/Cas13を用いた方法もあり、Beam Therapeuticsなどが開発している。ADARによるRNA編集は内在性ADARを活用できる可能性があり、その場合、adRNAだけを導入することで可能となる。導入する遺伝子サイズが小さくて済むという利点がある。一方で内在性ADARによるRNA編集効率が十分かどうかはヒトで確認されておらず、未知数である。外来性ADARの場合、「背景とテクノロジー」にも記載したとおり、高活性ADAR変異体を全身投与したマウスに毒性があることが報告されており、その発現量調節が難しい可能性がある。
・2018年にCelgeneに買収されたJuno Therapeuticsのメンバーが中心となっている。CEO兼共同創業者はJuno Therapeuticsの研究担当副社長を務めていた。CAR-T細胞療法を開発していたJuno Therapeuticsと事業内容は異なるが、経験者が多いという点で安定経営が期待される。
キーワード:
・RNA編集(アデノシンデアミナーゼ)
・遺伝子治療(アデノ随伴ウイルスベクター)
・神経変性疾患
・遺伝子疾患
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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