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Acuitas Therapeutics (Vancouver, BC, Canada) ーケンのバイオベンチャー探索(第190回)ー

更新日:2020年12月30日


BioNTech/Pfizerの新型コロナウイルスSARS-CoV-2ワクチン候補BNT162b2に使われている脂質ナノ粒子(LNP)の技術・ライセンスを提供しているバイオベンチャー。非ウイルスベクターのLNPが今後多用されればキーとなってくる可能性を持つ会社。



ホームページ:https://acuitastx.com/


背景とテクノロジー:

・アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いたin vivo遺伝子治療(生体内で直接遺伝子治療する方法)の開発が進むにつれて,以下のようなAAVベクターの課題が浮き彫りになってきている。

搭載遺伝子サイズの限界

AAVベクターは最大サイズ4.7 kbまでの遺伝子しか搭載できない(プロモーター含む)。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子であるジストロフィン遺伝子はおよそ14 kb,嚢胞性線維症の原因遺伝子であるCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)遺伝子はおよそ189 kbもある。これらの遺伝子をAAVベクターに搭載することはできない。また、ゲノム編集で汎用されるCas9もAAVベクターに搭載するには遺伝子サイズが大きい(約4.1 kb)。

AAVベクターの中和抗体の存在

成人には自然界のAAVにすでに感染歴があり、抗体を持っている人が多い(中和抗体という)。そのため、AAVの全身投与ではその中和抗体が、投与されたAAVベクターを排除してしまう。治験では事前に中和抗体の有無をチェックしているケースがある。

肝臓毒性

AAVの大量投与は実験動物において肝臓毒性が報告されており、ヒトでもその懸念がある。実際、ヒトにおいても静脈内投与されると多くは肝臓に局在する。

製造コスト

大量生産が難しく、コストがかかる。非臨床実験ではHEK293細胞への一過的発現によって生産するが、大量生産では浮遊系のHEK293細胞もしくは昆虫細胞であるSf-RVN細胞を用いたりしているが、それでも大量生産にはまだ改良が必要とされている。

・そのような状況の中で非ウイルスベクターに対する注目が集まってきている。CRISPR Therapeuticsは、CRISPR/Casによるin vivoゲノム編集の実用化を目指すバイオベンチャーの1つであり、主に肝臓へのデリバリー法として 脂質ナノ粒子(LNP)を用いたDDSについてMITと共同研究を行っている。また、カプセル化した、Cas9とガイドRNAをコードするmRNAによるDDSについてCureVacと共同研究を行っている。

・LNPは核酸医薬品においても活用されている。Alnylam Pharmaceuticalsのパチシラン(Onpattro)は、3’非翻訳領域を標的とすることで遺伝子変異によって折りたたみ異常が起きているTTR遺伝子をサイレンシングするsiRNAをLNPに封入させた、トランスサイレンチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの治療薬であり、2018年FDAに承認されている。これは二本鎖RNAであるsiRNAが生体内において安定性が低く、免疫原性を持つためで、LNPに封入することでそれらを防いでいる。


Generation BioはGeneWaveという、全身投与によってDNAを肝臓に届けることができるLNPを開発している。

Modernaの新型コロナウイルスワクチン候補mRNA-1273や、同じくBioNTechの新型コロナウイルスワクチン候補BNT162b2はSARS-CoV-2のスパイクたんぱく質(Sたんぱく質)をコードしたmRNAだが、mRNAはそのまま投与すると生体内で急速に分解されたり自然免疫を惹起する。そのため、mRNA-1273やBNT12b2はLNPに封入することで生体内の安定性を高め免疫原性を下げている。

・今回紹介するAcuitas Therapeuticsは、LNPの主要技術特許を持つバイオベンチャーである。Acuitas Therapeuticsでは、ワクチン、抗体、たんぱく質(酵素など)、ゲノム編集分子や一塩基編集分子技術のなどの生体内のデリバリーとしてLNPの開発を行っている。実際にLNP内に封入されるのはsiRNA、microRNA、mRNA、プラスミド、アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む核酸ペイロードが主となり、LNPはこれらのペイロードを細胞内にデリバリーする役割を持つ。500以上の新規カチオン性脂質を合成し、in vivoのモデルシステムでこれらをスクリーニングしている。そして、イオン化可能なカチオン性脂質成分がLNP治療薬の効力のキーとなることを明らかにしてきた。

mRNA-LNP

mRNAはそのまま投与すると生体内で急速に分解されたり自然免疫を惹起するため、LNPに封入して投与することでその問題を回避できる。Acuitasでは、mRNA-LNPを用いて以下の医薬品開発を行っている。

ワクチン:ウイルスタンパク質を発現させ、強力な防御免疫応答を引き出す。COVID19ワクチンを含む複数の mRNA ワクチンが開発中である。

モノクローナル抗体:製造コストが高いモノクローナル抗体をmRNAの形で生体内にデリバリーし、生体内の細胞で抗体を産生する。より迅速かつ安全に新しいモノクローナル抗体を開発することが可能となる。

遺伝子治療:多くの遺伝性疾患は、重要なタンパク質がDNA上で正しくコードされておらず、その結果、タンパク質が作られなかったり、欠陥が生じたりすることに起因する。欠損または欠損したタンパク質の機能的コピーを提供するための治療用mRNAの発現は、遺伝的障害を修正する可能性がある。

ゲノム編集:患者さんのゲノムDNAを編集することで根本的に問題を修正する。mRNAを用いて酵素を発現させ、欠損した遺伝子を標的にして修正する。ゲノム編集は欠陥遺伝子を「オン」にすることも病気の原因となっている遺伝子を「オフ」にすることもできる。

・LNPは肝臓の肝細胞に指向性を持つことが知られている。Acuitasではそのメカニズムを明らかにしている。静脈内投与後、LNPの表面を覆っているPEG脂質成分が交換される。これにより露出した中性のLNP表面への血漿タンパク質ApoEの結合が可能になる。ApoEが結合したLNPは、穴毛細血管内皮細胞間の間隙(「開窓」)を通って血管の外に出て、肝臓の間質空間にアクセスする。結合したApoEは、その後、肝細胞表面の受容体によって認識され、その結果、LNPがエンドソームに取り込まれる。エンドソームが「成熟」すると、その内部はより酸性になり、LNP内のカチオン性脂質が正に帯電する。荷電したLNPはその後、エンドソーム膜内の負に帯電した脂質と相互作用し、LNPの破裂と細胞質へのmRNAペイロードの送達をもたらす。この細胞内取り込みプロセスはまた、局所投与後の他の細胞型への侵入経路であると考えられている。


パイプライン:不明

(自社で直接創薬は行わず共同開発している模様)


最近のニュース:

Acuitas Therapeuticsが、注入後のmRNAを保護する脂質ナノ粒子(小さな「デリバリー・ビークル」)をBioNTechに提供している。

・この他にもCureVacともLNPの共同研究・ライセンス契約を締結している(参考)。


コメント:

・LNP技術についてはAcuitas Therapeutics、Arbutus BiopharmaArcturus Therapeuticsなどがキーとなる特許を取得しているようだ。中でもAcuitasはLNPの開発・製造技術をリードしているとのこと。

・COVID19ワクチンとしてModernaのmRNA-1273やBioNTechのBNT162b2が承認されれば、mRNAワクチンの有用性が臨床で初めて証明される。そうなればmRNAワクチンのコア技術の一つとして高い安全性が示されたLNPが重要視されてくるだろう。一方で、ワクチン以外の治療薬としてLNPを使う場合は、標的細胞にデリバリーされる必要性があり、全身投与では肝臓以外の臓器にデリバリーさせるのが難しいLNPの課題が重しとなる。


・AAVベクターなどのウイルスベクターに比べて、遺伝子導入効率が低いことが欠点。その点を改善できる技術が開発されれば一気に遺伝子治療のコア技術となってくるだろう。


キーワード:

・脂質ナノ粒子(LNP)

・薬物送達システム(DDS)


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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