臓器指向性を持つ脂質ナノ粒子(LNP)を開発しているバイオベンチャー。肺、脾臓、肝臓に正確に送達するためにナノ粒子を系統的に設計する技術プラットフォームを持つ。
ホームページ:https://recodetx.com/
背景とテクノロジー:
・数十億回に及ぶCOVID-19 mRNA ワクチンの投与成功と、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬の飛躍的な進歩により、世界は遺伝子治療の可能性を秘めた新しい時代へと突入していると言える。
・投与された遺伝子(DNA、mRNA)は特定の細胞でたんぱく質へと翻訳されるため、遺伝子治療の可能性を最大限に引き出すためには、臓器特異的な送達戦略を開発することが極めて重要である。非ウイルス性の合成ナノ粒子は、安全で効果的なアプローチであり、繰り返し投与することが可能である。利用可能な担体のうち、脂質ナノ粒子(LNP)は、治療用核酸を肝臓に送達できる幅広いクラスの材料であり、2018年FDAが承認したトランスサイレチン媒介アミロイドーシスに対するshort interfering RNA(siRNA)-LNP療法であるOnpattro(patisiran)もその一例である。
・このような進歩にもかかわらず、肝臓以外の標的組織に送達するためのナノ粒子を予測的かつ合理的に設計することは、現在のところ不可能である。今回紹介するReCode Therapeuticsは、SORT(Selective ORgan Targeting)と呼ばれる戦略により、mRNA、Cas9 mRNA/シングルガイドRNA(sgRNA)、Cas9リボ核たんぱく質(RNP)複合体を含む多様なカーゴを静脈内投与後にマウスの肺、脾臓、肝臓に正確に送達するためにナノ粒子を系統的に設計する技術プラットフォームを持つバイオベンチャーである。
・従来、効果的な細胞内デリバリー材料は、RNAを結合・放出するイオン化可能なアミン(pKa 6.0~6.5) とナノ粒子を安定化する疎水性の最適バランスに依存してきた。このようにイオン化可能なカチオン性脂質を徹底的に研究した結果、肝臓の肝細胞に有効な担体はできたが、他の臓器に到達できる有効な担体はできていない。
・ReCode Therapeuticsは、多臓器指向性を持つ電荷アンバランス型脂質に関する研究、表面電荷を調整したmRNAリポプレックス(脂質とmRNAが静電気作用によって形成された複合体)が免疫単核食細胞系の樹状細胞への送達を促進できることを実証している。また、内部および/または外部電荷が組織指向性を調整する上で主要因であろうと推測した。そこで、確立されたLNPのモル組成を補助分子で増強して内部電荷を調整し、それによって生体内の細胞運命を変化させることができるかどうかを検討した。その結果、開発したSORT LNPを静脈内投与することにより、高レベルのmRNAデリバリーと組織特異的な遺伝子編集が可能となった。
・SORTは、mRNA、Cas9 mRNA/sgRNA、Cas9RNPなど、遺伝子編集技術を展開する様々な方法に対応することが可能である。肺、脾臓、肝臓を標的としたSORT LNPによるCre recombinase mRNA(Cre mRNA)のtdTomato(tdTom)マウスへの導入は、以下の臓器選択的トランスフェクション値をもたらした:上皮細胞の40%、内皮細胞の65%、B細胞の12%、T細胞の10%、肝細胞の93%。
肺、脾臓、肝臓を標的としたSORTLNPは、ヒトエリスロポエチン(hEPO)、マウスインターロイキン10(IL-10)、マウスクロトー(mKL)など、治療上必要なレベルのたんぱく質を生成するmRNAを送達した。さらに、肝SORT LNPによるCas9 mRNAとsgPCSK9の共送達は、心血管疾患の治療標的として魅力的なPCSK9の血清およびたんぱく質レベルの100%減少を可能にした。
・ReCode TherapeuticsのSORT LNPは、生化学的に異なる第5の脂質(四級アミノ脂 質である 1,2-dioleoyl-3-trimethylammonium-propane (DOTAP) )で設計されており、身体がLNPを「選別」し、肺や脾臓などの他の標的臓器に誘導するのを助けるとともに、希望に応じて肝臓をバイパスすることができるようになっている(DOTAPのモル比率が増加するにつれて、得られるたんぱく質の発現は肝臓から脾臓、そして肺へと徐々に移動し、肺への排泄を可能にする閾値を持つ明確かつ正確な臓器特異的送達傾向が示されている。また、負電荷を持つ1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphate (18PA) を10-40%取り込むと、SORT LNPは脾臓に完全に選択的に送達し、他の臓器では発現しない)。
パイプライン:
・原発性毛様体ジスキネジア(PCD)プログラム
毛様体運動に必須な遺伝子であるDNAI1の変異によって引き起こされるPCDの治療薬として、DNAI1 mRNA-LNPを開発している。吸入投与。
・嚢胞性線維症(CF)プログラム
ナンセンス変異を有し、現在承認されているCFTRモジュレーターに反応しない10~13%のCF患者に特化した、CFの治験治療薬として、CFTR mRNA-LNPを開発している。吸入投与。
それ以外にCFTRの変異を修正するゲノム編集治療薬LNPを開発している。静脈内投与。
・広範な遺伝子疾患プログラム
SORT LNP技術は、遺伝子カーゴの多様性と投与方法の柔軟性により、呼吸器、中枢神経系、肝臓、癌など、遺伝的に定義された幅広い希少疾患への応用の可能性がある。中枢神経系疾患へは髄腔内投与。
コメント:
・mRNAワクチンやAlnylam PharmaceuticalsなどのLNPを用いた創薬が成功したことにより、非ウイルス性ベクター、特にLNPに対する注目が集まっている。肝臓以外の臓器に指向性を持つLNP技術がヒトで確立されればおそらくかなり遺伝子治療は多くの疾患に広がっていくだろう。
・LNPは既存のウイルスベクター(アデノウイルス、AAVなど)と異なり再投与可能であるということがメリットの一つである。
・LNPは製造技術にも課題があると言われている。これはLNPは自己集合型で球体を形成するため、安定した同じ球体のLNPを大量に作る技術は難易度が高い。これについては現状すでに承認薬を持っているPfizer/BioNTech、ModernaやAlnylam Pharmaceuticalsが圧倒的にリードしている。
キーワード:
・遺伝子治療
・脂質ナノ粒子(LNP)
・臓器指向性
・薬物送達システム(DDS)
・遺伝子疾患
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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