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Pandion Therapeutics (Watertown, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第169回)


免疫を制御する分子(PD-1など)と組織指向性分子の2重特異性分子を用いた自己免疫疾患や炎症性疾患の治療薬開発を行っているバイオベンチャー


ホームページ:https://pandiontx.com/


背景とテクノロジー:

・オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬ががん治療薬として臨床効果を示して以降、免疫系に着目したがん免疫療法の開発が進んでいる。がん細胞の細胞膜表面に発現する抗原を認識する人工受容体CAR(キメラ抗原受容体)を発現させたT細胞であるCAR-T細胞を用いた血液がん治療も免疫系を利用したがん治療法であり、Kymriah(Novartis)、Yescarta(Kite Pharma/Gilead)がFDAにより承認されている。


・がん細胞の細胞膜表面抗原と、免疫細胞の細胞膜表面抗原の2つを認識する2重特異性抗体や2重特異性エンゲージャーを用いてがん免疫を活性化するアプローチも開発中である。つまり、抗体の2本の腕に別々の細胞(たんぱく質)を認識させることで、2者を引き合わせるというコンセプト。Bispecific T cell Engager (BiTEs)もこのアプローチの一つであり、がん細胞とT細胞を引き合わせることで、がん細胞に対する免疫を活性化する。Compass Therapeuticsは、B細胞成熟抗原(BCMA)陽性がん細胞とNKおよびγδ T細胞を強力にリクルートできる2重特異性抗体CTX-8573などを開発している。


・このように免疫系を調節することで病気を治療できることが示されてきている。今回紹介するPandion Therapeuticsは、このがん免疫治療の発展によってわかってきた免疫系のメカニズムを利用して、たんぱく質、抗体、2重特異性エンゲージャーなどを用いた自己免疫疾患や炎症疾患の治療法の開発を行っているバイオベンチャーである。


・Pandion Therapeuticsでは、免疫抑制細胞である制御性T細胞を活性化させる、もしくは過剰活性化している病原性T細胞を抑制するようなシグナル経路を制御する生物製剤を開発している。免疫を制御する分子(エフェクター)と、標的組織に指向性を持つ分子をつなぎあわせることで、標的組織のみにおいて免疫を調節することを期待している。


・Pandion Therapeuticsでは以下のようなポイントにフォーカスした技術を開発中である。

①薬物の効力をモニタリングするための新たなバイオマーカーの探索

②受容体のクラスター化による効力増強を導くためのエフェクターの価数検討

③エフェクターのタイプ(Fab?scFv?)、ドメインの配置、アイソタイプ(同一構造タンパク質の異なるクラス)を調節することで、空間的制約の検討

④標的組織指向性を持つ分子が不都合な作用を持たないかの検討

⑤研究時の各段階において、製造時のリスクを評価


パイプライン(詳細未開示):

PT101

IL-2の変異たんぱく質(Mutain)の全身投与。制御性T細胞の増殖を促す。

開発中の適応症

・Phase I

潰瘍性大腸炎


全身性PD-1アゴニスト

PD-1アゴニストによる免疫チェックポイント機構の活性化。

開発中の適応症

・リード分子最適化段階

適応症未開示

MAdCAM PD1アゴニスト

PD-1アゴニストとmucosal vascular addressin cell adhesion molecule (MAdCAM)が繋がれた分子。小腸や大腸粘膜の血管内皮に発現が多い細胞間接着分子MAdCAMにより組織指向性を持たせている。

開発中の適応症

・リード分子最適化段階

適応症未開示


MAdCAM IL-2 Mutein

IL-2の変異たんぱく質(Mutain)とmucosal vascular addressin cell adhesion molecule (MAdCAM)が繋がれた分子。小腸や大腸粘膜の血管内皮に発現が多い細胞間接着分子MAdCAMにより組織指向性を持たせている。

開発中の適応症

・リード分子最適化段階

適応症未開示


最近のニュース:

膵臓指向性を持つ分子と免疫調節分子を繋いだ2重特異性分子を用いた1型糖尿病治療薬を共同研究開発する契約をアステラス製薬と締結。


コメント:

・がん免疫で臨床効果が示されているシグナル経路に作用する分子を用いて、がん免疫とは逆の免疫抑制を行うことで、自己免疫疾患や炎症性疾患を治療することを目指すのは、臨床での効果が期待できる方法と考えられる。


・一方で、全身性に免疫を抑制することによる副作用の可能性があるため、組織指向性を付与する分子とつなぐというのは重要だと思う。今回のアプローチでどの程度の組織指向性が得られるかはわからないが、これまでの組織指向性技術は指向性が十分でないものも多く、Pandion Therapeuticsの技術がどの程度の組織指向性を持つかに注目。


キーワード:

・免疫制御

・自己免疫疾患

・炎症性疾患

・2重特異性抗体、2重特異性エンゲージャー


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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