top of page
検索

Compass Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第166回)


PD-1とPD-L1の二重特異性抗体を用いたがん免疫治療薬など、さまざまな組み合わせの二重特異性抗体・エンゲージャーを開発している、新たな抗体医薬品によるがん免疫療法を開発しているバイオベンチャー


背景とテクノロジー:

・80個を超える抗体医薬品が承認、販売されており、売上高は1000億米ドルを超えている。しかし、この80個以上の抗体医薬品があると言っても、80種類以上のターゲット分子の治療効果が確認されているのではなく、そのターゲット分子は約50種類のみである。しかもこれらのうち、5つのターゲット分子、TNFα、CD20、EGF受容体、EGF、VEGFαだけで23個の抗体医薬品が承認されている。さらに、この5つのターゲット分子が2018年の抗体医薬品総売上高の4分の3を占めている。


・このような状況の中で抗体医薬品の新たなターゲット分子を探索する試みが進められている。例えばAtrecaは、がん患者さんの血液サンプルの中から抽出した一つ一つのメモリーB細胞が産生する抗体のH鎖およびL鎖のたんぱく質配列を同定する独自技術Immune Repertoire Capture® (IRC™) technologyを用いて新規のターゲット分子探索を行っている。


・今回紹介するCompass Therapeuticsは、多重特異性抗体・エンゲージャーを探索する独自技術を持つバイオベンチャーであり、免疫系を調節する新たな多重特異性抗体・エンゲージャーを同定することで、がん免疫療法の治療薬開発を目指している。ターゲット分子としては新規ではなくても、それらを組み合わせる新たながん免疫治療薬の創製を目指している。


・新たな抗体医薬品を探索する独自技術の詳細は下記のようになる。

共通light chain配列を持つ独自の抗体ライブラリーを用いたスクリーニング系

2本のlight chainのうちの1本のlight chainが共通で、もう1本が多様な配列を持つ抗体ライブラリーを作製し、独自のin vitroおよびin vivoプラットフォームを用いて探索するシステムを独自開発した。これらのシステムを使用して、様々なエピトープに作用する、もしくは機能的に作用する何千ものリード抗体を取得し、すでに40個以上の免疫系のターゲット分子に作用する抗体医薬品を作製している。このシステムは、カクテル抗体や二重特異性抗体としての組み合わせの相乗効果をスクリーニングすることができる。


抗体クローン選別のためのヒトディスプレイプラットフォーム

Compassの次世代哺乳類ディスプレイプラットフォームは、良好な挙動を示す抗体クローンを選別し、特異性、親和性、交差反応性を微調整することを可能にしている。抗体探索ワークフローを組み合わせることで、抗原から、哺乳類細胞内で産生された最適化モノクローナル抗体の精製パネルまで、8週間以内で行うことができる。


STITCHMABS™

独自のハイスループット多重特異性抗体スクリーニングプラットフォームである StitchMabs™ は、2 種類以上のモノクローナル抗体、抗体フラグメント、その他の生物学的製剤を共有結合させることで、数分のうちに様々なカスタマイズされた二重特異性もしくは多重特異性フォーマットに変換することができます。 StitchMabs™ を使用すると、大規模なマトリクス実験で二種類のコンセプトをスクリーニングして、新規で予想外の相乗効果を発揮する可能性のある組み合わせを特定することができる。


高度にモジュール化された製造可能な二重特異性抗体候補

上記のStitchMabs™プラットフォームから得られる知見は、独自スクリーニング系を組み合わせることで、迅速にリード抗体に変換することができる。これらの二重特異性抗体は、発現、安定性、薬物動態の点でモノクローナル抗体のように振る舞い、生物学的用途に合わせて調整された多様なフォーマットと価数を有している。


パイプライン:

CTX-471

TNF受容体スーパーファミリーの一つである4-1BBとしても知られる共刺激性受容体CD137の新規エピトープに結合し、CD137を活性化する完全ヒト型モノクローナル抗体。腫瘍の微小環境を再プログラム化し、CD8陽性T細胞の浸潤と浸透を促進するとともに、T細胞の枯渇を抑制する作用を持つ。他のCD137抗体と異なり、動物試験において肝炎症や毒性を示さなかった。

開発中の適応症

・Phase I(単剤療法)

局所的に進行した固形がん、転移性がん

・前臨床試験研究段階(他の抗がん剤との併用療法)

がん


CTX-8371

免疫チェックポイント受容体PD-1とそのリガンドPD-L1を標的とした軽鎖ベースの二重特異性抗体。StitchMabs™プラットフォームを用いた、免疫チェックポイント分子の組み合わせを標的としたバイアスのないスクリーニングにより発見され、Keytrudaや他の承認されているPD-1/PDL-1治療薬と比較して、in vitroおよびin vivoでT細胞の活性化および腫瘍細胞の殺傷力を有意に高めることが確認されている。この効果は、T細胞におけるPD-1のダウンレギュレーションと分解を駆動するこの二重特異性抗体のユニークな能力によるものであることが示唆されている。

開発中の適応症

・in vivo非臨床試験研究段階

がん


CTX-8573

B細胞成熟抗原(BCMA)陽性がん細胞を標的とし、活性化受容体NKp30と活性化受容体CD16aをインタクトなFcを介して結合させることにより、NKおよびγδ T細胞を強力にリクルートし、活性化させる共通軽鎖ベースのNKp30 x BCMA二重特異性抗体。CD16aのみに関与するモノクローナル抗体と比較して、NKp30二重特異性抗体プラットフォームは、ADCCの活性を100倍以上に高め、CD16aのダウンレギュレーションの状況下でも活性を維持することが示唆されている。高レベルの標的抗原を必要とする従来のモノクローナル抗体とは異なり、高レベル、中レベル、低レベルのBCMAを発現するがん細胞のNK細胞活性化と殺傷を強力に誘導できる。

開発中の適応症

・ 前臨床試験研究段階

がん


NKp30 × TAA

元々はBCMAをターゲットに開発されたNKp30二重特異性エンゲージメントプラットフォームは、高度にモジュール化されたフォーマットで、血液がん抗原や固形がん抗原に対する他のがん標的抗体にも拡張することができる。共通のlight chainを持つ抗体探索プラットフォームを使用して、非ホジキンリンパ腫や乳がんを含むさまざまな適応症をターゲットとしたNKp30二重特異性エンゲージャーを生成してきたが、前立腺がんや卵巣がんに対する追加プログラムも進行中である。NKp30 x Her2二重特異性エンゲージャーは、広範囲のHer2発現を持つ細胞を標的としたトラスツズマブ(ハーセプチン)と比較して高い活性を示すことが示唆されている。

開発中の適応症

・in vitro非臨床試験研究段階

がん


TGFβtrap × TIGIT

多くのがんで過剰に産生される免疫抑制性の高いサイトカインであるTGFβを中和すると同時に、疲弊したT細胞やNK細胞で一般的に発現している免疫抑制性受容体TIGIT(IgおよびITIMドメインを持つT細胞免疫受容体)をブロックするように設計された新規の治療法。

開発中の適応症

・in vitro非臨床試験研究段階

がん


CTX-5861

SIRPαのすべての多型対立遺伝子に結合し、ブロックする完全ヒトSIRPα抗体。SIRPαとCD47との結合を阻害することで、マクロファージにおける“do not eat me”というシグナルを阻止し、がん細胞の抗体介在性貪食(ADCP)を促進する。

開発中の適応症

・in vivo非臨床試験研究段階

がん


コメント:

・新しいターゲット分子を探索することはもちろん重要だが、抗体医薬品の特性上、細胞外タンパク質もしくは細胞膜上タンパク質のみ標的とできる(細胞内タンパク質をターゲットとする抗体医薬品技術も開発中だが現状道半ば)。そこで、たとえばターゲットタンパク質の特定の立体構造を特異的に認識するモノクローナル抗体(stereo-specific monoclonal antibodies)という新たなアプローチも行われている。それ以外にも糖鎖などの翻訳後修飾されたターゲット分子を特異的に認識する抗体のアプローチも行われている。これらのアプローチも注目。



キーワード:

・抗体医薬品

・二重特異性抗体(多重特異性抗体)

・二重特異性エンゲージャー

・がん免疫



免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

bottom of page