top of page
検索

Gracell Biotechnologies (蘇州、中国) ーケンのバイオベンチャー探索(第206回)ー


従来の自家CAR-T細胞移植療法と比べて圧倒的な製造期間短縮(22-36時間)した自家CAR-T細胞療法FasTCARや、host-versus-graft rejectionを抑制できるCARを搭載した他家移植CAR-T細胞療法TruUCAR技術をすでに臨床ステージで開発している中国バイオベンチャー


ホームページ:https://www.gracellbio.com/


背景とテクノロジー:

・2010年代に入り免疫チェックポイント阻害薬や遺伝子導入T細胞療法などのがん免疫療法が難治性、再発性のがんに対して著効することが報告されたことから、大手製薬会社、バイオベンチャーによる開発競争がし烈になっている。


・これまで承認されているキメラ抗原受容体(CAR)発現T細胞療法(CAR-T療法)はすべて、患者さんの血液から抽出したT細胞にレトロウイルス/レンチウイルスで外来遺伝子としてCARを導入する自家細胞を用いた移植療法である。だが、この方法には以下のような問題点がある。

血液採取からCAR-T投与まで時間がかかる

 患者さん自身のT細胞を体外で増殖させ加工するために、診断して治療法が選択されてから実際に治療が行われるまでに時間を要する(現在の技術で約2−6週間)。製造中に患者さんの状態が変わってしまい投与できなくなってしまうケースも多い。

効力のバラつきがある

 患者さんごとに状態が異なるT細胞を用いるため効力がばらつく。

製造コストがかさむ

 患者さん一人一人に個別に細胞を作るため製造コスト・輸送コストがかかる。

再治療のハードル

 再度同じ治療を行おうと思っても非常に困難である。


・そこで、これらの問題点を解決するために、健康なドナーからのT細胞、つまり他家T細胞にCARを導入した他家移植可能なCAR-T細胞療法の開発が進められている(例:CellectisAdicet BioAllogene Therapeutics)。


・他家移植可能なCAR-T細胞療法は以下のようなメリットがある。

素早い投与

 事前に作製しておけるため、治療法決定から投与まで時間がかからず、治療タイミングを逃さないため、効果を最大化できる。

効力の増強(安定)

 全ての患者さんに同じ細胞を用いるため、安全性と効力に関して予想がつく。

製造効率が良い

1回の製造から100人程度分の細胞を調製可能である。製造行程を効率化することでコストを下げることが可能。

再治療可能

 再度同じ治療を行うことが容易(自家の場合、採取できる細胞数に限りがある)。体外で細胞が増えにくい患者さんにも適応可能。


・しかし他家移植可能なCAR-T細胞療法には以下のような問題・課題がある。

移植片対宿主病(GVHD)

患者さん自身の細胞ではないため、投与されたCAR-T細胞が患者さんの細胞を異物として攻撃する、致死性のあるGVHDを引き起こす可能性がある。

宿主免疫によるCAR-T細胞排除

患者さんに投与されたCAR-T細胞が、患者さんの免疫細胞によって異物と認識されると排除され、CAR-T細胞の抗腫瘍効果を発揮できない可能性がある。


・そこでこれらの課題解決のために以下のようなアプローチが試みられている

臍帯血由来のCAR-T細胞

臍帯血由来のT細胞は独自の抗原ナイーブ状態を有している。また、臍帯血由来のT細胞は、活性化T細胞の核内因子(NFAT)シグナル伝達の障害と反応性の低下という特徴を有している。これらのことからGVHDを引き起こすリスクが減少する可能性がある。

iPS細胞由来のCAR-T細胞

共通のHLAハプロタイプを持つiPS細胞バンクから分化させたT細胞を用いたCAR-T細胞は、免疫拒絶のリスクを最小化できる可能性がある(参考)。

ウイルス特異的メモリーT細胞

ウイルス特異的メモリーT細胞は非自己細胞を認識しない可能性がある。エプスタイン・バーウイルス特異的メモリーT細胞を用いた他家CAR-T細胞療法が開発中である(参考)。

γδT細胞

γδT細胞(TCRγ鎖+δ鎖を持つT細胞)は、ヒトの身体の中で数が少ないT細胞である。その役割の多くは分かっていないが、活性化される抗原が見つかっていないことから、他家移植してもGVHDを引き起こしにくいことが示唆されている。Adicet BioKiromic BiopharmaはγδT細胞を用いた他家移植CAR-T細胞療法を開発中である。

ゲノム編集によるαβ TCR 欠失

T細胞受容体α鎖定常遺伝子(TRAC)をゲノム編集等の技術でノックアウトすることでαβ TCR を欠失させるとGVHDを抑制できることが示唆されている。CellectisAllogene Therapeuticsはこの方法を用いた他家CAR-T細胞療法を開発中である。


・今回紹介するGracell Biotechnologies は、血液採取から自家CAR-T細胞製造まで22-36時間で行うFasTCAR技術、また遺伝子編集技術を用いた他家移植CAR-T細胞を製造するTruUCAR技術の2つの技術を用いたCAR-T療法の開発を行っているバイオベンチャーである。


FasTCAR

FasTCARは、製造時間の長さ、製造品質の低さ、高い治療費、T細胞の適合性の低さなど、従来の自家CAR-T細胞療法の課題に対応できる自家CAR-T細胞療法。従来の自家CAR-T細胞製造のステップである、T細胞の活性化、CAR遺伝子の導入、細胞の増殖の3つの主要な製造ステップを、このFasTCARでは、「同時に活性化-遺伝子導入」する単一ステップで行う。具体的には、レンチウイルス由来のXLentiベクターを用いて採取直後のT細胞に対して活性化・遺伝子導入を同時に行い、1つ以上のCARを安定的に発現させ、投与後の生体内で活発に増殖させる。FasTCARで製造されたCAR-T細胞は若く、消耗が少なく、増殖、組織遊走、腫瘍細胞クリアランス活性が向上している。これにより、従来のプロセスで行われる生体外での増殖段階を必要としない。これにより、従来の自家CAR-T細胞療法の課題である2週間から6週間の製造時間を大幅に短縮し、翌日製造を実現している。製造時間の短縮は、特に進行の早い癌の場合に重要である。また、製造時間を大幅に短縮し効率的な製造プロセスを採用することで、大幅なコスト削減を実現しているとのこと。


TruUCAR

TruUCARは、低コストで高品質な既成品の非HLAマッチングの同種CAR-T細胞療法。TruUCARはFasTCARと同様に、レンチウイルスを使用してCARを遺伝子導入する。患者さんのT細胞やNK細胞は、通常、異物である他家移植CAR-T細胞に対して反応するため、結果として患者さんが拒絶反応を起こすことになる。TruUCARでは、患者さんのT細胞とナチュラルキラー(NK)細胞を特異的に標的にするCARを(がん細胞を標的とするCARとともに)発現する。これによりTruUCARは、患者さんが感染症のリスクを高める可能性のある抗CD52抗体との併用療法を必要とせずに、患者さんの免疫系を存続させることができる。また、TruUCARは同種CAR-T細胞療法の最も重篤な有害事象の一つであるGvHDを回避するためにT細胞受容体(TCR)の発現がノックアウトされている。従来の同種CAR-T細胞療法は、造血幹細胞移植を併用して治療効果を強化することが多いが、早期死亡のリスクがある。TruUCARの単剤療法は、早期寛解を達成し、抗CD52抗体療法や潜在的な造血幹細胞移植を回避することで、治療費や治療期間を大幅に削減できる可能性があるとのこと。

ドナー由来CAR

HLAをマッチさせた他家細胞CAR-T細胞療法。GvHDを回避するため。患者さん自身のT細胞から作製された自家CAR-T細胞は、患者さんが放射線治療や化学療法を繰り返すことでT細胞の腫瘍殺傷能力が低下し、品質が低下する可能性がある。このドナー由来CAR技術は、健康なドナーからより高品質のT細胞を抽出し、より優れた腫瘍クリアランス能力を示し、奏効率と効果の持続性を向上させたCAR-T細胞を製造する。


Dual CAR、Enhanced CAR

①2種のCAR-T細胞を投与することで、抗原逃避の可能性を減少させ、再発を抑制するDual CAR

②免疫抑制性の腫瘍微小環境を克服/サイトカインシグナル伝達を増加させることによりCAR-T細胞の機能性をさらに強化するEnhanced CAR


・下記パイプライン製品以外にも、卵巣がん、乳がん、非ホジキンリンパ腫の一種である末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)、T細胞リンパ芽球性白血病(T-LBL)を適応としたCAR-T細胞を開発中とのこと。


パイプライン:

GC012F

BCMAとCD19デュアルCARを発現する自家CAR-T細胞(FasTCAR)。中国における臨床試験において、難治性・再発性多発性骨髄腫の16人の患者さんのうち15人において奏効したとのこと。

開発中の適応症

・初期Phase I(中国)

BCMA陽性の難治性、再発性多発性骨髄腫


GC019F

CD19-CARを発現する自家CAR-T細胞(FasTCAR)

開発中の適応症

・Phase I(中国)

難治性、再発性のB細胞急性リンパ性白血病


GC007F

CD19-CARを発現する自家CAR-T細胞(FasTCAR)

開発中の適応症

・初期Phase I(中国)

難治性、再発性のB細胞急性リンパ性白血病


GC027

CD7-CARを発現する他家CAR-T細胞(TruUCAR)

開発中の適応症

・Phase I(中国)

T細胞急性リンパ性白血病


GC007g

CD19-CARを発現する、HLAマッチの健康なドナーからのT細胞由来の他家CAR-T細胞療法(ドナー由来CAR)

開発中の適応症

・Phase Ib/II(中国)

B細胞急性リンパ性白血病


コメント:

・自家CAR-T細胞療法は再発性、難治性の患者さんを対象としていることが多いため、約2-6週間の製造期間中に患者さんが亡くなったり状態が悪くなり細胞移植ができなくなってしまうことはよくあるとのこと。血液採取翌日に自家CAR-T細胞が提供できれば大きなメリットになると考えられる。一方で、増殖させずに投与するだけで十分な治療効果が得られるのだろうか?(GC012Fの投与細胞数1-5×10^5細胞/kgに対して、Kymriah(Novartis)の推奨ドーズは 0.6 × 10^8〜6.0 × 10^8 CAR+ viable T cells)


・中国はCAR-T細胞療法の臨床試験登録数が多いことが知られているが、その実情はよく分かっていない。しかしGracell Biotechnologiesのような最新技術CAR-Tが開発されているとしたら、本当に世界トップレベルなのではないだろうか。


キーワード:

・他家移植CAR-T細胞療法

・製造期間短縮自家CAR-T細胞療法

・血液がん


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

bottom of page