肝臓指向性を持たない DNA ベースの独自ナノキャリア3DNA プラットフォームの臨床応用を目指しているバイオベンチャー。アデノ随伴ウイルスベクターの課題を回避した非ウイルス性ベクター技術を保有している。
ホームページ:https://www.codebiotx.com/
背景とテクノロジー:
・遺伝子治療のベクターとしてアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの利用が進んでいる。例えば、2019年にRocheに買収されたSpark Therapeuticsは、先天性の遺伝子変異疾患患者さんの網膜下にAAV2ベクターを投与することで視力を回復させる治療法でアメリカにおけるAAV治療法の初承認を得ている。また、2018年にNovartisに買収されたAveXisは、先天性の神経疾患患者さんに全身投与でAAV9ベクターを投与することで歩行機能などの障害を回復させる治療法で、FDAにより承認された。
・このようにAAVベクターが注目を浴びているが、一方でいくつかの問題点がある。
①成人はAAVにすでに感染歴があり、抗体を持っている人が多い(中和抗体という)。そのため、AAVの全身投与ではその中和抗体が投与されたAAVを排除してしまう。治験では事前に中和抗体の有無をチェックしているケースがある。また遺伝性疾患の場合、小児から発症していることが多く、小児の場合中和抗体を持つ可能性が低いため、小児を対象とするアプローチも多い。
②AAVの大量投与はヒト/実験動物において肝臓毒性が報告されている。静脈内投与されると多くは肝臓に局在する。生殖系列への感染の可能性も報告されている(まだ確認はされていない)。
③大量生産が難しく、コストがかかる。非臨床実験ではHEK293細胞への一過的発現によって生産するが、大量生産では浮遊系のHEK293細胞もしくは昆虫細胞であるSf-RVN細胞を用いたりしているが、それでも大量生産にはまだまだ改良が必要とされている。
④AAVは一本鎖DNAウイルスのため遺伝子発現に時間がかかる。そのため臨床においても非臨床でも、効果が見られるのに時間がかかる。
⑤AAVは小さなウイルスのため、ウイルス内に入れられる遺伝子のサイズが小さい。現状プロモーターを含めて4.7kbが限界とされる。例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィー症の治療ではジストロフィン遺伝子を発現させるが、ジストロフィン遺伝子は大きいため、重要な部分だけにした人工のミクロジストロフィン遺伝子が用いられている(Solid Biosciences紹介記事参考)。
・これらの問題点を克服する方法として、非ウイルス性ベクターに注目が集まっている。非ウイルス性ベクターとして、新型コロナウイルスワクチンにも使われた脂質ナノ粒子(Lipid Nanoparticle:LNP)などがあるが、すでに臨床応用はされているが、まだまだ課題が多い。非ウイルス性が、ウイルス性ベクターの代替となるためには以下のようなことが求められる。
①大きなペイロードへの対応
AAVベクターでは4.7kbまでしか搭載できないが、もっと大きな遺伝子を搭載できる必要がある
②特定の器官への送達
現状の非ウイルス性ベクターであるLNPなどは、静脈内投与されると肝臓に集積しやすいため、他の臓器への送達が困難である。
③免疫原性がなく、再投与可能である
新型コロナウイルスワクチンは免疫原性があることがアジュバントとして利用されている。しかし、ワクチン以外の治療法では免疫原性はないことが求められる(新型コロナウイルスワクチンの免疫原性は、ペイロードのmRNAによると考えられているが、LNPに含まれるPEGが免疫原性を起こしている可能性も指摘されている)。免疫原性があると抗体ができてしまい、再投与ができない。
④高い安全マージン
AAVベクターで見られるような毒性が起こらないことが望ましい。
⑤低い製造コスト
AAVベクターの製造は細胞培養が必要なため、製造コストが高い。
・今回紹介するCode Biotherapeuticsは、肝臓指向性を持たない DNA ベースの独自ナノキャリア3DNA プラットフォームを開発しているバイオベンチャーである。複数の一本鎖DNAをハイブリダイズして二本鎖モノマーにし、その後架橋して安定な粒子を形成することによって組み立てられた多価構造で構成されている。 治療ペイロードの最大 18 コピーと、さらに 18 のターゲティング部分を外部に結合できる。これは、免疫原性、サイズと送達の制限、再投与の不可能性、製造の複雑さなど、ウイルスベースの送達アプローチに固有の多くの課題を克服するように設計されている。
・3DNA は、標的細胞上で発現される細胞表面たんぱく質に結合する標的分子 (ペプチド、抗体、小分子など) を活用し、バイオアベイラビリティーを向上させて肝臓外の高い組織特異性を実現する。 標的細胞に結合した後、3DNA は受容体媒介プロセスを介して細胞内に取り込まれる。 エンドサイトーシス過程を利用し、それに耐えることで、3DNAは遺伝子のペイロードを細胞質に送り込む。 遺伝子治療の送達に利用される場合、遺伝子構築物は細胞核に局在し、そこで組織特異的プロモーターが目的のたんぱく質の発現を駆動する。 この組織および細胞標的特異性により、高用量の必要性がなくなり、用量に関連した毒性とオフターゲット効果の両方が最小限に抑えられる。
・3DNA は、Toll-like受容体 (TLR) によって開始される免疫応答などの免疫応答を引き起こす可能性がある配列特異的要素を足場から排除するように設計されている。 複数の種における反復投与研究から得られた広範な前臨床データは、3DNA の足場自体が中和抗体を生成しないことを示している。 これにより、遺伝子医薬品の再投与が可能になる可能性がある。
・3DNA の製造はシンプルで、再現性があり、拡張可能である。 3DNA は大量に作成して保存し、遺伝子医薬品を製剤化するためのモジュール式プロセスで使用できる。 最終的な遺伝子医薬品の生成は、「既製」の 3DNA を取得し、関連するターゲティング分子と関連する核酸ベースの治療薬を結合する比較的簡単なプロセスである。
・3DNA は、遺伝子医薬品を細胞に効率的に送達することができ、多くのウイルスベクター技術によって課せられるサイズの制約を克服できる。 3DNA は 10kb に近い遺伝子を送達できることが実証されているが、送達できる遺伝子サイズの上限にはまだ達していない。 これは、現在治療不可能な病気を治療できる可能性があることを意味する。
・ターゲティング 3DNA 治療法は、脳ミクログリア、肺内皮細胞、B 細胞、T 細胞、眼筋線維芽細胞、筋肉、膵臓、およびさまざまながん細胞を含む複数の細胞型を標的とする動物モデルで有効性を示している。 肝臓、耳、心臓、腎臓において基礎研究が進行中または計画されている。
・用量漸増および慢性投与研究において、3DNA は細胞レベルでも組織/マクロレベルでも毒性を示していない。 前臨床安全性研究では、3DNA と標的分子および治療用カーゴの両方を組み合わせた製剤は、強力な安全性プロファイルを実証している。3DNA は迅速かつ効率的な生体内分布を実証しており、多くの場合、静脈注射後数分以内に目的の細胞に蓄積される。
パイプライン:(詳細未開示)
・デュシェンヌ型筋ジストロフィープログラム
デュシェンヌ型筋ジストロフィー (DMD) は、既知遺伝子の中で最大のヒト遺伝子であるジストロフィン遺伝子の変異によって引き起こされる。DMDに対する現在の遺伝子治療は、ミクロジストロフィンのAAV送達に依存しており、これは変異状態に応じて患者ごとに異なる。さらに、AAV の送達はこれらの患者に重篤な毒性を引き起こす可能性があり、再投与はできない。Code BiotherapeuticsのDMDプログラムでは、これらの遺伝子治療アプローチの主要な制限を克服することに焦点を当てている。
・その他のプログラム
肺、膵臓、肝臓に焦点を当てた他のさまざまな研究プログラムも検討している。
最近のニュース:
希少疾患を治療するための遺伝子治療の設計と開発に関するパートナーシップおよびオプション契約を武田薬品工業と締結。両社は 3DNA プラットフォームを使用して、肝臓を対象とした希少疾患プログラムのための標的遺伝子治療を設計および開発する予定。また、中枢神経系を対象としたプログラムのさらなる研究を実施する予定。武田薬品は4つのプログラムの独占的ライセンスを取得するオプションを行使する権利を保有。
コメント:
・DNAベースのナノ粒子というのは製造コストや製造均一性の面において非常に利点がある。二本鎖DNAは生体内でも自然界でも非常に安定であり、プライマー製造などで確立された化学合成技術があり、均一性の高い製造が可能であることは、長年の実績がある。一方で、DNAは生体内で遺伝子として使われており、生体内に投与することで、思っても見ない作用が出る(最悪ゲノムに組み込まれ、がん化するリスク)可能性はないのだろうか?
・肝臓以外に組織指向性、細胞指向性があるというのは利点として大きい。一方で、標的指向性をもたせることができる標的分子の情報はまだ少ない。そこにハードルがあるのではないだろうか?
キーワード:
・遺伝子治療(非ウイルス性ベクター)
・二本鎖DNA
・デュシェンヌ型筋ジストロフィー
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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