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CAMP4 Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第276回)ー

更新日:2022年9月11日


遺伝子発現を制御するRNA、制御RNAに対して作用することで標的遺伝子のみの転写を上昇させるアンチセンスオリゴヌクレオチドをデザインできる技術 RNA Actuating Platformを用いた治療薬開発を行っているバイオベンチャー


ホームページ:https://www.camp4tx.com/


背景とテクノロジー:

・RNA干渉(RNAi)が発見され、核酸医薬品として臨床応用されるまで、遺伝子が変異している疾患である遺伝子疾患は治療するのが難しい疾患だった。しかし、ヌシネルセン(脊髄筋萎縮症治療薬のアンチセンスオリゴヌクレオチド)やパチシラン(家族性アミロイドポリニューロパチー治療薬のsiRNA)などの核酸医薬品が登場し、siRNAやアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの核酸医薬品がヒト生体内で遺伝子発現を調節でき、疾患治療に応用できることが証明され、低分子化合物ではハードルが高かった遺伝子疾患に対する治療薬開発が活発になっている。


・RNAiは、翻訳抑制または転写抑制によって遺伝子の発現を配列特異的に抑制する現象だが、核酸医薬品はそれ以外にも、ヌシネルセンのようにスプライシングを調節しエキソンを組み入れたり(エキソンインクルージョン)、または逆にビルトラルセン(デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬のアンチセンスオリゴヌクレオチド)のようにエキソンをスキップしたりすることもできる。またナンセンス変異依存mRNA分解機構(non-sense mRNA mediated decay: NMD)という現象を利用してアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて遺伝子発現を上昇させる技術の臨床応用を目指しているベンチャーもある(詳細はStoke Therapeutics紹介記事参照)。ゲノムDNAの3次元構造を調節するmRNAで遺伝子発現を調節する技術の臨床応用を目指しているOmega Therapeuticsというベンチャーもある。


・今回紹介するCAMP4 Therapeuticsは、制御RNAと特異的に結合し、標的遺伝子の転写を増加させるアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて標的遺伝子の転写を上昇させる技術RNA Actuating Platform (RAP)の臨床応用を目指しているバイオベンチャーである。


・多くの遺伝子疾患は、正常な遺伝子発現が阻害されていることが原因である。遺伝子発現を正常なレベルに回復させることは、これらの疾患を治療するための道となり得る。CAMP4では、遺伝子発現を制御するRNAの一種に着目しているが、これまで治療標的としてほとんど利用されてこなかった。CAMP4のアプローチは、遺伝子に特異的な制御RNAの標的を効率的かつ体系的に同定し、そこに到達するためのオーダーメイドのオリゴヌクレオチド薬剤候補を生成することである。

・核内では、遺伝子とその制御因子は、遺伝子発現を制御するためにinsulated neighborhoodsとして知られる保存された3次元DNA構造に編成されている。制御RNAはこれらのループ内でユニークに転写され、遺伝子発現の可変抵抗器として機能する。

(注:この説明だけでは難しいので、下記にtopology associating domain(TAD)というゲノムDNAの3次元構造概念を説明する。隣り合うTAD間が隔絶されていることをinsulated neighborhoodsと表現)

ゲノムDNAが組織や発生時期特異的な発現調節の基本構造単位としてtopology associating domain(TAD)と呼ばれる領域を構成している。TAD図1出典のAASJホームページに以下のように記載されている。

「私たちのゲノムは図に示すTADと呼ばれる構造化された区域が約2000集まってできている。図1に示すようにTADとTADの間には特殊な境界領域が存在し(赤の線で示している)、隣接するゲノム領域が影響し合わないよう3次元的に隔離していると考えられている。一つのTADの中には1〜複数の遺伝子とともに、その遺伝子発現を調節するエンハンサーが存在している。特殊な境界と構造化のおかげで原則として一つのTAD内エンハンサーは隣接するTADに影響できないように隔離されており、このおかげで重要な遺伝子が間違った時期や場所で発現できないようになっていると考えられている。」


図1:topology associating domain(TAD)のイラスト(AASJホームページより転載)

・アンチセンスオリゴヌクレオチドは、RNAの標的を正確に、効率的に認識することができる、実績のある方法である。この技術を基に、CAMP4のRNAアクチュエーターは、制御RNAの標的となるようにプログラムすることができ、たんぱく質の発現に特定の変化をもたらすことができる。CAMP4では、全身の疾患を治療するためにRNAアクチュエーターをデザインしている。


・CAMP4 の RNA Actuating Platform (RAP) は以下の技術で構成されている。

①制御RNAのマッピング

独自のAIアルゴリズムを搭載した次世代シーケンシング技術を使って、制御RNAとそれが制御する遺伝子を細胞特異的にマッピングする

②RNAホットスポットの特定

制御RNAのホットスポットを標的としたオリゴヌクレオチド医薬品の候補をスクリーニングし、遺伝子の発現を最大化する。

③創薬可能とするためのプログラム

RNAアクチュエーターを安全かつ効果的に疾患組織に送達できるように設計する


パイプライン:

CMP-SCN(CO-3527)

SCN1A遺伝子の3’側にあり対立遺伝子から転写されるNatural Antisense Transcript(NAT)は、制御RNAとしてSCN1A転写に対して抑制的に作用する内在性RNA。これに対して抑制的に作用するアンチセンスオリゴヌクレオチドCMP-SCNがSCN1AのmRNA発現を上昇させる。SCN1A遺伝子のハプロ不全によって起こる遺伝性疾患ドラベ症候群(難治性てんかん)治療薬として開発を行っている。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

ドラベ症候群


尿素サイクル異常症(OTC欠損型)

尿素サイクル異常症の原因遺伝子の一つであるオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)のエンハンサー領域に作用する内在性の制御RNAに対して抑制的に作用するアンチセンスオリゴヌクレオチドが、OTCのmRNA発現を上昇させる。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

尿素サイクル異常症


前頭側頭型認知症(FTD)

FTDの10%においてグラニュリン遺伝子の変異が見られる。神経細胞とミクログリアの両方でグラニュリンmRNAをアップレギュレートし、プログラニュリンの正常レベルを回復させ、神経変性の部位に的を絞って影響を与える。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

前頭側頭型認知症


尿素サイクル異常症(全酵素異常対応型)

尿素サイクルに関与する速度制限特異的たんぱく質の産生をアップレギュレートすることで、患者の体がアンモニアをよりよく処理し、排出できるようにする。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

尿素サイクル異常症

肝臓に毒性胆汁酸が蓄積する原発性胆汁性胆管炎に対して、内因性トランスポーターをアップレギュレートすることによって、肝臓からの胆汁酸の排出を増加させ、それによって肝細胞の損傷を減少させ、肝機能を正常化する。

開発中の適応症

・探索研究段階

原発性胆汁性胆管炎


最近のニュース:

CAMP4のGene Circuitry Platform™を活用し、中枢神経系の主要な免疫細胞であるミクログリア細胞内の疾患関連遺伝子の発現を増減させる方法を明らかにすることを目的とした共同研究契約をBiogenと締結。深刻な神経疾患や神経変性疾患を対象とする。


アンメットニーズの高い肝臓の未公表の希少疾患に対処するための新たな薬剤標的の特定に焦点を当てたAlnylam Pharmaceuticalsとの共同研究契約を締結。


コメント:

・遺伝子の発現制御メカニズムに関与している制御RNAを同定し、その制御RNAに作用するアンチセンスオリゴヌクレオチドを開発しているCAMP4。遺伝子発現を上昇させるアプローチとして独自性の高い技術を持っている。懸念点としてはアンチセンスオリゴヌクレオチドの特性が制限となる。例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドはデリバリーできる臓器が限定される。静脈内投与では肝臓と腎臓。局所投与としては眼、脳(髄腔内投与)、腫瘍直接などがあるが、それ以外の臓器はまだ技術的に難しい。そして、最近の臨床結果によると髄腔内投与でもハンチントン病などでは治療効果が十分ではないことが報告されている(その理由がアンチセンスオリゴヌクレオチドの特性によるのかは不明)。


キーワード:

・核酸医薬品(アンチセンスオリゴヌクレオチド)

・遺伝子発現上昇

・遺伝性疾患

・制御RNA


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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