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Brii Biosciences (Durham, NC, USA/上海、中国) ーケンのバイオベンチャー探索(第172回)ー

更新日:2020年8月15日


感染症領域に特化したパイプラインを持つバイオベンチャー。臨床後期の導入品に加えて、自社創製の新型コロナウイルス治療モノクローナル抗体の創製を目指している。



背景とテクノロジー:

・新型コロナウイルス感染症COVID-19のパンデミックにより、その治療薬とワクチンの開発競争が世界で進んでいる。


・治療薬については、Gilead Sciencesの抗ウイルス薬レムデシビル(ベクルリー®)が、COVID-19患者さんの入院期間を短縮する効果が臨床試験で認められ、FDAより緊急使用許可が出された。ただ、レムデシビルはエボラウイルスを対象として開発された薬であり、新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対する効果は限定的である可能性がある。富士フイルム富山化学工業が創成した抗インフルエンザ薬ファビピラビル(アビガン®)や抗マラリヤ薬ヒドロキシクロロキン(プラケニル®)などもドラッグリパーパシングとして臨床試験(臨床研究)が行われているが、どのような結果がでるかはわからない。そこで、新型コロナウイルスSARS-CoV-2を対象とした治療薬の開発が進められている。


・ワクチンの開発も世界各国で行われている。アメリカ政府のOperation Warp Speed(ワープスピード作戦)や、CEPI(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations(感染症流行対策イノベーション連合))のワクチンプロジェクトなど、世界各国政府や財団の支援をベースにワクチン開発が急がれている。

(CEPIとは:世界連携でワクチン開発を促進するため、2017年1月ダボス会議において発足した官民連携パートナーシップ。日本、ノルウェー、ドイツ、英国、オーストラリア、カナダ、ベルギーに加え、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム・トラストが拠出し、平時には需要の少ない、エボラ出血熱のような世界規模の流行を生じる恐れのある感染症に対するワクチンの開発を促進し、流行が生じる可能性が高い低中所得国においてもアクセスが可能となる価格でのワクチン供給を目的としている。)


・ワクチンの説明はMedicagoの紹介ページを参照(こちら)。


・治療薬のアプローチとしては、例えばVir Biotechnologyは、SARS-CoV-2のスパイクたんぱく質を認識する中和モノクローナル抗体VIR-7831、VIR-7832の開発を行っており、現在Phase II準備中である。


・今回紹介するBrii Biosciencesも、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の治療薬開発を行っているバイオベンチャーである。Brii Biosciencesのフォーカス領域は感染症と中枢神経系疾患であり、siRNAやモノクローナル抗体などの新しいモダリティを用いた治療薬創製を目指している。中国発のバイオベンチャーであり、中国で課題となっている疾患に重点をおいて開発を行っている。


パイプライン:

BRII-835 (VIR-2218)

B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)を含む全てのB型肝炎ウイルスたんぱく質の産生を阻害するsiRNA。 HBsAgはB型肝炎ウイルスに対するT細胞活性を阻害すると考えられている。Alnylam PharmaceuticalsVir Biotechnologyの共同開発品の導入(中国のみの権利)。ウイルス性タンパク質のノックダウンにより、患者さん自身のB型肝炎ウイルスに対する免疫反応を回復させることができ、慢性B型肝炎ウイルス患者さんに機能的な治療の可能性を提供できる可能性がある。

開発中の適応症

・Phase II

B型肝炎ウイルス


BRII-179 (VBI-2601)

たんぱく質ベースの免疫治療薬。米VBI Vaccinesからの導入(中国のみの権利)。多くの治験薬が転写の下流にある感染肝細胞内で作用するのに対し、BRII-179は、B型肝炎ウイルスのライフサイクルにおける主要な細胞外ステップに影響を与え、感染を免疫学的に制御するように設計されている。以下のような複数の作用機序を持つ、B細胞とT細胞の両方の免疫を標的とした独自の製剤。

ー血中にあるB型肝炎ウイルスの中和

ーPre-S1を介したB型肝炎ウイルスの肝細胞への感染抑制

ーB型肝炎ウイルスに感染した肝細胞の免疫による除去

開発中の適応症

・Phase II

B型肝炎ウイルス


BRII-658

多剤耐性結核を標的とした全く新しい作用機序の抗菌性化合物。米AN2 Therapeuticsからの導入(中国のみの権利)。

開発中の適応症

・Phase I

多剤耐性結核


BRII-636 (QPX-7728)

入院中の患者さんを対象に、WHOが指定した、薬剤耐性を有するAcinetobacter、腸内細菌、Pseudomonasのすべての重篤な病原体を標的としたβ-ラクタマーゼ阻害剤(BLI)の静脈内投与の併用療法。QPEX Biopharmaからの導入(中国のみの権利)。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

多剤耐性グラム陰性細菌感染症


BRII-672 (QPX-7831)

スペクトラムの広がったβ-ラクタマーゼ(ESBL)and/orカルバペネマーゼ産生腸内細菌を標的とした多剤耐性グラム陰性菌感染症を対象とした経口投与型β-ラクタマーゼ阻害合剤。QPEX Biopharmaからの導入(中国のみの権利)。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

多剤耐性グラム陰性細菌感染症


BRII-693 (QPX-9003)

PseudomonasおよびAcinetobacterによる広範囲な薬剤耐性感染症に対応するために設計された、標的型スペクトルの合成ポリミキシンの静脈内投与製剤。QPEX Biopharmaからの導入(中国のみの権利)。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

多剤耐性グラム陰性細菌感染症


BRII-196

COVID-19から回復した患者から分離された抗体より作られたヒトモノクローナル抗体BRII-196は、細胞培養アッセイにおいて、ウイルスの侵入を完全にブロックし、生きたSARS-CoV-2感染を中和することができる。BRII-196は、Spikeタンパク質上の高度に保存されたエピトープに結合し、COVID-19パンデミックに対する有効な治療法になる可能性を持っている。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

新型コロナウイルス感染症COVID-19


BRII-198

COVID-19から回復した患者から分離された抗体より作られたヒトモノクローナル抗体BRII-198は、SARS-CoV-2感染を強力に中和する。BRII-198はSpikeタンパク質上のBRII-196と異なるエピトープに結合し、BRII-196と併用することで相加的に相乗効果を発揮する。COVID-19パンデミックに対する有効な治療法となる可能性がある。

開発中の適応症

・前臨床研究段階

新型コロナウイルス感染症COVID-19


コメント:

・中国のアンメットメディカルニーズに基づいてアメリカから導入した臨床開発品を進めつつ、自社創製の研究を行っている。中国発の医薬品を作る製薬企業がこうやって生まれてくるのかなと感じさせるバイオベンチャー。

・個人的意見だが、新型コロナウイルス治療薬としてレムデシビルに続くのは、この会社やVir Biotechnologyが開発するようなヒトモノクローナル抗体が可能性が高いのではないだろうか?COVID-19から回復した患者さんから分離した抗体情報は手堅いのではと考える。


キーワード:

・B型肝炎ウイルス

・多剤耐性細菌感染症

・新型コロナウイルス感染症COVID-19

・モノクローナル抗体

・核酸医薬品(siRNA)


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても筆者は責任をとれません。よろしくお願いします。

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