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Athira Pharma (Seatle, WA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第182回)ー


神経栄養因子であるHepatocyte Growth Factor(HGF)およびその受容体METのシグナルを活性化する、血液脳関門を透過できる低分子化合物を用いて、アルツハイマー病などの神経変性疾患やうつ病、神経因性疼痛の治療薬創製を目指すバイオベンチャー


ホームページ:https://athira.com/


背景とテクノロジー:

・アルツハイマー病の原因遺伝子としては、家族性アルツハイマー病で変異が見つかっているアミロイド前駆たんぱく質(APP)や、そのAPPを切断する酵素の主体であるプレセニリンなどが同定されている。しかし、アミロイドβを除去する目的で作られた抗アミロイドβ抗体は、現在のところアルツハイマー病において確実な認知機能改善効果を示すに至っていない(バイオジェン/エーザイの抗アミロイドβ抗体アデュカヌマブが1勝1敗のP3治験結果でFDAに申請済み)。また、APP切断酵素であるγセクレターゼやBACEの阻害剤も今のところ、臨床において認知機能改善効果を示せていない。

・このようにアルツハイマー病治療薬の開発失敗が続いている中、原因とされるアミロイドβ以外に着目したアプローチが注目されている。その中でも多いのが神経免疫に着目した創薬である(例:Denali TherapeuticsAlectorGliaCureNeuralyなど)。


・神経免疫以外のアプローチとしては、シナプス機能改善に着目した創薬を行っているEIP Pharmaや、歯周病菌の出すプロテアーゼの毒性という仮説に基づく創薬を行っているCortexyme、エピジェネティクス(ヒストン脱アセチル化酵素)に着目した創薬を行っているRodin Therapeuticsなどがある。


・今回紹介するAthira Pharmaは、これらのアプローチとは異なった、神経栄養因子のシグナルを活性化する低分子化合物を用いたアルツハイマー病の治療薬創製を目指すバイオベンチャーである。


・アルツハイマー病は、神経細胞の脱落が起こった結果、認知機能が低下する疾患と考えられてきた。そのため、神経細胞の脱落を抑制するアプローチとして、神経保護効果を持つ薬の開発が古くから行われてきた。しかし、現状では神経保護効果を持つアルツハイマー病治療薬は作られていない。富士フィルム富山化学は、メカニズム不明だが神経保護効果を持つ低分子化合物T-817MAの開発を行っており、現在Phase II治験中である(富士フィルム富山化学パイプライン)。


・Athira Pharmaではhepatocyte growth factor (HGF)およびHGF受容体METを介して、神経細胞の成長因子シグナルを増強する低分子化合物を開発している。HGF/METは、既存の神経細胞を損傷から守り、炎症を抑え、再生を促進し、脳活動を積極的に調節する可能性が報告されている。


・脳におけるHGF/METシグナルを増強するための、HGFタンパク質やHGFを発現する遺伝子治療薬の中枢神経系への送達は、血液脳関門を透過するための技術が必要であることや、免疫反応を引き起こす可能性があることから、ハードルが高い。Athiraの新規低分子化合物は、血液脳関門を透過でき、HGF/METシグナルによる再生能力を効率的に利用することを可能にしている。中枢神経系疾患、特にADの治療においては、神経細胞の成長因子を標的とした治療は、迅速な認知機能の改善や持続的な神経保護効果など、いくつかの治療目標を達成する可能性があるとAthiraは考えている。


・Athiraが保有するATHプラットフォームは、血液脳関門透過性のある化合物や末梢で特異的な活性を示す化合物、皮下または経口投与用の分子を柔軟に設計する技術である。このプラットフォームを用いてHGF/METシグナルの生体修復機構を強化することで、アルツハイマー病、パーキンソン病認知症(PDD)、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの中枢神経系疾患から、神経障害などの末梢性疾患まで、幅広い臨床応用が期待できるとAthiraは考えている。また、HGF/METシグナルのバイオロジーは、うつ病や不安症などの精神神経疾患にも関与していると考えている。


パイプライン:

ATH-1017

HGFおよびその受容体METシグナルを活性化する、血液脳関門透過可能な低分子化合物。皮下投与。神経保護効果と再生促進効果が期待される。

開発中の適応症

・Phase II

アルツハイマー病

・前臨床研究段階

パーキンソン病認知症


ATH-1019

HGFおよびその受容体METシグナルを活性化する、血液脳関門透過可能な低分子化合物。経口投与。うつ病や不安症においてHGF/METシグナルの低下が報告されている。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

うつ病、不安症


ATH-1018

HGFおよびその受容体METシグナルを活性化する低分子化合物。経口投与で末梢神経系に作用する。神経炎症性サイトカインや疼痛関連遺伝子の発現を抑制する効果、シュワン細胞の活性を介した末梢神経損傷を修復する効果が期待される。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

神経因性疼痛


コメント:

・HGFといえば、アンジェスの遺伝子治療用製品ベペルミノゲンペルプラスミド(コラテジェン)はHGFを発現するプラスミドDNAで、慢性動脈閉塞症における潰瘍の改善効果を持つことが治験で示されている(参考)。血管が詰まり血流が悪くなっている虚血性疾患に対しHGFによる血管を新生する効果が作用していると考えられている。


・神経栄養因子によるアルツハイマー病治療は、古くから考えられてきたアプローチで、たとえ神経保護効果があっても認知機能の改善が見られないのではないかと考えられてきた。ATH-1017はPhase I試験で、脳波測定による事象関連電位P300潜時の回復が見られたことを報告しており、AthiraはP300潜時の変化は、認知機能の改善と関連していて、その改善は神経細胞の結合の長期的な再生と脳機能の改善 に起因しているとしている。しかし、P300の改善と認知機能改善の関係についてはまだ分かっていないため、現状このデータでアルツハイマー病の認知機能を改善できるかははっきりしない。今後の治験結果に注目したい。


キーワード:

・神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病)

・低分子化合物

・神経栄養因子(HGF)


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても筆者は責任をとれません。よろしくお願いします。

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