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Neuraly (Germantown, MD, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第128回)ー


”ミクログリアによるアストロサイトのA1アストロサイトへの変換によって神経細胞死が起こる”というメカニズムに着目した神経変性疾患治療薬の開発を行っているバイオベンチャー

ホームページ:http://www.neuralymed.com/

背景とテクノロジー:

・アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は現状、病気の進行を止めることができないばかりか、進行を遅らせる治療薬もない。アルツハイマー病にはアミロイドβが、パーキンソン病はαーシヌクレインが原因物質であるという仮説があるが、それらの分子を標的とした治療薬は今のところ治療効果を証明する結果を示せていない。

・神経変性疾患の治療戦略として神経免疫・神経炎症領域に着目が集まっている。Denali Therapeuticsは、ミクログリアによる炎症反応を阻害するRIPK1阻害剤をアルツハイマー病・ALSを適応として開発している。一方、Alectorは、ミクログリアの貪食能を活性化させることで、アミロイドβなどの変性たんぱく質がミクログリアに取り込まれ、変性たんぱく質の分解が促進されることでアルツハイマー病に効果を持つというメカニズムの創薬を行っている。また、GliaCureは、ミクログリアに発現する、プリン受容体の一つであるP2Y6受容体に作用する低分子化合物をアルツハイマー病を適応として開発している。この化合物によりミクログリアは貪食能が活性化され、アミロイドβが貪食され、脳内アミロイドβ量が減少する。

・今回紹介するNeuralyも、神経免疫領域を中心とした創薬を行っているバイオベンチャーである。脳内には3つの異なるグリア細胞、アストロサイト・オリゴデンドロサイト・ミクログリアがある。アストロサイトは神経細胞の保護や、神経伝達に関わっている。オリゴデンドロサイトは神経細胞の軸索に巻きつきミエリン鞘を形成しており、跳躍伝導に重要な役割を果たしている。ミクログリアは脳内の免疫細胞で、炎症や免疫の役割を担っている。最近の研究により、反応性アストロサイトにはA1とA2という異なる状態が存在していて、A1アストロサイトは神経細胞に毒性を持つ分子を分泌するのに対して、A2アストロサイトは神経細胞に保護効果を持つ分子を分泌すると考えられている。アストロサイトからA1アストロサイトへの転換には(αーシヌクレインなどにより)活性化されたミクログリアの関与が報告されている。

パイプライン:

NLY01

脳内に移行し長期間働き続けるポリエチレングリコール化したglucagon-like peptide 1(GLP1)受容体アゴニストExendin-4(39アミノ酸のペプチド、インクレチンの模倣物)。週1回の皮下投与。ミクログリアのGLP1受容体に結合しミクログリアの活性化を抑制することでアストロサイトからA1アストロサイトへの転換を阻害する。これによりA1アストロサイトによる神経毒性を抑制する(詳細はこの日本語解説記事)。

開発中の適応症

・Phase I

パーキンソン病、レビー小体型認知症/アルツハイマー病

NLY02

血液脳関門を透過できるキナーゼ阻害剤。グリア細胞の活性化を抑制する。

開発中の適応症

・動物モデルでの薬効毒性検証段階

適応症未開示

NLY03

神経細胞の生存に関与する経路を標的とする薬剤。

開発中の適応症

・リード化合物最適化段階

適応症未開示

コメント:

・GLP1受容体アゴニストExenatide(II型糖尿病治療薬)のパーキンソン病でのPhase IIは結果が報告され、運動機能を有意に改善したことが報告されている(こちら)。差はそれほど大きくないが。

・アルツハイマー病においては、アミロイドβがミクログリアを活性化するので、ミクログリアの活性化をNLY01で止めるというメカニズムのようだが、発症後もしくはMCI(軽度認知障害)まで進行した状態でアミロイドβによるミクログリアの活性化を抑えて効果が出るのかが疑問。軽度アルツハイマー病患者さんやMCIのヒトに抗アミロイドβ抗体で脳内のアミロイドβ量を下げても認知機能に影響がなかったことを考えると、メカニズム的には厳しそうな気がする。だから、パーキンソン病と類似のメカニズムのレビー小体型認知症で進めているのかもしれないが。

キーワード:

・神経炎症

・ミクログリア

・神経変性疾患(パーキンソン病、レビー小体型認知症)

・中分子薬(ペプチド医薬品)

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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