Alector (South San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第84回)ー

August 16, 2019

脳内の免疫システムを賦活化することでアルツハイマー病などの神経変性疾患を治療しようとする新しいアプローチを行っているバイオベンチャー。がん免疫に続いて神経免疫もブレイクするのか?

 

 

ホームページ:https://www.alector.com/

 

 

背景とテクノロジー:

・国際アルツハイマー病協会によると、アルツハイマー病を始めとする認知症を患う人は2015年では世界で約4680万人、2030年に7470万人、2050年には1億3150万人になると予測されている(参考)。

 

・アルツハイマー病の原因としてはアミロイド仮説があり、アミロイドβが神経細胞で産生されることで発症する可能性やその発症メカニズムに関して数多く報告されている。また、神経細胞内においてタウという分子の過剰リン酸化が原因であるという仮説も多くの報告がある。

 

・そこで、アミロイドβやタウをターゲットとした低分子や抗体が開発され、海外大手製薬会社を中心に大規模な臨床試験が行われたが、現在のところ承認されている薬はない。アミロイドβの産生に関わる酵素であるBACEやγセクレターゼに対する薬のほとんどは臨床試験で失敗した。アミロイドβ抗体についてはファイザーやイーライ・リリーは開発を断念したが、バイオジェン/エーザイが開発中のアデュカヌマブやBAN2401が後期臨床試験段階にあり、結果が注目されている。

 

・そんな中でアルツハイマー病の原因として新たなターゲット候補分子が報告されてきている。例えばRodin Therapeuticsはエピジェネティクスを調節する分子に対する治療薬を開発している(参考)。Denali Therapeuticsは、ミクログリアを活性化する分子をターゲットとした治療薬を開発中である(参考

 

・Alectorは、アルツハイマー病において一塩基多型が見つかったTREM2、Siglec-3をターゲットとした治療薬を開発中である。ホームページ掲載のイラストを見る限りはミクログリアを賦活化する、TREM2、Siglec-3に対する抗体医薬品を開発していると推測される。

①TREM2は脳内では主に一部のミクログリアで発現し、TREM2をノックダウンするとミクログリアの貪食能が低下する。

②Siglec-3(CD33)はシアル酸受容体たんぱく質ファミリーに属する分子で、アルツハイマー病の脳において発現が増加していると報告された。Siglec-3の発現が増加するとミクログリアの貪食能が下がると言われている。

 

・ミクログリアの貪食能を活性化させることで、アミロイドβなどの変性たんぱく質がミクログリアに取り込まれ、変性たんぱく質の分解が促進されることでアルツハイマー病に効果を持つ可能性がある。

 

 

パイプライン

AL001

前頭側頭型認知症(FTD)の患者さんの一部ではプログラニュリンの量が減っていることが報告されており、AL001は脳内のプログラニュリンの量を増やすことができる抗体医薬品である。ターゲット分子は分泌型の免疫調節分子で、この分子の遺伝子変異によってFTDが促進することが報告されている。

開発中の適応症

・Phase I

前頭側頭型認知症

https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03636204

 

 

最近のニュース:

Alector and AbbVie Announce Collaboration to Advance a Novel Class of Immune Therapies for Patients with Alzheimer's Disease(2017年10月24日)

AlectorとAbbVieはアルツハイマー病などの神経変性疾患に対する神経免疫療法の研究開発のための業務提携契約を締結した

 

Alector Teams Up with Johnson & Johnson Innovation to Explore Novel Alzheimer's Target(2014年3月10日)

Johnson & Johnson Innovation Centerとアルツハイマー病治療薬研究に関する共同研究契約を締結した

 

 

コメント:

・今回シリーズEの資金獲得に伴い、ターゲット分子の一部を公表したが、これまでミクログリアを賦活化する創薬を行っていることぐらいしか公表されていなかった。

 

・Denali Therapeuticsはミクログリアの活性化がアルツハイマー病に関わっているとして、ミクログリアの活性化を止める方向の治療薬開発を行っており、Alectorとは真逆の方向である。ミクログリアがシナプスを貪食することで神経細胞間ネットワークが阻害されることでアルツハイマー病になるという仮説もある。

 

・日本人のAD患者さんではTREM2の一塩基多型は見つかっておらず、TREM2を標的とした治療薬が効果を持つ患者さんの層別化を行うことが必要となるかもしれない。その層別化をどうやって行うのか(遺伝子検査?バイオマーカー探索?)が非常に難しい。

 

・GWAS解析で明らかになった関連遺伝子は疾患への関与は弱い場合が多い。個人的には単一ターゲット分子で攻めるのは弱すぎると思う。ミクログリアの貪食能を活性化するフェノタイプに対する創薬でマルチターゲットの薬を作った方が効果が出るのでは?と思う(ただ副作用も強くなる可能性があるが)。

 

・2018年7月25日に発表されたシリーズEではAbbVie Ventures、Amgen Venturesなどからの出資を受けている。それ以外に過去にもJanssen Pharma、Merckなど大手製薬から出資を受けている。アルツハイマー病の疾患修飾薬でステージが進んでいるものが少ないためにここに資金が集中するのだろう。まだまだアルツハイマー病の疾患修飾薬にはチャンスがありそうだと思った。

 

 

キーワード:

・神経変性疾患(アルツハイマー病、前頭側頭型認知症)

・神経免疫(ミクログリア)

・抗体医薬品

 

 

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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