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Arcturus Therapeutics (San Diego, CA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第216回)ー


自己増殖型mRNAという、投与後の生体内でmRNAが増えることにより、より高い抗原発現およびワクチン効果が期待されるSTARR™技術を持つ新たなmRNAワクチンを開発しているバイオベンチャー。1回投与で十分な効果が期待されるとのこと。


ホームページ:https://arcturusrx.com/


背景とテクノロジー:

・新型コロナウイルス感染症COVID-19のワクチンとして、BioNTech/ファイザーのトジナメラン(製品名コミナティ筋注)、ModernaのModerna COVID‑19 Vaccine、Oxford大/アストラゼネカのCovishield/Vaxzevria、ジョンソン&ジョンソンのJanssen COVID-19 Vaccineなどが各国で承認されている。なかでも、BioNTech/ファイザーとModernaのワクチンは、これまでのところ高い有効性と安全性が報告されている。これら2つのワクチンはSARS-CoV-2スパイクたんぱく質をコードするmRNAを内包した脂質ナノ粒子で作られている(アストラゼネカとジョンソン&ジョンソンのワクチンはスパイクたんぱく質を発現するアデノウイルスベクター)。新型コロナウイルス感染症の流行前は、mRNAを用いた承認薬はなく、その創薬への応用は未知数の部分が多かった。しかし、BioNTech/ファイザーとModernaのmRNAワクチンが承認され、市販後も臨床での高い効果が見られていることからmRNA創薬の発展に注目が集まっている。


・mRNA創薬技術は主に以下の2つの要素に分けられる

①ウラシルを2-メチルシュードウリジンに置換したmRNA(SARS-CoV-2のスパイクたんぱく質をコードしている)

②mRNAを安定化させ、細胞への取り込みを高め、細胞内に入った後のmRNAのバイオアベイラビリティを向上させるデリバリー技術である脂質ナノ粒子(LNP)

それ以外にも5’のキャップ構造や非翻訳領域、3’の非翻訳領域やpolyA領域にも工夫が施されている(詳細はこちら)。


・これらの最先端の分子生物学の結晶がmRNAワクチンであり、その高い効果と安全性が実臨床で確認されたことは、これまでの多くの研究者の貢献が結実したという意味で非常に感慨深いものがある。一方でmRNA技術を、今回の新型コロナウイルスワクチンとして利用するだけでなく、今後の新興感染症やがんワクチン、その他のワクチン、治療薬として応用するためには、さらなる技術革新が必要とされてくる。


・今回紹介するArcturus Therapeuticsは、自己増殖型mRNAを用いたワクチンの開発を行っているバイオベンチャーである。現行のmRNAは投与した分のmRNAが時間とともに分解されるとそれで効果は消失する。しかし、Arcturus Therapeuticsの自己増殖型mRNAは、細胞にデリバリーされた後もそのmRNAを増やすことができるため、より持続的な効果が期待できる。


・自己増幅型mRNAワクチンは、アルファウイルスのゲノムバックボーンから派生したもので、ウイルスのmRNA複製装置(Replicase)をコードする遺伝子はそのままに、ウイルスの構造タンパク質をコードする遺伝子をワクチン抗原をコードする導入遺伝子に置き換えたものである(詳しくはこちらのFigure.1を参照)。自己増殖型mRNAでは、転写産物が初回投与時よりも数桁も増幅される。投与量を節約する効果をもたらすだけでなく、生ワクチンに類似した自然免疫応答や適応免疫応答を引き起こす可能性もあるとのこと。この技術により、より少ない量のワクチンで同じ免疫反応を実現することができるかもしれない。


・Arcturus Therapeuticsは独自技術であるSelf Transcribing and Replicating RNA (STARR™)を保有している。これは現行の一般的なmRNAよりも生体内でのタンパク質の発現量が多く、また、血中およびリンパ節での自然免疫応答、B細胞応答、T細胞応答の遺伝子発現を増加させることができ、優れたワクチン誘導免疫応答を示すとしている。ジョンソン&ジョンソンのアデノウイルスベクターワクチンを除く現在のCOVID-19ワクチンは、十分な適応免疫を得るために2回以上の投与を必要としている。しかし、現在のように多くの人にワクチンを接種する必要がある場合、2回以上の投与は煩雑である。ワクチンを介した免疫増強のリスクを高めることなく、1回の投与で強固で持続的な細胞性および液性免疫を生成するワクチンが必要とされている。


・Arcturus TherapeuticsはLipid-enabled and Unlocked Nucleomonomer Agent modified RNA (LUNAR®)と名付けられた脂質ナノ粒子(LNP)の独自技術を保有している。これは、治療用核酸をカプセル化し、エンドサイトーシスと呼ばれるプロセスを経て、標的細胞に安全に送達する仕組み。LUNAR®は、siRNAやmicroRNAのような非常に小さなRNAや、大きなmRNA、CRISPRやTALENのような遺伝子編集技術の送達に使用できる。また、LUNAR®は、以下のような特徴を持つ

①複数の投与経路(静脈内投与、筋肉内投与、経肺投与、網膜下投与、硝子体内投与)で投与することができる

②星状細胞、肝細胞、肺上皮細胞、眼球細胞、筋細胞など、臨床的に重要な複数の異なる細胞を標的とすることができる

③異なるRNAの混合物を1つの製剤として送達することができる

④RNAやDNAのカプセル化効率が高くなるように最適化されており、これは製造コストの面でも重要


パイプライン:

LUNAR-COV19 (ARCT-021)

STARR™技術とLUNAR®技術を用いてSARS-CoV-2のスパイクたんぱく質を発現するmRNAワクチン。筋肉内投与。1回投与を想定。

開発中の適応症

・Phase II

COVID-19感染予防


LUNAR-FLU

STARR™技術とLUNAR®技術を用いた季節性インフルエンザ予防のmRNAワクチン。筋肉内投与。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

季節性インフルエンザ感染予防


LUNAR-OTC (ARCT-810)

オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)の遺伝子異常によりアンモニアの解毒が出来ず、高アンモニア血症を来すOTC欠損症に対して、OTC mRNAをLUNAR®技術で内包化、静脈内投与し肝臓におけるOTC発現を促す。

開発中の適応症

・Phase Ib


LUNAR-CF (ARCT-032)

cystic fibrosis transmembrane conductance regulator (CFTR) 遺伝子の変異が原因となる常染色体劣性遺伝疾患である嚢胞性線維症に対してCFTR mRNAをLUNAR®技術で内包化、経肺投与し気管支上皮細胞におけるCFTR発現を促す。

開発中の適応症

・非臨床研究段階


その他(詳細未開示)

LUNAR-HBV:B型肝炎ウイルス感染症を適応としたmRNA。ジョンソン&ジョンソンとの共同開発

LUNAR-NASH:非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を適応としたmRNA。武田薬品工業との共同開発

LUNAR-GSD3:糖原病(グリコーゲン代謝酵素欠損によるグリコーゲン蓄積症の総称)を適応としたmRNA。Ultragenyx Pharmaceuticalとの共同開発



コメント:

・自己増殖型mRNAという独自技術は興味深いが、生体内でmRNAを増やすためにreplicaseを発現させる必要がある。この分子が発現することについてヒトでの安全性はまだ確認されていないのではないか。


・LUNAR-COV19(ARCT-021)については、すでに治験が進行中だが、ファイザー/BioNTechなど他社承認済みワクチンが普及してきており、治験が最後までできるのかが懸念点。他社ワクチンでCOVID-19のパンデミックが収束していけば、Phase IIIを行うのが困難になることが予想される。実際、COVID-19ワクチン開発を断念するところも出始めてきている。


キーワード:

・自己増殖型mRNAワクチン

・脂質ナノ粒子(LNP)

・新型コロナウイルス感染症COVID-19

・感染症

・OTC欠損症

・嚢胞性線維症


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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