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Abivax (Paris, France) ーケンのバイオベンチャー探索(第247回)ー

更新日:2021年12月12日


長鎖非コードRNAからmiRNAが切り出される過程を促進することで、特定のマイクロRNAの発現を上昇させる低分子化合物を開発しているバイオベンチャー。対象疾患は炎症性疾患(潰瘍性大腸炎、リウマチなど)で、治験進行中。


ホームページ:https://www.abivax.com/


背景とテクノロジー:

・マイクロRNA(miRNA)は20から25塩基の長さのノンコーディングRNA(たんぱく質に翻訳されないRNA)の1種であり、植物からマウス、ヒトと多くの種で存在が確認されている。内在性のmRNAに結合することで遺伝子の発現を制御する(部分相補的な配列(完全に相補的でない配列)のさまざまな遺伝子の発現を制御するため、どの遺伝子の発現が制御されるかはmiRNA配列からだけでは明らかにできない)。


・miRNAはがん、線維症、炎症性疾患、神経変性疾患などに関わっているとされている。特にがんへの関係については多くの報告がある。治療薬のターゲットとして、診断のバイオマーカーとしての可能性が示されている。


・miRNAを創薬ターゲットとしているバイオベンチャーとして、例えばRegulus TherapeuticsmiRagen Therapeuticsは、miRNAに結合しその機能を抑制するanti-miRや、miRNAの機能をミミックする核酸医薬品の開発を行っている。


・今回紹介するAbivaxは、同じくmiRNAを創薬ターゲットとしたバイオベンチャーだが、上記2社とは異なりモダリティとしては低分子化合物を用いている。つまりmiRNAを調節する低分子化合物創薬を行っている。フォーカスしている疾患領域は、炎症性疾患、ウイルス性疾患やがんなどの免疫系疾患。

・免疫細胞は、miRNAによってもリプログラミングされ、細胞の成長、分化、死などの生物学的プロセスを調節することができる。miRNAは、標的となるメッセンジャーRNAの3′-非翻訳領域に直接結合して翻訳を阻害したり、mRNAの分解を増加させたりすることで、遺伝子の発現を負に制御する。miRNAは、シグナル伝達経路全体に影響を与え、分化、生存、活性化など、骨髄系やリンパ系の細胞系の機能を変化させることができる。miRNAは、サイトカインをコードするmRNAや、サイトカインの発現につながるシグナル伝達経路に関与するたんぱく質を標的として、サイトカインの発現に影響を与えることができる。


・過去10年間のいくつかの研究により、miRNAが免疫反応の重要な制御因子であることが明らかになっている。例えば、制御性T(Treg)細胞に多く発現しているmiRNAの1つであるmiR-146aは、Treg細胞の抑制機能に不可欠である一方、Th1リンパ球ではmiR-146aは選択的にダウンレギュレートされ、Th1がIFNγやTNF-αを分泌するようになる。miR-146aと同様に、1つのmiRNAがほとんどの免疫細胞の発生と機能に極めて重要な役割を果たしていることがあり、また、miRNAの標的が転写因子、シグナル伝達たんぱく質、または細胞死の制御因子である場合には、場合によっては免疫機能障害や疾患の中心となることがある。状況によっては、miRNAが「オンオフ」ブレーキとして機能し、炎症を制御することもある。miRNAの生物学はまだ完全には解明されていないが、miRNAを利用した治療法の可能性を探ることは活発に行われている。

・miR-124は、炎症の負の制御因子として同定され、signal transducers and activators of transcription(STAT)やToll-like receptor(TLR)などのmRNAを標的とすることが示されている。また、リウマチなどの疾患や、小児の腸管障害患者さんでは、その発現低下が報告されている。一方、miR-124を過剰発現させると、STAT3 mRNAを標的として、IL-6やTNF-α変換酵素(TACE)の産生を抑制することで、腸の炎症を抑制することが示されている。また、miR-124は、ユビキチン特異的タンパク質(USP)2および14のmRNAと結合することで、マウスのマクロファージにおけるリポ多糖(LPS)誘導性のTNF-α産生を負に制御している。活動性潰瘍性大腸炎の小児患者さんでは、局所的なTNFの増加に加えて、結腸組織においてmiR-124のレベルが低下し、STAT3のレベルが上昇している。

・AbivaxのリードプロダクトであるABX464は、HIVの複製を標的としたスクリーニングによってRNA生合成を標的とするよう設計された化学物質ライブラリー2000化合物の中から単離された。ABX464は、HIVの複製を阻害し、HIVリザーバー(HIV潜伏感染細胞)を減少させる薬剤として開発されたが、RNA生合成の主要な構成要素であるキャップ結合複合体(CBC)に結合する。CBCは、スプライシング、核からのmRNAのエクスポート、細胞質でのRNA品質管理を制御している。ABX464-CBCの相互作用は、HIVのRNA生合成の品質管理に影響を与え、その結果、スプライスされていないHIV RNAの産生を防ぎ、HIVに感染した患者のウイルスリザーバーを減少させる。


・ABX464は、RNA生合成の主要な構成要素に結合しているのだが、ABX464で処理した初代CD4細胞のRNAについてディープシークエンスを行ったところ、全RNA転写産物の約0.1%しか影響を受けていなかった。ABX464は、単一のmiRNAであるmiR-124の発現に影響を与えることが、Affymetrix Genechip miRNA array 2.0およびTaqMan® Array Human miRNAを用いた解析から明らかになった。miR-124は、miR-124.1、miR-124.2、miR-124.3という3つのゲノム上の遺伝子座から転写される。ABX464は、miR-124.1遺伝子座からのみmiR-124の発現を誘導することが示された。miR-124.1遺伝子座には、長いノンコーディングRNAであるlncRNA 0599-205が含まれており、miR-124はこのlncRNAからスプライシングによって派生する。ABX464は、lncRNA 0599-255遺伝子座の転写活性化を誘導せずに、lncRNA 0599-205のスプライシングを通じてmiR-124の迅速な放出を可能にすることで、miR-124の発現レベルを上昇させている可能性がある。このことからABX464は、miR-124の選択的な発現を標的とするファースト・イン・クラスの薬剤であるということが示唆される。


・ABX464は、活性化したマクロファージやTh17細胞においてmiR-124を増加させることで、炎症反応の微調整を行う。一方、miR-124は、STAT3を標的としてマクロファージのサイトカイン産生を調節し、IL-1β、IL-6、TNF-αの分泌を抑え、Th17の増殖を抑制する。また、マクロファージにおけるmiR-124のアップレギュレーションは、monocyte chemoattractant protein 1 (MCP1)の産生を低下させ、好中球のリクルートを制限するとともに、常駐するマクロファージのM1からM2へのトランス分化転換を活性化し、組織修復を開始させる。一方、Th17細胞におけるmiR-124のアップレギュレーションは、STAT3を標的とし、IL-17やその他の炎症性サイトカインの産生を抑えることができる。このように、ABX464はmiR-124の誘導を介して、免疫反応を和らげる作用を持つことが非臨床研究において示されている。


・ABX464の無作為化プラセボ対照二重盲検8週間導入試験では、免疫調節剤、抗TNF-α抗体、vedolizumabおよび/またはコルチコステロイドのうち少なくとも1つに抵抗性または不耐容の中等度から重度の潰瘍性大腸炎患者さん32名に、ABX464 50mgまたはプラセボを投与された。ABX464を56日間投与した患者さんの直腸生検では、miR-124がプラセボ群に比べて7.6倍に増加していた。末梢血細胞では、さらに200倍を超えるmiR-124の増加が認められた。このABX464によるmiR-124の誘導は、少なくとも360日間持続した。


パイプライン:

ABX464

miR-124の発現レベルを選択的に上昇させる低分子化合物。ABX464を1日1回経口投与すると、中等度から重度の潰瘍性大腸炎患者さんにおいて、miR-124を上昇させながら、炎症を深く抑制し、臨床的、生物学的、内視鏡的寛解を誘導したとのこと(Phase IIの結果)。

開発中の適応症

・Phase II

潰瘍性大腸炎、リウマチ

・Phase I

クローン病


RSウイルスプログラム

詳細不明、非臨床研究段階

デング熱プログラム

詳細不明、探索研究段階


インフルエンザプログラム

詳細不明、探索研究段階


ABX196

がんモデルにおいて免疫増強効果を示す免疫細胞のアゴニストを特定する独自のプラットフォーム技術を用いて、iNKT細胞の合成アゴニストとして開発された。ABX196は、抗PD1抗体に反応しないがん(コールド)を抗PD1抗体に反応するがん(ホット)に変化させることが非臨床試験で示されている。

開発中の適応症

・Phase II

肝細胞がん


最近のニュース:

複数の重篤なウイルス性感染症に対する新規治療法の発見と開発を目的とした戦略的協力関係をEvotecと締結。mRNAの生合成を阻害する技術と、1,000以上の低分子化合物からなる化学物質ライブラリーを基にしたAbivaxの抗ウイルスプラットフォームを用いて、Evotecがメディシナルケミストリーのデザインと実行、追加の薬理学、ADME(吸収、分布、代謝、排泄)、さらには計算化学、作用機序、分子標的の同定研究を行う。


コメント:

・長鎖ノンコーティングRNAからmiRNAが切り出される過程を促進する低分子化合物というユニークな創薬を行っているAbivax。このような作用機序の創薬を狙ってできるのであれば非常にユニークなバイオベンチャーとなるだろう。

・pre-mRNAからmature mRNAにスプライシングされる過程を調節する低分子化合物としてPTC Therapeutics/RocheのRisdiplamがあり、SMN2 pre-mRNAのスプライシングを特異的に制御する。このように特異的に長鎖ノンコーティングRNAからmiRNAのスプライシングを制御できるならすごい。どの程度miR-124特異的な作用なのかが知りたいところ。


キーワード:

・低分子化合物

・miRNA

・長鎖ノンコーティングRNAスプライシング

・炎症性疾患

・がん


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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