就活生と話をした時のことです。「あなたは製薬会社に入ったら、どんなことがしたいですか?」と訊いたら
「がんでしか発現していない分子を見つけて、創薬ターゲットにして、副作用のない抗癌剤を作りたい。」
と答えてくれました。確かにそういう抗癌剤があればいいと思いますが、みんな同じことを思って研究しています。でもそのアプローチではなかなか薬ができないから苦労しています。そこで私は訊きました。
「がんでしか発現していない分子ってどんなものでしょうか?微生物なら、微生物固有の分子があります。人と微生物では全然違う分子を持っているからです。だから副作用の少ない抗生物質はたくさんあります。がん細胞って決して体の外部から侵入したものではなくて、自分の細胞の一部が、(遺伝子全体から見れば)多少の遺伝子変異を起こした困った細胞に過ぎず、基本的には正常細胞とよく似ています。そんな状況で今まで見つかっていない新しい「がんでしか発現しない分子」をどうやって探しますか?」
それに対して、その就活生の人は一生懸命答えてくれましたが、独自の戦略までは持ち合わせていない感じでした。この就活生は非常に真面目で優秀な学生でした。でも、
誰でも思いつくことを言っているだけではだめ
です。今年ノーベル医学・生理学賞を受賞された大隅良典先生は、ご自身の研究を始められた理由を
人がやらないことをやろうと思ったから
とおっしゃっています。そこまではできないにしても、
誰でも思いつくことだけしか選択肢がない
というのは答えとして十分ではなく、「この人はちゃんと考えて研究できるのかな?研究力は十分なんだろうか?」と思われてしまうかもしれません。「がんにしか発現しない分子をみつける」でも良いと思います。でもどうやってそういう分子を見つけるか?というところに独自の考えやアプローチを複数持っていてこそ、研究力の高さが示せるのではないかなと思います。もちろん、そもそもの着想点から独自性が高くて、それに具体性が伴っていればエクセレントですけど、そこまですごくなくても、どこかであなたのキラリと光る研究力を発揮してほしいです。まずは
誰でも思いつくようなことではないことを常日頃から考える
ようにするのが大事だなって思います。参考になれば幸いです。
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