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ViGeneron (Planegg, Germany) ーケンのバイオベンチャー探索(第265回)ー

更新日:2022年6月5日

アデノ随伴ウイルスベクターの課題の一つである搭載遺伝子サイズの制限(4.7kb以下)に対して、トランススプライシングという技術を利用した独自プラットフォームでの解決を目指すバイオベンチャー


ホームページ:https://vigeneron.com/


背景とテクノロジー:

・遺伝子治療は、今や臨床の場で現実のものとなっている。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、天然に存在する非病原性の安全で効率的な遺伝子導入技術である。AAVベクターは、前臨床試験および臨床試験で広く評価され、これまで治療が困難であった疾患の治療にますます使用されるようになってきている。このベクターは、補充された導入遺伝子を長期間にわたって発現させるために安全かつ効率的であることが証明されている。しかしながら、遺伝子治療におけるAAVベクターの広範な使用は、現在2つの重要な要因によって妨げられている。

①DNAの搭載能力に限界があるため、大きな遺伝子を扱うことができない。

②生物学的障壁を越える能力が限られているため、局所的な投与が必要となり、投与経路が限定される。


・第258回でAAVベクターの課題の一つである搭載遺伝子サイズの制限(4.7kb以下)に対して、たんぱく質スプライシングという独自技術プラットフォームでの解決を目指すバイオベンチャーとしてSpliceBioを紹介した(こちら)。今回紹介するViGeneronも上記②の搭載遺伝子サイズの制限に対して別のアプローチでの解決する独自技術を持つバイオベンチャーである。


・ViGeneronでは、既存のAAVを用いた遺伝子治療法の上記の限界を克服するために、2つの次世代遺伝子治療プラットフォームを開発した。

vgAAVベクタープラットフォーム

vgAAVは、ViGeneron独自のAAVベクタープラットフォームで、新規に設計されたAAVキャプシドを用いる。vgAAVベクターは、標的細胞への導入性に優れ、生物学的障壁を効率的に越えることができるように設計されている。現在は眼科領域をターゲットとしているが、それ以外の領域への応用も可能。

Spark Therapeuticsの遺伝性網膜ジストロフィー治療AAVベクターLUXTURNA (voretigene neparvovec)など、現状の承認されている眼科領域の遺伝子治療は、網膜下投与が多い。網膜下投与は網膜と脈絡膜の間の狭いスペースへの投与のため、投与により網膜に付随的傷害が起こるリスクがある。また、網膜全体に側方拡散できないため、網膜の局所にしか遺伝子導入できない。硝子体内投与はこれらの網膜下投与の課題を解決できるが、これまでのAAVベクターの硝子体内投与では網膜の一部の細胞(網膜神経節細胞)へしか遺伝子導入できず、視細胞などの網膜疾患で障害が起こる細胞へのターゲティングが難しかった。vgAAVは、硝子体内投与で高効率に視細胞に遺伝子導入できるように設計されている。また網膜下投与においても側方拡散し、網膜の広い領域に遺伝子導入できるとのこと。

REVeRT(Reconstitution via mRNA trans-splicing)

REVeRTは、大型遺伝子を導入するためのViGeneronの次世代ベクタープラットフォーム。メッセンジャーRNAスプライシングは、隣接するたんぱく質コード配列をシームレスに結合するための非常に効率的な細胞内プロセスであり、それによって機能的な遺伝子産物の形成が可能になる。このスプライシングプロセスは、通常1つのプレmRNA分子で行われるが(シススプライシング)、2つの別々のmRNA分子をライゲーションするために使用することも可能である。後者はmRNAトランススプライシングと呼ばれ、ViGeneronのREVeRT技術の基礎となっている。REVeRTは、AAVの限られたゲノム容量(<5Kb)を克服するために開発された。この技術は、デュアルAAVベクターアプローチを用いた遺伝子サイズの制限におけるブレークスルーを提供できる。REVeRT は、目的の大型たんぱく質の近位部分と遠位部分をコードする 2 つの mRNA を、非常に効率的かつ正確に再構成することができる。分割された遺伝子部分は個々の vgAAV ベクターにパッケージされ、混合され、標的組織に共送される。REVeRT は mRNA およびたんぱく質レベルで高い再構成効率を達成する。


パイプライン:

VG901

5kb以下の遺伝子(詳細未開示)を搭載したvgAAVベクター

開発中の適応症

・前臨床研究段階

網膜色素変性症

VG801

5kb以上の遺伝子(詳細未開示)を搭載したvgAAVベクター

開発中の適応症

・非臨床研究段階

遺伝性網膜疾患(IRD)


加齢黄斑変性症プログラム

新規ターゲット遺伝子を搭載したvgAAVベクター

開発中の適応症

・探索研究段階

加齢黄斑変性症


最近のニュース:

眼疾患を治療するために第一三共の新規治療用たんぱく質を送達するためのViGeneronのAAVベクター(vgAAV)を評価するフォローオン協力に合意


リジェネロンが、1つの遺伝性網膜疾患ターゲットに対するViGeneronのvgAAVキャプシドへのアクセス、および遺伝子治療製品の開発・商業化のための独占的ライセンスのオプションを取得


遺伝性眼疾患治療のためのAAVベクターを用いた遺伝子治療製品の開発および商業化に関するグローバル共同およびライセンス契約をBiogenと締結


コメント:

・上記の最近のニュースから分かるように、ここ最近で大手製薬会社と、独自AAVベクターを利用した契約を締結している。乱立気味なカプシド変異AAVベクターのバイオベンチャーの中でこの会社が選ばれているということは、このViGeneronのAAVベクターが非常に有望ということなのだろう。


・網膜の最上部である網膜神経節細胞は、硝子体内投与で遺伝子導入しやすいが、網膜の深部に存在する視細胞や双極細胞、網膜色素上皮細胞への遺伝子導入は一般的なAAVベクターは効率が低い。ViGeneronのvgAAVベクターがこれらの深部の細胞に入りやすい理由は不明だが、それが可能であれば大きな利点となるのは間違いない。網膜下投与は患者さんの負担が大きい一方、硝子体内投与はすでに抗体医薬品(加齢黄斑変性症治療薬アイリーアやルセンティス)で行われている比較的簡便な投与法であり、硝子体内投与に変更できる利点は大きい。


キーワード:

・遺伝子治療(アデノ随伴ウイルス(AAV))

・カプシド変異AAVベクター

・眼疾患

・トランススプライシング


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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