top of page
検索

Unum Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第148回)ー

更新日:2020年1月19日


CAR-T療法を固形がんに拡張するための2つの独自プラットフォームACTR(Antibody-Coupled T Cell Receptor)とBOXR(Bolt-on Chimeric Receptor)を持つバイオベンチャー



ホームページ:https://www.unumrx.com/



背景とテクノロジー:

・T細胞に外来性にキメラ抗原受容体(CAR)を発現させたCAR-T細胞を用いた治療法が難治性の血液がんにおいて非常に高い治療効果が得られることが明らかとなり、たくさんの会社が開発を進めている(Kite Pharma(2017年Gileadにより買収)、Juno Therapeutics(2018年Celgeneによる買収)、bluebird bioなど)。一方で、固形がんにおけるCAR-T療法の効果は今のところ限定的である。


TorqueはT細胞表面にサイトカイン、抗体、低分子などのさまざまな分子をアンカリングさせるDeep-Primingテクノロジーという技術を用いて固形がんへのT細胞療法応用を目指している。この技術によりがん細胞を認識するT細胞だけを活性化することができるとされる。


Carisma Therapeuticsでは、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するマクロファージを作製し、がん患者さんに投与することで、がん細胞がマクロファージにより認識、貪食、分解される。分解されたがん細胞はがん抗原としてマクロファージがMHC上に提示することで患者さん自身のT細胞が認識し、獲得免疫が活性化される。現行のCAR-T細胞よりも固形がんに効く可能性が高いのではと期待されている。


・今回紹介するUnum TherapeuticsはCAR-T療法を固形がんに応用するために以下の2つのプラットフォームを開発しているバイオベンチャーである。

ACTR(Antibody-Coupled T Cell Receptor)

通常NK細胞が発現しているCD16はFc受容体として機能している。このCD16の細胞外ドメインを発現するCAR(細胞内ドメインは4-1BBとCD3-zeta)を患者さん由来のT細胞に発現させ、患者さんに戻す。がん抗原を認識する抗体を投与するとCD16-CAR-T細胞が活性化され、がん細胞を除去するというメカニズムである。抗体医薬品とCAR-T細胞を組み合わせることで効果が増幅されることとオフターゲット効果軽減を狙っている。

BOXR(Bolt-on Chimeric Receptor)

がん微小環境下におけるT細胞の増殖や生存に必須な主要制御遺伝子の独自遺伝子ライブラリーを用いてスクリーニングを行い、T細胞に関して広範で優れた機能を持つ遺伝子を見出す。この遺伝子の機能を詳細に解析しBOXR候補分子としてリストアップする。非臨床研究の結果からBOXRを選択し、ウイルスを用いた遺伝子導入による製造プロセスを確立する。

このプラットフォームから、代謝競合(https://www.cosmobio.co.jp/aaas_signal/archive/ec-20151006.asp)、免疫抑制細胞、細胞疲弊などの固形がんのがん微小環境下における免疫抑制メカニズムを明らかにし、その制御因子をCAR-T細胞やACTR-T細胞などの治療用T細胞に導入する。



パイプライン:

Fc領域を認識するCD16の細胞外領域を持つCARを発現するT細胞を用いた自家移植細胞療法。HER2過剰発現が確認された乳癌および胃癌治療薬である抗HER2抗体トラスツズマブと共投与。

開発中の適応症

・Phase I

HER2を過剰発現している固形がん


ACTR707+リツキシマブ

Fc領域を認識するCD16の細胞外領域を持つCARを発現するT細胞を用いた自家移植細胞療法。正常および腫瘍細胞両方のプレB~成熟B細胞マーカーであるCD20を認識する抗体であるリツキシマブと共投与。

開発中の適応症

・Phase I

再発性で治療抵抗性の非ホジキンリンパ腫


BOXR1030

肝細胞がんや肺扁平上皮がんなど一部の固形がんの表面抗原であるGlypican-3を認識するCARとglutamic-oxaloacetic transaminase 2 (GOT2)を発現するT細胞を用いた自家移植細胞療法。GOT2発現によってT細胞における代謝を活性化し、がん微小環境下のがん細胞によるグルコースなどの栄養分の枯渇を競合する。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

肝細胞がんや肺扁平上皮がんなどの固形がん


ACTR807+SEA-BCMA

Fc領域を認識するCD16の細胞外領域を持つCARを発現するT細胞を用いた自家移植細胞療法。多発性骨髄腫のマーカーであるB細胞成熟抗原(BCMA)を認識するSEA-BCMAとの共投与。

開発中の適応症

・開発ステージ不明

多発性骨髄腫



最近のニュース:

ACTR807+SEA-BCMAの臨床開発および商業化に関するコラボレーション契約をSeattle Genetics 締結。SEA-BCMAはSeattle Genetics の独自技術であるsugar-engineered antibody (SEA)技術によって作られた抗BCMA抗体。



コメント:

・ACTR技術は、さまざまな既存のがん抗体医薬品と組み合わせることができるので拡張性が大きそう。ACTR707とリツキシマブとの併用療法が、CD19 CAR-T療法(Kymriah、Yescarta)単独、もしくはリツキシマブ単独に比べて効果や安全性が高いのかどうかが現状の注目ポイントか。


・ACTR技術はがん細胞の表面抗原に依存しているため、がん細胞が多様性を持つ固形がんにおいては効果は限定されるかもしれない(固形がんにおいてCAR−T療法の効果が限定的である理由についてはCarisma Therapeuticsの「背景とテクノロジー」欄参照)。固形がんへのアプローチの本命はBOXR技術かもしれないが、これはどのような主要制御因子が見つかるかに依存している。BOXRプラットフォームからどんな因子が見つかるかが期待。



キーワード:

・がん免疫療法

・細胞治療(CAR-T療法)

・固形がん



免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

bottom of page