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SQZ Biotechnologies (Watertown, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第235回)ー


細胞内に低分子・ペプチド・蛋白・核酸・ナノ分子などを取り込む独自技術を用いて、細胞移植による新たながん免疫療法の確立を目指すバイオベンチャー


ホームページ:https://sqzbiotech.com/


背景とテクノロジー:

・SQZ Biotechnologiesは、2018年にブログで紹介(こちら)しているが、その後パイプラインの詳細が明らかになり、その一部が臨床試験に進むなど進捗が見られていることから再度報告することにした。


・免疫チェックポイント阻害薬やCAR-T細胞療法などのがん免疫療法が臨床で高い効果を示すことが示されたことから、さまざまなアプローチでの新規がん免疫療法の開発が進んでいる。そのアプローチとしては、抗体医薬品や二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)、核酸医薬品や腫瘍溶解性ウイルス、遺伝子治療法など、多岐にわたっている。


・しかし既存の治療法は、製造に時間と費用がかかること、患者の安全性と有効性に懸念があること、初期の適応症以外の生物学的適用性が限られていることなど、細胞工学的アプローチの限界により、新しい疾患領域への拡大の努力は制限されている。また、エレクトロポレーション(電気穿孔法)やウイルスを用いた細胞治療は、細胞に導入できる物質の種類や操作できる細胞の種類が限られている。加えてこれらの手法は、主に核酸を特定の細胞種に導入するのに適しており、たんぱく質や低分子などの他の物質を導入することは困難である。そのため、細胞に導入できる機能が制限され、その結果、細胞治療で治療できる病気も限定されてしまう。


・今回紹介するSQZ Biotechnologiesは、細胞治療法を用いた新規がん免疫療法の開発を行っているバイオベンチャーである。コア技術はSQZ Technologyと名付けられた技術で詳細は以下の通りである。適応症は、がん、感染症、免疫疾患。


・細胞を細いチューブ状のマイクロ流体チップに高速で通して物理的に圧迫することで細胞膜に一時的に穴を開け、低分子・ペプチド・たんぱく質・核酸・ナノ分子を取り込ませる独自技術Cell Squeeze。この技術はT細胞・B細胞・幹細胞・赤血球細胞・細胞株などほとんどの細胞に適応可能(これまでにテストした25種類以上の哺乳類細胞に適合を確認)。この技術により細胞に、多能性導入・抗原提示・表現型転換・蛋白産生・パスウェイ調節などを起こすことが可能となる。


・既存の細胞治療では4〜6週間かかるところを、Cell Squeezeでは24時間以内に製造することができる。また、プレコンディショニングや長期の入院が不要になるため、患者さんの負担が軽減され、治療効果が高まることが期待される。また、細胞を絞るマイクロ流体システムがシンプルであるからこそ、強固な並列化とスケールアップが可能である。現在の臨床製造では、技術の中核をなすSQZチップは、切手程度の大きさで、数百もの並列チャンネルで構成されており、1分間に最大100億個の患者細胞を処理することができる。

・Cell Squeeze技術を用いた細胞治療プラットフォームの概要は以下の3つになる。

SQZ™ Antigen Presenting Cells (SQZ™ APCs)

患者さん自身の免疫細胞(末梢血単核球細胞:PBMC)を用いてCell Squeeze技術により疾患特異的な抗原が取り込まれることでSQZ™ APCが作製される。SQZ™ APCを患者さんの体内に戻すと、SQZ™ APCは、MHC-Iを介してCD8(+) T細胞に抗原を提示する。これを認識したCD(+)T細胞が活性化される。

SQZ™強化型APC(eAPC)は、これらの機能をさらに強化し、mRNAを使用して、標的抗原の文脈でCD8 T細胞に追加の刺激的なシグナル(「シグナル2」および「シグナル3」)を提供する。APCを改良することで、望ましい特異性を維持しながら、より強力なCD8 T細胞応答を可能にし、より多くの患者に対応できるようになることを目指している。また、eAPCは、より広範な抗原レパートリーをコード化したmRNAをベースとしたマルチプレックス細胞工学プロセスを確立することで、対応可能な患者層を拡大し、将来的に他の適応症の製品にプラットフォームを適用することを容易にする可能性がある。

SQZ™ Activating Antigen Carriers (SQZ™ AACs)

患者さん自身の赤血球細胞を用いてCell Squeeze技術によりがん特異的抗原とアジュバントが取り込まれることでSQZ™ AACが作製される。SQZ™ AACを患者さんの体内に戻すと、SQZ™ AACは体内の老化した赤血球の自然な破壊プロセスを利用して、患者の内因性T細胞の強力な活性化を促す。つまり、SQZ™ AACはリンパ系臓器にある内因性の抗原提示細胞に抗原を届け、標的特異的なT細胞反応を引き起こす。将来的には他家移植のアプローチも可能であり、既製の治療薬を作ることができると考えている。

SQZ™ Tolerizing Antigen Carriers (SQZ™ TACs)

患者さん自身の赤血球細胞を用いてCell Squeeze技術により生理活性物質が取り込まれることでSQZ™ TACが作製される。SQZ™ TACを患者さんの体内に戻すと、SQZ™ TACは患者さんの内在性の抗原提示細胞に速やかに取り込まれ、患者さんのT細胞や抗体の反応が抑制される。


パイプライン:

SQZ-APC-HPV(SQZ-PBMC-HPV)

HPV16の免疫原性エピトープを取り込ませた末梢血単核細胞(PBMC)からなる治療用ワクチン

開発中の適応症

・Phase I

HPV16陽性の固形がん

https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04084951(単独もしくは免疫チェックポイント阻害薬との併用療法)

SQZ-AAC-HPV

HPV16の免疫原性エピトープを取り込ませた赤血球細胞を用いた治療用ワクチン

開発中の適応症

・Phase I

HPV16陽性の固形がん

https://www.clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04892043(単独もしくは免疫チェックポイント阻害薬との併用療法)


SQZ-AAC-KRAS

発がん性KRAS変異(G12DおよびG12V)の免疫原性エピトープを取り込ませた赤血球細胞を用いた治療ワクチン

開発中の適応症

・非臨床研究段階

膵臓がん、大腸がん、一部の肺がんなど、KRASのG12DおよびG12V変異を有するがん

SQZ-TAC-T1D

自己免疫疾患である1型糖尿病の自己抗原に対する免疫寛容を誘導するような仕組みを施した赤血球細胞を用いた治療ワクチン?(詳細不明)

開発中の適応症

・非臨床研究段階

1型糖尿病


最近のニュース:

Rocheは、2015年に末梢血単核細胞を対象とした契約を結び、SQZの可能性を早期に検証してきた。そして、数年にわたる社内および提携先での進展を経て、2018年2社共同で、がんに対するキラーT細胞の攻撃を誘発する抗原提示細胞の研究を行う契約を締結。

Asklepios BioPharmaceuticalと、遺伝子治療の最大の課題の1つである、治療用AAVに対する中和抗体を患者の免疫系が生成することによって引き起こされる治療の障壁を解決するために、AAV(アデノ随伴ウイルス)成分を含むTAC(Tolerizing Antigen Carrier)を作成するための研究協力を締結。


コメント:

・DDS的にさまざまな分子を生体内にデリバリーできる可能性をもつ技術だが、細胞外への放出方法・放出場所・放出タイミングをどうコントロールするかという、もう一歩進んだ技術ができればかなり応用範囲は広そう。


Modernaなど数多くのバイオベンチャーを生み出しているMITのProf. Robert Langerの研究室で見出された技術に基づいて創業されたベンチャー。



キーワード:

・細胞移植

・細胞内への分子注入技術

・がん免疫

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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