がん抗原を発現するバクテリオファージを用いたがんワクチン療法を開発しているバイオベンチャー
ホームページ:https://senseibio.com/
背景とテクノロジー:
・遺伝子治療のベクターとしてアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの利用が進んでいる。例えば、2019年にRocheに買収されたSpark Therapeuticsは、先天性の遺伝子変異疾患患者さんの網膜下にAAV2ベクターを投与することで視力を回復させる治療法でアメリカにおけるAAV治療法の初承認を2017年に得ている。また、2018年にNovartisに買収されたAveXisは、先天性の神経疾患患者さんに全身投与でAAV9ベクターを投与することで歩行機能などの障害を回復させる治療法で、2019年にFDAから承認された。
・このような遺伝子治療の臨床応用の成功、またmRNAを用いたCOVID-19ワクチンの成功などから、遺伝子を用いた治療薬、ワクチンなどへの注目が集まっている。その中で、ヒトにどのように遺伝子を導入するかという薬物送達システム(DDS)技術についても開発が進んできている。
・DNAやRNAのヒトへの遺伝子導入方法としては大きく分けてウイルスを用いたDDSと非ウイルスのDDSがある。
①ウイルスを用いたDDS
アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルスなど
②非ウイルスのDDS
脂質ナノ粒子、リポソーム、ポリマー粒子など
・これらの①、②どちらに分類するのかが微妙なDDSとして、バクテリオファージを用いたDDSがある。バクテリオファージは、高度な安定性、高い製造能力、迅速で安価な生産または精製方法との適合性、遺伝的な扱いやすさ、哺乳類細胞における固有の生物学的安全性を有している。しかし、ヒト細胞に対する遺伝子導入技術としてのバクテリオファージ利用については分かっていないことが多い。
・今回紹介するSensei Biotherapeuticsはバクテリオファージの一つであるラムダバクテリオファージを用いた遺伝子導入技術を開発しているバイオベンチャーで、主にがん免疫療法への応用を試みている。ほとんどのがんは、様々な腫瘍関連抗原(TAA)を過剰発現しており、これは様々な腫瘍タイプの多くの患者に共通している。Sensei Biotherapeuticsは、このようながん抗原の共有をカバーする、あらかじめ作られた臨床グレードのバクテリオファージ・ワクチンのライブラリを開発しており、ImmunoPhage™プラットフォームと名付けている。将来的には、腫瘍を生検し、DNA配列情報から診断し、何百もの潜在的TAAの発現(ネオアンチゲンを含む)を分析することを想定している。そのTAA発現プロファイルに基づいて、患者に合わせてカスタマイズされたImmunoPhage™カクテルを混合し、診断から数週間以内に提供することを目指している。
・ImmunoPhage™では①アジュバントとしてのファージDNA(CpGモチーフを含む)と②TAAの2つの遺伝子を持つバクテリオファージを用いる。ヒトに投与されたこのImmunophageは、抗原提示細胞によって捕獲され、T細胞に抗原提示されるとともに、CD80-CD28の共刺激反応を引き起こすことで、細胞傷害性T細胞反応を惹起する。がん免疫惹起によるがん治療を目指している。異なるTAAを持つバクテリオファージをミックスしたファージカクテルも開発しており、患者さんのがんゲノムDNA情報に基づいて、事前に準備された異なるファージをカクテルにする個別化医療の提供も計画している。
・Sensei Biotherapeuticsは、2020年にナノボディの会社であるAlvaxa Biosciencesを買収している(参考)。このシナジー効果により、次世代ImmunoPhage™技術として、ナノボディを表面に発現するバクテリオファージ技術を開発している。抗原提示細胞の膜表面抗原を認識するナノボディを持つバクテリオファージにより、より抗原提示細胞に指向性を持つImmunoPhage™のプラットフォーム構築を目指している。
パイプライン:
・SNS-301
複数のがんで過剰発現しており、がん細胞の成長、運動性、侵襲性に関連していることが報告されているaspartyl (asparaginyl) β-hydroxylase (ASPH)融合産物を発現させるように設計されている不活性化ラムダバクテリオファージ。皮内投与。キイトルーダ(ペンブロリズマブ)との併用療法。
開発中の適応症
・Phase II
再発性又は転移性頭頸部扁平上皮がん、骨髄異形成症候群(造血幹細胞異常による造血障害)、 慢性骨髄単球性白血病、前立腺がん
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04217720(骨髄異形成症候群、 慢性骨髄単球性白血病)
・Phase I
・SNS-401
メルケル細胞ポリオーマウイルス感染と紫外線への慢性的な暴露が重要なリスク要因となるメルケル細胞がんにおいて、ワシントン大学の研究者によってマッピングされたB細胞およびT細胞のメルケル細胞ポリオーマウイルスエピトープと患者さん固有の他の抗原からなる初のカスタムのメルケル細胞がんワクチン。
開発中の適応症
・非臨床研究段階
・SNS-VISTA
新規免疫チェックポイント分子VISTAに対するモノクローナル抗体。VISTAは、CD4 陽性ヘルパーT細胞や特定の制御性T細胞では高発現しているものの、CD8陽性細胞傷害性T細胞でははるかに低い発現量である。VISTAの阻害は、がん微小環境を免疫系の反応が起こりやすい状態に劇的に変化させ、T細胞のエフェクター機能と抗腫瘍活性を向上させると考えられる。
開発中の適応症
・非臨床研究段階
固形がん
・SNS-CoV2
近縁種であるSARSウイルスの既知の免疫原性と高度に保存された構造遺伝子(N、M、E、S)を利用した、SARS-CoV-2の大きなエピトープ・ドメインを広くカバーするImmunoPhageカクテル。
開発中の適応症
・非臨床研究段階
新型コロナウイルス感染症COVID-19ワクチン
コメント:
・がんワクチンとしては、ペプチドワクチン、ウイルスベクターワクチン、mRNAワクチンなどがあるが、バクテリオファージを用いたワクチンはユニークなアプローチだと思う。他のモダリティに比べてバクテリオファージは製造がしやすいという特徴があるようだが、一方で、選択的な細胞に感染するのは難しいのではと思う。Sensei Biotherapeuticsでは樹状細胞などの抗原提示細胞への感染を考えているが、他の細胞(例えばCOVID-19のmRNAワクチンのように筋肉細胞)に感染しても効果は期待できるのだろうか。
・バクテリオファージを用いた治療法としては腸内細菌を感染ターゲットとした治療法の開発が進められている(LOCUS BIOSCIENCES、BiomX)
キーワード:
・がんワクチン
・バクテリオファージ
・がん免疫療法
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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