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BiomX (Ness Ziona, Israel) ーケンのバイオベンチャー探索(第197回)ー

更新日:2020年12月30日


溶菌性バクテリオファージを用いて生体内の常在細菌叢中の特定の細菌を殺すファージセラピーの開発を行っているイスラエルのバイオベンチャー。ニキビや炎症性腸疾患、肝臓病、がんなどの慢性疾患の治療薬創製を目指している。


ホームページ:https://www.biomx.com/


背景とテクノロジー:

・ヒトの皮膚や粘膜には膨大な細菌群が常在している。これらの細菌群の大部分は病原体ではなく、共生状態で存在しており、病原菌の増殖を防ぎ、免疫系を教育し、消化を助けることで体の機能を正常に発揮させている。常在細菌叢の構成の不均衡は、複数の疾患で発見されている。特に腸内細菌叢は、消化器疾患のみならず、免疫疾患、アレルギー疾患やメタボリックシンドローム、神経精神疾患など多くの疾患の原因となっている可能性が示唆されてきている。


・そのため腸内細菌叢を含む生体内の常在細菌叢を調節する治療薬の開発が進められている。例えば、Seres Therapeuticsは、健常人の糞便中の腸内細菌をカプセル化してクロストリジウム・ディフィシル感染症や潰瘍性大腸炎を治療する治療薬SER-109、SER-287(それぞれ)を臨床開発中である。Vedanta Biosciencesも腸内細菌に着目したバイオベンチャーだが、単一の細菌を移植する方法や、健常人の糞便由来の腸内細菌を移植する方法とは異なり、有用と考えられる細菌を複数種ミックスし、生きた状態でパウダー化した経口投与可能な製剤を用いた治療法を開発している。


・これらのアプローチが臨床で効果を示すかどうかは今後明らかになってくるのだが、外部から細菌を投与する方法では、細菌が定着しないために効果が短期的になってしまうという可能性も言われている。そこで、生体内の常在細菌叢をコントロールする方法として、CRISPR/Casシステムを利用して、腸内細菌叢のある特定の細菌/感染症の原因細菌だけを殺す(Cas3によってDNAを切断する)ことで治療に使えないかを検討しているバイオベンチャーがある。それがLOCUS BIOSCIENCESで、標的細菌にガイドRNA遺伝子(標的細菌の配列)とCas3遺伝子を挿入するモダリティとしてバクテリオファージカクテルを用いた、ファージセラピーの開発を行っている。


・今回紹介するBiomXもバクテリオファージを用いた常在細菌叢のコントロールによる治療薬開発を行っているイスラエルのバイオベンチャーである。皮膚の外観に影響を与える細菌や、炎症性腸疾患(IBD)、肝臓病、がんなどの慢性疾患の有害な細菌を標的にして破壊するように設計された天然および人工ファージ技術の両方を使用した製品を開発している臨床段階のマイクロバイオーム製品探索企業。


・BiomXの治療プログラムでは、疾患との関連性が高い特定の病原性細菌をターゲットとし、それ以外の細菌はそのままにしておくことを基本としている。BiomXの目標は、合理的に設計されたファージカクテルを用いて、マイクロバイオームを自然で健康的なバランスを回復させることである。BiomX独自の方法を用いて、ファージの大規模なライブラリを生成してスクリーニングし、選択性や効力、安全性、安定性、製造可能性などの医薬品開発に重要な他の多くのパラメータに基づいて潜在的な候補を優先的に決定する。


・BiomX独自のBOLTプラットフォーム(BacteriOphage Lead to Treatment)は、特定の病原性細菌を標的とした天然または人工のファージカクテルの開発を目的とした、独自の計算ツール、自動スクリーニング、合成工学機能、および様々な検証アッセイで構成されている。このプラットフォームを利用して、以下の2つの開発経路でファージカクテルを開発している。

個別化ファージセラピー

個々の患者さんから単離された細菌に対して独自のライブラリーからファージ探索を行い、ファージカクテルを最適化、製造し患者さんに投与する個別化療法の開発。細菌単離からファージ投与までの工程を6−8週間以内に行う。

最適化ファージセラピー

疾患の原因と考えられる細菌について標的妥当性評価を行い、その後その細菌に対してハイスループットファージ探索を行う。ファージカクテルを最適化、製造、製剤化し、疾患を持つ幅広い患者さんをターゲットとする。妥当性評価からファージ投与までの工程を1−2年かけて行う。


XMarkerプラットフォーム

腸内に存在する細菌は、IBD、肝臓病、大腸がん、心血管疾患などの病状の存在と病期の予測ツールとして有望であることが示されている。また、最近の報告では、細菌の腸内組成に基づいて、IBDや免疫腫瘍に対する特異的な治療薬への反応を予測できる可能性が示されている。XMarkerプラットフォームは、独自のメタゲノミクスベースのアプローチを用いて、バイオマーカーとしてさらに発展させることができる予測可能な微生物ゲノムシグネチャーを探索する。このプラットフォームは、超高解像度DNA解析、AI技術、高規模クラウドコンピューティングリソースを組み合わせて、高感度・高特異性の分類器を構築する。このプラットフォームは、ヤンセンおよびベーリンガーインゲルハイムとの共同研究のもと、IBDにおけるバイオマーカーの発見に応用している。


パイプライン:

BX001

ニキビの原因菌P. acnesの過剰増殖を抑制し、皮膚のマイクロバイオームを調節することにより、皮膚の外観を改善することを目的とした、天然ファージを含有する局所投与用ゲル。抗生物質耐性のP. acnes菌株に対して活性であることが示されており、皮膚上の他の細菌を標的としていない。さらに、細菌が分泌するマトリックスであるバイオフィルム(細菌の周囲を取り囲み、抗生物質などの物質に近づきにくくするもの)にも浸透することが確認されている。

開発中の適応症

・Phase I

ニキビ


BX003

慢性炎症により肝臓内外の胆管が瘢痕化し、有毒なレベルの胆汁酸が蓄積することを特徴とする原発性硬化性胆管炎(PSC)の発症に関連するK. pneumoniae株を標的としたファージカクテル製品。ヒトPSCの糞便サンプルを解析したところ,PSC患者さんのサンプルではK. pneumoniaeの株が濃縮されていることが示されている。

開発中の適応症

・Phase I

CRCプログラム

病原性があると考えられ、大腸がん(CRC)患者さんの腫瘍に存在する特定の細菌株を標的にしたファージの開発。これらのファージを用いて細菌を排除するだけでなく、破壊された細菌が免疫刺激剤として機能し、腫瘍に誘導された免疫反応を活性化するためのビーコンとなることを目指す。メラノーマや非小細胞肺がんのように突然変異や免疫細胞が豊富な腫瘍は「ホット」腫瘍とみなされ、膵臓がん、前立腺がん、大部分のCRCのように突然変異が少なく免疫浸潤が少ない腫瘍は「コールド」腫瘍と呼ばれる。これらの腫瘍に自然に存在する細菌を標的とし、免疫刺激ペイロードを放出することで、ファージを使用してコールド腫瘍をホット腫瘍に変えることが期待される。大腸がんでは、Fusobacterium nucleatumとして知られる細菌種のレベルで濃縮されていることが発見されている。この細菌のレベルは、腫瘍では隣接する非腫瘍組織よりも数百倍高くなることがある。

開発中の適応症

・ファージ探索段階

大腸がん


最近のニュース:

炎症性腸疾患(IBD)の患者の表現型に関連するバイオマーカーを特定するために、マイクロバイオームベースのバイオマーカー発見プラットフォームであるBiomX XMarkerを利用する共同研究契約をベーリンガーインゲルハイムと締結

炎症性腸疾患(IBD)治療薬の反応者と非反応者の層別化のためにBiomX XMarkerを利用する共同研究契約をJanssen Research & Developmentと締結


コメント:

・BiomXはがんや炎症性腸疾患の原因となっている可能性がある細菌1種を同定して、その細菌を溶菌化できるファージを自社のファージライブラリーから探索してくる手法を用いている。この方法は、必ずしも病気の原因となる細菌が同定できるとは限らないという欠点はあるが、同定できれば治療効果が得られる可能性が高くなる。課題は、このように細菌が同定できる疾患がどの程度あるかだが、果たしてどうか。


・腸内細菌叢のように多様な細菌群が存在する中で、疾患によってある種の細菌が増えてくるというような現象が報告されてきている。この細菌を殺すためにファージセラピーを行うというLOCUS BIOSCIENCESと同様のアプローチはBiomXの技術でも可能だろう。おそらくこのようなアプローチも考えているのではと思われるが、腸内細菌叢の多様性コントロールというコンセプトは未知の部分が多い。今後の研究展開次第ではそのような技術応用も行われるかもしれない。



キーワード:

・バクテリオファージ(ファージセラピー)

・常在細菌叢

・炎症性腸疾患

・がん

・合成生物学


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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