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Revitope Oncology (Cambridge, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第174回)ー

更新日:2020年8月15日


二重特異性分子を用いたT細胞リダイレクトによるがん免疫療法に対して、プログラム化された抗体回路を組み込むことで、より正確にがん細胞周辺においてのみ薬が作用するようにした技術による創薬を行っているバイオベンチャー

ホームページ:http://www.revitope.com/


背景とテクノロジー:

・がん細胞を免疫系によって排除するがん免疫療法の臨床効果が認められて以降、この治療法のためのさまざまなアプローチが試みられている。臨床ですでに用いられている薬として、免疫チェックポイント分子に対する抗体医薬品(免疫チェックポイント阻害薬ー抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA4抗体)やCAR-T療法(Kymriah®、Yescarta®)、CD3(T細胞を認識)とCD19(がん細胞を認識)の2重特異性抗体ブリナツモマブ(Blincyto®)などがある。T細胞とがん抗原を認識する2重特異性分子にはbispecific T-cell engagers (BiTE®s)と呼ばれるものが含まれる。


・しかし、免疫チェックポイント阻害薬は、患者さんの約2−3割にしか効果を持たない。また、CAR-T療法は、白血病や多発性骨髄腫などの血液がんに対しては効果が示されているが、固形がんに対する効果は治験中で、これまでの報告ではまだ十分な効果が示されているとは言えないのが現状である。


・そこで、新たながん免疫治療薬の開発が進められている。上記のCAR-T療法、2重特異性抗体、BiTEsに共通するのが、T細胞をがん細胞にリダイレクトするというアプローチである。そこで、さまざまな形でのT細胞とがん抗原を認識する2重特異性分子の開発が進んでいる。


・例えば、GO Therapeuticsは、がん細胞の細胞膜表面に特異的に見られるO-結合型糖鎖とたんぱく質がハイブリッドしたエピトープと、T細胞特異的膜表面抗原(CD3など)を認識する2重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)を開発している。


Compass Therapeuticsは、2 種類以上のモノクローナル抗体、抗体フラグメント、その他の生物学的製剤を共有結合させることで、数分のうちに様々なカスタマイズされた二重特異性もしくは多重特異性フォーマットに変換するプラットフォーム技術StitchMabs™ を用いてT細胞(NK細胞)をがん細胞にリダイレクトする2重特異性抗体の探索を行っている。


・T細胞をがん細胞にリダイレクトさせるアプローチの課題としては、標的ではない細胞へ作用してしまう毒性の点と、固形がんに対して十分な効果を示していないという点がある。今回紹介するRevitope Oncologyは、標的ではない細胞に作用してしまう毒性を軽減するとともに、固形がんに対しても十分な効果を示すようなアプローチを目指して開発を行っている。このアプローチは、プログラム化された抗体回路を用いたT細胞リダイレクト2重特異性分子を用いた技術であり、1つは、T Cell Engaging Antibody Circuit (TEAC)、もう一つはAntibody Peptide Epitope Circuit (APEC)と名付けている。以下がその原理。


T Cell Engaging Antibody Circuit (TEAC)


分子①:

(がん抗原Aを認識する部分)ー(T細胞を活性化する分子のフラグメントX(X単独ではT細胞を活性化できない))ー(がんの膜表面プロテアーゼによって切断されるリンカー部分)ー(フラグメントXをマスキングする分子)という構成

分子②:

(がん抗原Bを認識する部分)ー(T細胞を活性化する分子のフラグメントY(Y単独ではT細胞を活性化できない))ー(がんの膜表面プロテアーゼによって切断されるリンカー部分)ー(フラグメントYをマスキングする分子)


この分子①と分子②ががん抗原に結合すると、がんの膜表面プロテアーゼによってフラグメントX、Yのマスキング分子が切り離され、フラグメントX、Yが表出する。フラグメントX、Yが結合するとT細胞をリダイレクトし活性化する機能を持ち、T細胞がリダイレクトされ、活性化され、がん細胞が除去される。


Antibody Peptide Epitope Circuit (APEC)

がん抗原を認識するFabドメインと、以下のペプチドが結合したFcドメインからなる抗体。

(抗体のFcドメインに結合するリンカー分子)ー(がんの膜表面プロテアーゼによって切断されるペプチド部分)ー(サイトメガロウイルス由来ペプチド)

がん抗原に結合すると、がんの膜表面プロテアーゼによってサイトメガロウイルス由来ペプチド部分が切断される。切断されたサイトメガロウイルス由来ペプチドが、がん表面のHLA分子によって補足されることで、がん細胞がT細胞に認識され、排除される。


パイプライン:未開示


コメント:

・がんの膜表面プロテアーゼを利用した抗体医薬品としてはCytomX TherapeuticsのProbodyがある。これは、抗体の抗原結合部位をマスキングするペプチド断片を結合させた改変抗体である(プロドラッグの抗体ということでProbodyというネイミング)。このマスキングされたペプチド断片はある種のプロテアーゼによって特異的に切断され、抗体の抗原認識部位が露出される。がん微小環境では一部の細胞膜上のプロテアーゼが異常活性化されていることがあることが知られており、正常組織ではマスキングされている抗原認識部位が、このプロテアーゼによる切断で露出することでがん細胞特異的に抗体医薬品を作用させる(ProbodyはT細胞にリダイレクトする機能は持たない)。


・T細胞リダイレクトというアプローチが固形がんで効果を持つためには、T細胞が固形がん内部に十分に浸潤していく必要がある。Revitope Oncologyの技術の中でT細胞の浸潤に寄与しているところはあまり見受けられないが、固形がんにおける効果がどの程度なのか結果が注目される(ある種のがん細胞ではケモカインが過剰放出されていて、そのケモカイン受容体を発現したT細胞を用いて固形がんの内部に浸潤させるアプローチなどが考えられている)。


キーワード:

・がん免疫

・抗体医薬品

・T細胞リダイレクト

・二重特性分子、二重特異性エンゲージャー

・合成生物学


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても筆者は責任をとれません。よろしくお願いします。

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