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Redpin Therapeutics (New York、 NY、 USA)  ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第160回)ー


人工チャネル分子を発現するアデノ随伴ウイルスベクターと、人工チャネル分子を制御する低分子化合物を組み合わせた技術を用いて、中枢神経系疾患の治療薬創製を目指すバイオベンチャー



ホームページ:https://www.redpinrx.com/



背景とテクノロジー:

・アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いたin vivo遺伝子治療の開発が進んでいる。それらの多くは、ライソゾーム病、血友病などの単一遺伝子の変異疾患で、変異によって機能不全となった遺伝子を、外部からAAVベクターで補充することによって治療するアプローチである。


・このように、現在承認されている、もしくは承認間近の遺伝子治療の多くは、標的細胞の一部に遺伝子補充することで治療効果が顕著に見える疾患が優先的に選択されている。したがって、今のところまだ手が付けられていない疾患は、現行のAAVベクターを用いた遺伝子補充では治療効果が得にくい疾患が残されることになる。これらの疾患の治療薬開発は、遺伝子補充とは異なる別のアプローチが必要となる。


・そのため、次の遺伝子治療薬開発を目指している会社は、この第2世代と言うべき遺伝子治療に着手し始めている。例えば、GenSight Biologicsという会社は、光を当てると活性化するチャネル分子であるチャネルロドプシン分子を網膜細胞に発現させることで、視覚機能が障害されている患者さんの治療を行うオプトジェネティクス治療法の開発を行っているバイオベンチャーである。この治療法はヒト体内には存在しない分子、藻類由来の分子を網膜の細胞に発現させることで病気を治すアプローチで、現在進行中の治験の結果が注目される。


REGENXBIOは、抗VEGF抗体を発現するAAVベクターを用いたWet型加齢黄斑変性症の治療法開発を行っている。これも遺伝子補充とは異なるアプローチだが、すでに承認されているWet型加齢黄斑変性症治療薬である抗VEGF抗体(アイリーア・ルセンティスなど)による抗体医薬品を、遺伝子治療に置き換えるという戦略である。現行の抗体医薬品は、侵襲性が高い投与方法である眼硝子体内投与を繰り返し行う必要があり、これを遺伝子治療に置き換えることで1回の投与で治療できるという利点がある。


・今回紹介するRedpin Therapeuticsも、新たな遺伝子治療法を開発しているバイオベンチャーである。Redpin Therapeuticsが開発している独自技術は、AAVベクターで生体内に発現させたチャネル分子を、外部から投与した低分子薬でコントロールするというアプローチ(化学遺伝学的アプローチ)である。この方法を用いて、特定の神経回路(特定の神経細胞タイプ)だけを活性化もしくは抑制するというコンセプトで、神経疾患や精神疾患の治療法-てんかん治療法や疼痛治療法など―の開発を行っている。


・外部から投与する低分子薬(経口剤)としてPfizerが開発した禁煙補助薬バレニクリン(商品名:CHANTIX)を用いる。同様の技術(外部から投与した薬剤で外来性チャネル分子を制御する)は神経科学研究において動物実験で広く使われていて(化学遺伝学的手法と呼ばれる、DREADDを参照)、その技術コンセプトをそのままに臨床応用を目指しているのがRedpin Therapeuticsである。動物実験においては外部から投与する経口剤としてclozapine-N-oxideがよく用いられているが、生体内で代謝されてクロザピン(治療抵抗性統合失調症治療薬)となるため、臨床応用には不適である可能性がある(クロザピンは副作用が強いため)。そのため、より安全性の高いと考えられ、脳血液関門を透過でき、かつ、すでに広く臨床で処方されている低分子化合物であるバレニクリンによって制御できる人工のキメラチャネル分子を開発した(開発したのはRedpin Therapeutics共同創業者の一人であるHHMI Janelia Research CampusのDr. Scott M. Sternsonら)。


・この人工キメラチャネル分子は、リガンド結合ドメインは改変型α7ニコチン性アセチルコリン受容体によって、イオン透過ポア部分はセロトニン5HT3受容体のイオン透過ポアドメイン(Na+イオンやK+イオンを透過する活性化型)もしくは、グリシン受容体のイオン透過ポアドメイン(Cl-を透過する抑制型)によって構成されている。この人工キメラチャネル分子は、内在性のいかなる分子よりもバレニクリンによって強く制御を受ける。


パイプライン(未開示):


コメント:

・AAVベクターを用いた治療法の利点として、1回投与すれば長期(10年以上)効果が期待できる点があるが、一方で欠点として、問題が起きても取り除くことができないという点がある。Redpin Therapeuticsが開発している治療法は、薬剤(バレニクリン)を投与しない限り、導入遺伝子は働かないため、後から制御可能という利点がある。一方で、治療のために薬を飲み続けなければいけないという既存薬と同じの従来の課題は残る(製薬会社の立場からして、長期の安定収入が見込めるという利点がある)。


・特定の神経回路(特定の神経細胞)のみを活性化したり抑制できるという、非常に洗練された技術だが、どの神経回路を制御すれば、疾患の改善につながるかという情報は十分ではない。そのため、最初はてんかんやパーキンソン病などの、障害されている神経回路が明らかな疾患からスタートするのだろう。通常の低分子では、神経回路まで制御するのは難しいため、この技術が臨床応用できれば、もっと多くの疾患に使える可能性があると思うが、障害されている神経回路のヒトでの知見がもっと蓄積されることに期待したい。


キーワード:

・DREADD(designer receptors exclusively activated by designer drugs)

・遺伝子治療(AAVベクター)

・神経疾患、精神疾患

・合成生物学


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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