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GenSight Biologics (Paris, France) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第64回)ー


オプトジェネティクス技術+遺伝子治療技術を用いて重度の視神経変性疾患を治療することを目指すバイオベンチャー

背景とテクノロジー:

・脳内の神経細胞と同じで視神経の網膜神経節細胞(Retinal Ganglion Cells)は死んでしまうと再生しない。そのため、緑内障などの視神経変性疾患は現在のところ根本的な治療薬がない。

・脳内の特定の神経回路の役割を調べる研究ツールとしてオプトジェネティクス(光遺伝学)という技術が開発された。これはチャネルロドプシンという分子を神経細胞に発現させると、光を照射した時だけそのチャネルが開き、神経細胞を活性化することが出来る技術である。これにより生きたマウスを用いて、特定の神経回路だけを活性化させて、その際の行動などを解析することでそれぞれの神経回路、神経細胞の役割を明らかにしている。

・一方でこのオプトジェネティクスというツールを研究ツールとしてだけでなく、臨床応用する試みが始まってきている。

レーベル遺伝性視神経症(LHON)NADH脱水素酵素というミトコンドリアDNAの変異によって起こる遺伝性の希少疾患である。MT-ND4遺伝子の変異がLHON患者さんの70-85%を占める。遺伝子変異は全身で起こっているが障害が発生するのは主に網膜神経節細胞である。そのため患者さんは視力が著しく低くなる。

網膜色素変性症は、網膜にある杆体細胞という暗いところでの物の見え方や視野の広さなどに関わる細胞の変性によって起こり、進行性で視力が低下していく病気である。

加齢黄斑変性症は加齢に伴い眼の網膜にある黄斑部が変性を起こす疾患であり、失明の原因となりうる。

パイプライン:

GS010

ヒトMT-ND4遺伝子を発現するアデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)ベクター。硝子体内投与。GenSight Biologics社の独自技術であるMitochondrial Targeting Sequenceを遺伝子内に組み込んであり、ヒトMT-ND4遺伝子はミトコンドリア外膜に運ばれ、ミトコンドリアでのみ発現する。

開発中の適応症

・Phase 3

GS030

2つのコンポーネントからなる。①チャネルロドプシン遺伝子を発現するAAV2 7m8(AAV2の改変ベクター)。硝子体内投与。②カメラ内蔵型のゴーグル(眼に入ってくる光をカメラで捉え、特定の波長の光を網膜に照射する医療器具)。

チャネルロドプシン遺伝子は網膜神経節細胞で発現し、照射された光の信号が脳に伝わる。外界からの光では強度が十分ではないため②のゴーグルが必要となる

開発中の適応症

・Phase 1 / 2

・非臨床段階

加齢黄斑変性症(Wet型)における地図状萎縮

最近のニュース:

GS010の レーベル遺伝性視神経症を対象としたPhase3のtopline result。治療48週後に37人の患者さん全てで治療効果が見られたが、シャム投与のもう片側の眼においても改善が見られたため、主要評価項目は未達。

コメント:

・オプトジェネティクスの臨床応用は非常に興味深いが、GS030ではゴーグルが必要になる。これが要らないくらいの技術はいずれできてくるのだろう。

・眼へのAAV投与はSpark TherapeuticsがLuxturnaで既にアメリカで承認をとっており、安全性、治療に十分な発現は問題ない可能性が高い。

キーワード:

・遺伝子治療

・オプトジェネティクス(光遺伝学)

・網膜色素変性症

・加齢黄斑変性症

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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