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Mammoth Biosciences (South San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第155回)ー

更新日:2020年3月11日


CRISPR/Cas技術の発明者であるカリフォルニア大学バークレー校のProf. Jennifer Daudnaらによって創業されたCRISPR/Cas技術を用いた診断法を開発しているバイオベンチャー



ホームページ:https://mammoth.bio/



背景とテクノロジー:

・1918年のスペイン風邪、1957年のアジア風邪、1968年の香港風邪、2009年の新型インフルエンザ(A(H1N1)pdm09)など、インフルエンザウイルスは時折強力型となる変異を引き起こしている。またSARS、MERS、COVID-19などコロナウイルスも強力型となる変異を引き起こし、パンデミックはいつ起こってもおかしくない状況にある。


・このようなアウトブレイクが起こった際に、重要なことは感染を広げないようにすることだが、そのためには性格で迅速な診断ツールの存在が重要となる。しかし、上記のウイルス感染拡大時も、即座に検出方法を開発するのは困難で、作れたとしても信頼性に乏しかったり、数多くのサンプル数をこなすのが難しかったりすることが多い。


・実際に、現在問題となっている新型コロナウイルスCOVID-19の検査方法も、検出感度が低いと言われている(注:PCR自体は特定の遺伝子配列を非常に正確に測定できる方法だが、プライマーのデザインに依存する部分がある。またコロナウイルスはRNAウイルスのためPCRの前にRT(逆転写)反応(RNA→DNAに変換する反応)があり、この反応時のプライマーデザインがよくなく、RT反応効率が悪いために検出感度に問題がある可能性が指摘されている。またコロナウイルス自体が非常に少ないウイルス量で発症するため検出が難しいとも)。


・新型の病原性ウイルスがいつ流行してもおかしくない現状から、あらゆるウイルスに対して、迅速かつ簡便に検査できる診断ツールの確率は、今最も必要とされる技術の一つだと考えられる。


・今回紹介するMammoth Biosciencesは、CRISPR/Casの発見者であるカリフォルニア大学バークレー校のProf. Jennifer Daudnaらによって創業された、CRISPR/Cas技術を用いた診断ツールを開発しているバイオベンチャーである。


・CRISPR/Cas技術は遺伝子治療・細胞治療などへの応用が進められている。例えば、eGenesisは、CRISPR技術を用いてゲノム編集ブタを作製し、ブタ臓器をヒトに移植可能にする異種移植を目指すバイオベンチャーである。Editas Medicineはアデノ随伴ウイルスベクターを用いてCRISPR/Casのゲノム編集をヒトの体内で行うin vivoゲノム編集の治験をすでにスタートさせているバイオベンチャーである。Beam Therapeuticsは切らないゲノム編集であるbase editingという技術の開発を行っているバイオベンチャーである。base editingはゲノムDNA, mRNAの一塩基変異を元に戻す方法である。


・Mammoth Biosciencesと同じようにCRISPR/Cas技術を用いて診断技術を開発しているバイオベンチャーもある。Sherlock Biosciencesは、Prof. Jennifer Daudnaのライバルであるブロード研究所のDr. Feng Zhangらが創業したバイオベンチャーである。


・Mammoth Biosciencesで開発しているDNA Endonuclease Targeted CRISPR Trans Reporter (DETECTR™)は、CRISPR/Cas技術を応用した特定核酸配列の検出・定量技術で、常温で反応できる。標的DNA/RNAの一塩基変異違いも識別可能である。


・DETECTR™の原理は以下のようになる(論文のFig. S11A図参照)

まずウイルスのDNA/RNAはRPA(Recombinase Polymerase Amplification)反応、もしくはRT-RPA反応(参考pdf)によって増幅させる。このRPA反応は、簡単に言うと常温レベルの一定の温度(25-42°C)で増幅させられるPCRである。RPAもしくはRT-RPA反応によって増幅されたDNAを、特異的配列を認識するガイドRNAとCas12aによって認識させる。Cas12aは特異的配列を認識すると、Cas12aのRuvCドメインが持つDNase活性(標的のDNAに結合すると、周囲のDNAを無差別に切断する活性)が活性化され、レポーター(蛍光色素など)が結合したDNA分子(Cas12aやガイドRNAとともに添加する)は、このDNase活性により切断を受け、消光されていたレポーター分子がシグナルを発し、それを検出するという原理である。検出機器などが不要で、使い捨て型の簡便なキットであり、20分以内に結果が得られるという迅速さである。どのような配列のDNAやRNAも検出可能である。病院だけでなく自宅でも測定できる。



パイプライン:

DETECTR™

任意の遺伝子配列を認識してレポーター分子で検出する診断ツール(原理は上記参照)。一塩基多型(SNP)、感染症、がん診断、抗菌薬耐性、ウイルス感染などへ適用可能。


新たなCasヌクレアーゼの開発

Cas9やCas12以外のCasたんぱく質としてCas14の開発を行っている。Cas14は以下のような特長を持つ

①Cas9やCas12に比べて必要なPAM配列の要求度が下がっているため、標的配列の選択の制限が緩和される。

②Cas9やCas12に比べて分子のサイズが小さい。SpCas9が1368アミノ酸、FnCas12が1300アミノ酸なのに対し、Cas14aは530アミノ酸である。これによりCas9やCas12で課題であった、サイズが大きいためにAAVベクターへの搭載が難しいという点に対応可能となる。

③配列認識が正確である。このためオフターゲットのリスクが下がる。


新たなCRISPR/Casシステムの開発

以下のようなアプローチの組み合わせで、新たなCRISPR/Casシステムの探索を行っている。

①環境中の微生物サンプルのゲノム配列解析からの探索

メタゲノムデータベースのin silico解析

③機械学習アルゴリズムを用いた探索

④wetラボでの実証実験



最近のニュース:

抗体医薬品の製造のためのCHO細胞の改変などにMammoth Biosciencesの持つCRISPR/Cas技術を用いる共同研究契約とライセンス契約をHorizon Disocoveryと締結



コメント:

Sherlock Biosciencesと、ほぼ同じアプローチを行っているが、SherlockはCas13aを使ってDNA配列を認識しRNase活性の活性化でレポーター分子を含むRNAを切断する技術を用いていて、DNAの検出にはRPA反応による増幅、RNAの検出にはRT-RPA反応による増幅を行っている。一方、MammothではCas12aを使ってDNA配列を認識しDNase活性の活性化でレポート−分子を含むDNAを切断する技術を用いていて、DNAしか標的にできない代わりにRT反応は要らない(当たり前だが)。標的がRNAの場合は、一本鎖RNA配列を認識してRNase活性を活性化するC2c2を用いる技術を報告している(参考)。


・原理的に、ゲノム配列さえ分かればあらゆる新型の感染症を検出することが可能だと考えられる。新型コロナウイルスCOVID-19の検出方法についてもすでに成功していることをツイッターで明らかにしている(参考)。RNAウイルスであるコロナウイルスも30分以内に検出可能とのこと。コロナウイルス(RNAウイルス)検出法としてC2c2を用いた方法ではなく、RT-LAMP法を用いてRNA→DNA→DNA増幅し、Cas12で増幅したDNAを検出、Cas12のコラテラルDNase活性でレポーターを検出する方法を用いているようだ。


・Sherlock Biosciencesの時にもコメント欄に書いたが、配列特異性が高いだけに変異しやすいウイルスだと検出できなくなってしまう。変異しやすいウイルスのケースではこれが裏目に出る可能性も。



キーワード:

・CRISPR/Cas

・診断技術

・合成生物学

・ウイルス



免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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