老化研究の第一人者の一人であるハーバード大のProf. David A. Sinclairらによって創業されたバイオベンチャー。若返り因子の遺伝子導入による眼疾患治療などのパイプラインを保有。
背景とテクノロジー:
・老化に関する研究は、老化という現象を実験的に再現することの困難さから長い間、未解明な部分が多かった。しかし、培養細胞においても細胞老化という現象がみられ、個体の老化との関連性が示唆される報告も数多く出てきていることから、老化のメカニズム、老化を遅らせる研究などが進展してきている(細胞老化とは細胞が分裂を停止し、増殖できなくなった状態が不可逆的に引き起こされること。ゲノムの不安定化などによって引き起こされ、細胞ががん化することを抑制する防御反応であると考えられている。個体の老化になぞらえて名付けられたが、個体老化と細胞老化の直接的な関連については議論が続いている。Wikipediaより)。また、特に欧米、中国、日本などの主要先進国において高齢社会化が進んできており、アルツハイマー病などの加齢性疾患が社会問題化してきていることが、老化研究が注目される一因となっている。
・そんな中で、アメリカを中心に海外では老化細胞を除去することで加齢性疾患を治療するというコンセプトの治療薬開発が進められている。例えば、Unity Biotechnologyは、アポトーシス抑制分子Bcl-xL を阻害する低分子化合物UBX1325を用いて老化細胞にアポトーシスを誘導し、糖尿病性網膜症や加齢黄斑変性症の治療を目指している。またOisín Biotechnologiesは、p16遺伝子(老化細胞マーカーとして知られる)が活性化されている細胞においてのみアポトーシスを誘導する遺伝子(誘導型カスパーゼ9もしくは自己活性化型カスパーゼ9)を発現させるというコンセプトの遺伝子治療薬を開発している。
・今回紹介するLife Biosciencesは、老化研究の世界的第一人者の一人であるハーバード大Prof. David A. Sinclairらによって創業されたバイオベンチャーである。Life Biosciencesでは、以下の最新の3つの知見をベースとした創薬を行っている。
①ミトコンドリアの脱共役
ミトコンドリアでは、酸化的リン酸化における電子伝達系により形成されるプロトン勾配を利用して、ATP合成酵素によってATPが産生される。脱共役とは、ATP合成と電子伝達系の共役を解消する現象のことである。脱共役されると、ATP産生のために使われる予定だったエネルギーは熱に変換され放出される。Life Biosciencesでは、ミトコンドリアの脱共役を促進する脱共役薬によってヒトの体が燃料を燃やす方法を改善し、酸化ストレスを減少させ、寿命を延ばす効果があると期待して開発している。前臨床研究においては、ミトコンドリアの脱共役薬が、肥満や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に効果を持つことを示している。
CMAは、細胞内の可溶性タンパク質のレベルを制御する。加齢に伴うCMAの低下により、不溶性タンパク質の濃度が上昇し、アルツハイマー病などの神経変性疾患の発症に関与している可能性が提唱されている。Life Biosciencesでは、経口化合物の1つを用いてCMAをアップレギュレートすることにより、2種類のアルツハイマー病モデルマウスにおいて、神経機能障害の発症後であっても、神経機能を有意に改善し、不溶性タンパク質の凝集体の蓄積を減少させることを報告している(参考)。
③エピジェネティック・リプログラミング
エピゲノムは加齢とともに変化し、遺伝子の発現に異常をきたす。Life Biosciencesでは、山中4因子のうちの3つのたんぱく質Oct4, Sox2, Klf4を発現させ、エピゲノムを若々しい状態に戻す独自の遺伝子治療法を導入した。この遺伝子治療は、緑内障モデルマウスおよび加齢に伴う視力低下マウスにおいて、視力を回復させることを確認したことを報告している(参考)。
パイプライン:詳細未開示
・MU-100
ミトコンドリア脱共役を誘導する低分子化合物
開発中の適応症
・前臨床研究段階
NASH
・MU-200
ミトコンドリア脱共役を誘導する低分子化合物
開発中の適応症
・非臨床試験段階
代謝性疾患
・CMA-100, CMA-200
CMAを誘導する低分子化合物
開発中の適応症
・非臨床試験段階
加齢性疾患
・ER-100
Oct4, Sox2, Klf4を発現させることでエピゲノムをリプログラムする遺伝子治療
開発中の適応症
・非臨床試験段階
眼疾患
・ER-200
Oct4, Sox2, Klf4を発現させることでエピゲノムをリプログラムする遺伝子治療
開発中の適応症
・探索試験段階
眼疾患
コメント:
・老化研究は進展してきているが、そこから得られた知見を基にした創薬が、どの疾患に適応できるのかが一つの課題だと思われる。他社のアプローチでは変形性膝関節症などを狙った臨床試験が多かったが、Life BiosciencesではNASHや眼疾患をターゲットとしている(眼疾患は遺伝子治療でアプローチしやすいからという可能性が高い)。
・自社オリジナルの基礎研究をベースにするのではなく、David A. Siclairやアルバート・アインシュタイン医科大学のProf. Ana Maria Cuervoら創業メンバーの研究成果の知財をライセンスインして開発するビジネスモデルだと思われる。そのためモダリティは低分子化合物や遺伝子治療が混在している。
キーワード:
・加齢性疾患
・低分子化合物
・遺伝子治療
・エピジェネティクス
・若返り
免責事項:
正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。
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