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Oisín Biotechnologies (Seattle, WA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第114回)ー


老化細胞を除去することで加齢性疾患を治療する遺伝子治療法を開発しているバイオベンチャー

ホームページ:https://www.oisinbio.com/

背景とテクノロジー:

・このところ細胞老化の研究に注目が集まっている。細胞老化は細胞が増殖をストップする現象で、一定回以上細胞が分裂したら増殖をストップすることで細胞ががん化するのを防ぐ機構と考えられている。理想的には老化した細胞は増殖をストップした後、アポトーシスで除去されるが、加齢に伴ってこの除去機構が働かずに生き残ってしまう可能性が示されている。

・この”ゾンビ細胞”(老化細胞)は炎症を引き起こす分子を放出するため、通常は免疫細胞で除去されるが、加齢やストレスに伴い、この老化細胞が蓄積する。これが種々の加齢性疾患の原因となっているという説がある。

・細胞老化とは不可逆的に細胞周期を停止する現象とされる。細胞老化している細胞は、細胞周期の不可逆的停止、細胞の巨大化・扁平化、細胞老化特異的なヘテロクロマチン形成、DNA 損傷巣の形成、細胞老化特異的なβ-ガラクトシダーゼの活性化、細胞周期阻害因子p21およびp16の発現上昇、DNA損傷が生じることによるDNA損傷応答(DDR)の活性化などを引き起こすことが報告されている。

・2016年のNature誌に、この老化細胞を除去することで加齢による障害が抑制され、寿命が延びることが示された(参考)ことなどから、老化細胞を除去する薬など、細胞老化に着目した創薬が始まっている。

・Unity Biotechnologyは老化を除去するというコンセプトでUBX0101、UBX1967を開発している(詳細はこちら)。

・Oisín Biotechnologiesでは、老化した細胞だけで発現するように設計したある遺伝子によって老化細胞が破壊される治療法を開発し、SENSOlytics™と名づけている。これはp16遺伝子が活性化されている細胞においてのみアポトーシスを誘導する遺伝子(誘導型カスパーゼ9もしくは自己活性化型カスパーゼ9)を発現させるというストラテジーである。誘導型カスパーゼ9は、低分子化合物(AP20187もしくはAP1903)の投与によって活性化されるカスパーゼである。遺伝子デリバリーには脂質ナノ粒子を用いている。

・またp53遺伝子プロモーター下でアポトーシスを誘導する遺伝子(誘導型カスパーゼ9)を発現させ、がん(前立腺がんなど)を治療する遺伝子治療も開発中とのこと。

パイプライン(非開示):

最近のニュース:

OncoSenX(https://www.oncosenx.com/)はOisín Biotechnologiesの持つ技術のうち、がん治療に関する臨床開発を手掛けるためにスピンアウトされたベンチャー。

コメント:

・リポソーム(脂質ナノ粒子)を用いた遺伝子デリバリー技術を用いているが、ウイルスに比べてデリバリー効率はどうなのだろうか?治療戦略の性質上、できるだけ細胞選択性なく遺伝子導入できた方がよいと思うのだが、おそらく入りやすい細胞と入りにくい細胞はあるだろう。適応疾患はその辺りを考慮して決められるのではないだろうか。

・低分子化合物で老化細胞を除去するよりは特異性コントロールが高そうな気はする。もちろんコストは高くなるだろうが。

キーワード:

・老化細胞の除去

・遺伝子治療(リポソーム)

・加齢性疾患

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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