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Intergalactic Therapeutics (Boston, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第244回)

更新日:2021年11月28日

全合成で製造する環状DNA(C3DNA )と電気を用いた遺伝子導入デバイスCOMET®を用いた非ウイルスの遺伝子治療法を開発しているバイオベンチャー



背景とテクノロジー:

・AAVベクターなどのウイルスベクターを用いたin vivo遺伝子治療(生体内で直接遺伝子治療する方法)の開発が進むにつれて、その課題も明らかになってきている。

高用量投与による肝臓毒性

Audentes Therapeutics(2019年アステラス製薬により買収)のAT132はX連鎖性ミオチュブラーミオパチーを適応症としたAAVベクター治療薬候補だが、高用量の静脈内投与による肝臓毒性の懸念があり、2021年11月現在、臨床試験が中断されている(参考)。

搭載遺伝子サイズの制限

AAVは直径およそ25μmと非常に小さなウイルスのため、内部に搭載できるDNAに制限があり、AAVベクターに搭載できる遺伝子はおよそ4.7kbまでという限界がある(プロモーターなども含む)。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの原因遺伝子であるジストロフィン遺伝子はおよそ14 kb,嚢胞性線維症の原因遺伝子であるCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)遺伝子はおよそ189 kb、ゲノム編集で汎用されるCas9も約4.1 kbとAAVベクターに搭載するには遺伝子サイズが大きい。

製造コストが高い

FDAから承認されたAAVベクターを用いた遺伝子治療薬であるSpark TherapeuticsのLuxturnaやAveXisのZolgensmaは1回の投与で治療は完了するが、その治療費は数千万円から1億円以上と非常に高い。この理由の一部として、AAVベクターの製造コストが非常に高いことがある。

・そこで上記の課題が解決できる可能性がある非ウイルスベクターを用いた遺伝子治療法の開発も進められている。例えばGeneration Bioは、細胞質内に取り込まれ核内に移行することができるDNAであるclosed-ended DNA (ceDNA) Technologyを開発しており、ceDNAをデリバリーさせる脂質ナノ粒子と組み合わせた、非ウイルスベクターによる遺伝子治療の開発を行っている。


・今回紹介するIntergalactic Therapeuticsは、非ウイルスベクターによる遺伝子治療の開発を行っているバイオベンチャーである。Intergalactic Therapeuticsは、ウイルスを用いた遺伝子治療の限界を克服し、クラス最高の非ウイルス性代替品を開発するためにライフサイエンス分野の大手ベンチャーキャピタルであるApple Tree Partnersによって設立された。Intergalactic Therapeuticsは、合成生物学と人工的な遺伝子回路を用いて、共有結合で閉じた環状DNA(C3DNA:Covalently Closed and Circular DNA)分子を作り、より安全で効果的な治療法を患者さんに提供することを目指している。

・C3DNAは、宿主のゲノムに組み込まれることなく、宿主のクロマチンを模倣している。C3DNAは、ウイルスやバクテリアとは異なり、合成された不活性なものであるため、生体はそれを異物として認識せず、免疫攻撃を行うことはない。C3DNAは、同社の代表的な送達技術であるCOMET® pulsed electric field system(COMET®パルス電界システム)を用いた非ウイルス性の送達方法で送達する。C3DNAは、カスタマイズ可能なフォーマットで、幅広い疾患に対応できる汎用性を備えており、合成構造であるため、よりシンプルで迅速かつコスト効率の高い生産が可能である。C3DNA を用いて、巨大な遺伝子であっても設計し、ターゲットとなる細胞に届けることができる。

・Intergalactic Therapeuticsが独自に開発したパルス電界フォーカル遺伝子治療デリバリーシステムであるCOMET®は、独自の波長とアルゴリズム、斬新な電極設計、電界モデルを組み合わせ、シンプルかつ洗練されたデバイス設計となっている。COMET®デバイスは、さまざまなタイプのC3DNA治療用ペイロードに対応できるように精密に設計されている。C3DNA 自体は、脂質ナノ粒子(LNP)など、他の方法による投与にも対応可能であり、Intergalactic Therapeuticsではその可能性も探っている。

・C3DNAの製造プロセスは合成法であり、セルフリー(無細胞)で製造される。AAVやその他の従来の遺伝子治療技術よりも安全な治療製品を提供できるとのこと。また、無細胞製造プロセスは、細胞ベースのプロセスに比べて、ロバストで管理が行き届いており、迅速かつ低コストであるため、より多くの種類の疾患に対して、より多くの患者さんへの投与が可能とのこと。


パイプライン:詳細未開示

眼科領域プログラム

網膜色素上皮細胞をターゲットとした非ウイルス遺伝子治療プログラム2つ。視細胞をターゲットとした非ウイルス遺伝子治療プログラム1つ。


がん領域プログラム

tri-cistronic(一つの遺伝子で3つのたんぱく質をコードする)モジュールを用いた非ウイルス遺伝子治療プログラム1つ。未開示プログラム1つ。

呼吸器疾患プログラム

未開示プログラム1つ。


コメント:

・詳細がわからないのだが、C3DNAというのは、プラスミドDNAのような環状DNAだが、複製起点や抗生物質耐性遺伝子などのプラスミドDNAにあるような微生物由来のDNAを含まないようなものだろうか?純粋にプロモーター+発現遺伝子を含む環状DNAを大腸菌などを用いず全合成で製造しているのではと推測される。


・以前環状RNAを用いた創薬を行っているOrna Therapeuticsを紹介したが、この環状RNAは、環状であるために翻訳が持続し、少量のRNAを生体内に投与すれば、多量のたんぱく質が発現する仕組みだ。Intergalactic Therapeuticsの環状DNAも少量投与で多量なたんぱく質発現を期待できるのだろうか?

・COMET®デバイスは、エレクトロポレーションのようなデバイスと推測される。mRNAとは異なり、DNAの場合、細胞質に入るだけでは遺伝子発現せず、細胞核まで導入する必要があり、COMET®はそのためのデバイスだろう。ただ、導入できる標的細胞、標的臓器が限られてしまう。眼科領域やがん領域は限定した領域に遺伝子導入するCOMET®でも対応可能なため、この領域にフォーカスしているのだろう。今後拡大していく領域としてCNSや腎臓、筋骨格などを想定しているようだが、この場合は疾患が限られるか、LNPなど別の遺伝子導入技術が必要になってくるのではないだろうか?


キーワード:

・非ウイルス遺伝子治療

・環状DNA

・遺伝子導入デバイス( パルス電界システム)

・眼疾患

・がん


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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