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Intellia Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第149回)ー


CRISPR/Cas9テクノロジーの生みの親の1人であるカリフォルニア大学バークレー校のProf. Jennifer Doudnaらによって創業されたCRISPR/Casの医療応用を目指すバイオベンチャー



ホームページ:https://www.intelliatx.com/



背景とテクノロジー:

・遺伝子改変技術については、同じCRISPR/Casテクノロジーの医療応用を目指すEditas Medicine紹介ページの”背景とテクノロジー”欄を参照(こちら)。


・CRISPR/Cas技術を医療応用する方法としては、体外で細胞にゲノム編集してからその細胞をヒト体内に投与するEx vivo法と、CRISPR/Casに関与する分子であるガイドRNAやCasたんぱく質をコードする遺伝子(もしくはRNAやたんぱく質そのもの)を標的細胞に投与し、体内でゲノム編集するIn vivo法がある。


・CRISPR/Cas技術を体内で行った場合(つまりIn vivo法)にどんな問題があるかはまだ分かっていない(すでにEditas Medicineが臨床試験を始めている)。Ex vivo法はCRISPR/Casで細胞のゲノムがどのように編集されたかを確認した上で投与できるので、その点リスクは少ないが、細胞の形で投与することになるので、適応できる疾患が限られる(正常細胞や治療用細胞を足せば効果がある疾患)。一方でIn vivo法は、CRISPR/Casに関わる分子を標的細胞にデリバリーする必要があり、その技術の開発が必要となる。


・CRISPR Therapeuticsはこのデリバリー法について、脂質ナノ粒子(LNP)を用いた方法とアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた方法の検証を行っている(詳細はこちら)。


・今回紹介するIntellia TherapeuticsもCRISPR/Casテクノロジーの医療応用を目指して、Ex Vivo法とIn vivo法の両方のアプローチで、遺伝子疾患、がん(がん免疫療法)、自己免疫疾患の治療薬開発を行っているバイオベンチャーである。In vivo法ではデリバリー法としてLNPを用いたアプローチを行っている。



パイプライン:

NTLA-2001

トランスサイレチンをノックアウトするCRISPR/Casシステムを搭載したLNP。全身投与。トランスサイレチンの産生を抑制する。Regeneron Pharmaceuticalsとの共同開発・共同販売契約。

開発中の適応症

・IND申請研究段階


遺伝性血管性浮腫

遺伝性血管性浮腫はC1 inhibitor遺伝子の変異によって起こる疾患。C1 inhibitorたんぱく質の減少が起こると、通常C1 inhibitorによって量が調節されているブラジキニンの量が増えてしまうことによって症状が出る。ブラジキニンの産生に関わるカリクレインをコードする遺伝子KLKB1をノックアウトするCRISPR/Casシステムを搭載したLNP。 Regeneron Pharmaceuticalsと共同開発・共同販売のオプション契約。

開発中の適応症

・非臨床研究段階


鎌状赤血球症(詳細非開示)

Ex vivoでCRISPR/Casシステムを用いて改変させた造血幹細胞を用いた細胞移植療法。Novartisとの共同研究開発。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

鎌状赤血球症


NTLA-5001

CRISPR/Casシステムを用いてWilms’ Tumor 1 (WT1) 抗原を認識するT細胞受容体を発現させた患者さん由来T細胞を移植する自家細胞移植療法。

開発中の適応症

・非臨床研究段階

急性骨髄性白血病



最近のニュース:

造血幹細胞、眼幹細胞に対してCRISPR/Cas技術を用いたEx vivo治療法の研究を含む細胞治療法に関するNovartisとの共同研究契約の拡張を発表。Novartisの保有するLNP技術のライセンス契約も締結。


CRISPR/Cas技術を用いたIn vivo治療法の共同研究とライセンスに関する契約をRegeneronと締結。肝臓のゲノム編集によって治療効果が見られる疾患を対象とする。非肝臓領域の疾患についても別の契約を締結している。



コメント:

・NTLA-2001はLNPの全身投与だが、投与されるLNPは肝臓指向性があるため、肝臓のトランスサイレチン遺伝子を編集することでトランスサイレチンの発現量を下げることでの治療効果を想定している。このように現状のLNPのほとんどは肝臓指向性を持つものばかりなので、肝臓の疾患以外にIn vivo CRISPR/Casを行う方法を見つけることができればもっと広範な疾患に適用できる可能性がある(眼など局所への投与で治療できる疾患の場合は現状のLNPでも可能性がある)。


・CRISPR/Cas技術の特許に関してはカリフォルニア大学バークレー校とブロード研究所の間でどちらに帰属するのか係争中である。2017年の判決では真核生物へのCRISPR/Cas技術の応用についてはブロード研究所が保有する事になった。CRISPR TherapeuticsとIntellia Therapeuticsはカリフォルニア大学バークレー校からライセンス契約を受けており、この点が懸念点。



キーワード:

・ゲノム編集(CRISPR/Cas)

・肝臓疾患

・CAR-T/TCR-T療法

・in vivo CRISPR/Cas



免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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