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Dyno Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ーケンのバイオベンチャー探索(第224回)ー


現行AAVベクターの課題である、組織指向性、免疫回避、搭載遺伝子サイズの拡張、大量製造を解決するための改変カプシドAAVベクターを機械学習技術などを用いて開発しているバイオベンチャー


ホームページ:https://www.dynotx.com/


背景とテクノロジー:

・アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療の臨床開発が進む中でその課題も明らかになってきている。主なものは以下の通り。


①成人の多くはAAVにすでに自然感染の感染歴があり、そのような人はAAVに反応・除去する抗体(中和抗体という)を保有している。そのためAAVの全身投与では、その中和抗体が投与されたAAVを排除してしまう。治験では事前に中和抗体の有無をチェックしているケースがある。一方、遺伝性疾患の場合、小児から発症していることが多く、小児の場合中和抗体を持つ可能性が低いため、小児を対象とするアプローチも多い。


②AAVの大量投与は実験動物において肝臓毒性が報告されており、ヒトでもその懸念がある。実際、ヒトにおいても静脈内投与されると多くは肝臓に局在する(今のところそれほど問題とはなっていないようだが)。生殖系列への感染の可能性も報告されている(まだ確認はされていない)。

③大量生産が難しく、コストがかかる。非臨床試験では接着させたHEK293細胞への一過的発現によって生産する。一方、臨床試験における大量生産では浮遊系のHEK293細胞もしくは昆虫細胞であるSf-RVN細胞を用いているが、それでも大量生産にはまだまだ改良が必要とされている。


④AAVは一本鎖DNAウイルスのため遺伝子発現に時間がかかる。そのため臨床においても非臨床でも、効果が見られるのに時間がかかる。


⑤AAVは小さなウイルスのため、ウイルス内に搭載できる遺伝子のサイズが小さい。現状プロモーターを含めて4.7kbが限界とされる。例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィー症の治療ではジストロフィン遺伝子を発現させるが、ジストロフィン遺伝子は大きいため、重要な部分だけにした人工のミクロジストロフィン遺伝子が用いられている(Solid Biosciences紹介記事参考)。

⑥脳内に移行できるAAVなど特殊なAAVは特許があり、利用にライセンス契約が必要とされる。例えば、AveXis(2018年Novartisにより買収)のZolgensmaはREGENXBIOのNAVテクノロジーのライセンスを受けている。Abeona TherapeuticsもNAVテクノロジーのライセンス契約を締結した(参考)。新たな特長を持つAAVの開発競争も加熱している。


・このような状況の中、組織指向性、免疫回避性、搭載遺伝子サイズの拡張、製造性などの課題を解決するための改変カプシドAAVベクターの作製を試みているのが、今回紹介するDyno Therapeuticsである。機械学習と定量的なハイスループットin vivo実験を用いて、AAVカプシドたんぱく質に焦点を当て、遺伝子ベクターを設計する新しいプラットフォームを構築している。このプラットフォームから作製されたAAVベクターを用いて、多機能で疾患に特化した遺伝子治療ベクターを構築し、これまでにない治療を可能することを目指している。


・CapsidMap™プラットフォーム

CapsidMap™プラットフォームは、AIを用いてAAVカプシドを体系的かつ迅速に最適化し、ターゲティング能力(臓器、細胞指向性)、ペイロードサイズ(搭載遺伝子サイズ)、免疫回避性、製造性を向上させることで、自然界に存在するウイルスのキャプシドの限界を克服することを目指している。

改変カプシドをコードするDNAライブラリの合成

何百万ものカプシド配列を設計し、DNAプリンターで合成してカプシドライブラリに組み立て、試験に供している。

カプシドの特性をハイスループットで測定

次世代シーケンサーを用いて、ライブラリー内の個々のカプシドの変異体を識別するDNAバーコードを追跡する。数百万個のカプシドをプールした実験では、治療の成功に重要な多くの特性を同時に測定できる。

機械学習モデルによるカプシドの適応度地形(fitness landscape)作成

新しい配列の機能を予測する機械学習モデルを学習し、AAVカプシドの適応度地形(fitness landscape)のマップを構築している。新しい実験を行うたびに、地図はより大きく、より詳細になっていく。探索と最適化のバランスを取りながら、改良型カプシドを求めて効率的に適応度地形(fitness landscape)を探索する。最適化されたカプシドは、現在の遺伝子治療をより効果的なものにするとともに、新しい臓器や細胞タイプにカプシドをターゲティングすることで、新しい疾患の治療を可能とする。

反復サイクルで進化し続ける遺伝子治療

上記のステップを繰り返すことで、過去の実験の教訓や成功例を基にして、より優れたモデルを訓練し、in vivoでの送達効率や特異性、免疫回避性、パッケージサイズや製造性など、望ましい特性を持つベクターの適合性をさらに高める。


・Dyno TherapeuticsのBiodistributionチームは、バルクからシングルセル処理まで様々な方法を用いて、in vivo研究から収集されたサンプルにおける伝達や生体内分布などのAAVバリアントの特性を測定する技術を開発し、実施している。In Vitro Assaysチームは、個々のバリアントが免疫系コンポーネントとどのように相互作用するか、様々な細胞株におけるトランスダクション能力を測定するなど、生産されたAAVプールの特性をin vitroで測定している。


・Dyno Therapeuticsは、CapsidMap™プラットフォームの概要およびその結果得られた治験を、2019年Scienceに報告している(こちら)。AAV2のカプシド遺伝子に飽和変異(saturation mutagenesis)を導入した後、得られたライブラリーを用いて、ウイルス産生、免疫、耐熱性、生体内分布などの表現型を多重に解析している。また、ランダムな突然変異誘発よりもはるかに高い効率で、有用な変異体を機械的に誘導して設計できることを示している。


最近のニュース:

CapsidMap™プラットフォームを用いて、重篤な眼疾患に対する遺伝子治療としてのAAVベクターデザイン、作製に関する研究、開発、商業化の提携契約をNovartisと締結


CapsidMap™プラットフォームを用いて、筋肉疾患に対する遺伝子治療としてAAVベクターデザイン、作製に関する研究、開発、商業化の提携契約をSarepta Therapeuticsと締結


CapsidMap™プラットフォームを用いて、中枢神経系疾患および肝臓への治療法としての次世代AAVベクターの開発を行う研究、開発、商業化の提携契約をRocheおよびSpark Therapeuticsと締結


コメント:

・現行AAVベクターの課題を解決するための新規カプシドデザインは、アカデミアを含めて非常に競争の激しい領域。Dyno Therapeuticsは指向性進化の技術を用いて次世代のAAVベクター創製を目指しているトップランナーの1社であり、その証拠として、Roche、Novartis、Sarepta TherapeuticsなどのAAVベクターをすでに上市もしくは治験中の会社と提携している。


・AAVのカプシドは重複したゲノムDNAからプロモーターの違いにより、少し長さの異なるVP1、VP2、VP3の3つのカプシドたんぱく質が作られ、それらが60個組み合わさって正20面体の構造をしている。1アミノ酸を置換しただけでも構造が崩れてしまってカプシドが形成されなくなったりするので、変える余地があるアミノ酸がどの程度あるのかが気になるところ。カプシド配列によっては、製造時のHEK293細胞内で小胞体やゴルジ体でつまってしまって低産生効率になったりすることも報告されており、どのようなカプシドがAAVベクターとして最適なのかは非常に注目される。


キーワード:

・アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター

・遺伝子治療

・ベクターデザイン

・機械学習


免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対してもケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

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