top of page
検索

Sarepta Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第88回)ー


ホスホロアミダイト・モルフォリノ・オリゴマー(PMO)という人工核酸技術を持ち、主にデュシェンヌ型筋ジストロフィーへの核酸医薬を開発しているバイオベンチャー

ホームページ:https://www.sarepta.com/

背景とテクノロジー:

・脊髄筋萎縮性治療のための核酸医薬品ヌシネルセンが2016年にFDAから承認された。核酸医薬品はこれまで低分子医薬品でターゲットとしにくかったRNAを標的にできる(アプタマー、デコイなどたんぱく質を標的とできる核酸医薬品もある)。これまで、さまざまな障害があったため使用が限定されていたが、近年技術開発が進み注目を浴びている。

・生物が使っている天然のRNAをそのまま使った核酸医薬品は、生体内でヌクレアーゼにより分解されてしまやすく不安定である。また、標的RNAとの結合が弱いなどの問題があった。そこでLocked Nucleic Acid(LNA)、架橋化核酸(BNA)などが開発された(参考)。

・Sarepta Therapeuticsが持つ独自のオリゴヌクレオチド技術であるホスホロアミタイド・モルフォリノ・オリゴマー(PMO)も、改変された核酸である。天然のRNAのリボース環がモルフォリン環に改変され、ヌクレオチドのリンカー部分であるホスホジエステル結合がホスホロジアミデート結合に改変されている。これにより高い特異性・安定性・汎用性を持つ。

・Sarepta Therapeuticsは、さらにPMOを改変したPMOplus、PPMO(peptide-conjugated PMO)、PMO-Xという技術を持つ。PMOplusは通常、電荷的に中性なオリゴマーの中に電荷を持つ分子を入れることでオリゴマーの一部に電荷をもたせる。これにより特に抗ウイルス作用において効力が増強される。PPMOはPMO(核酸)に細胞透過性ペプチドを共有結合で付加する技術。PMO-Xは詳細不明だが、PMOに化学修飾を施すことで、in vivoでの効力を増強し、組織指向性を持たせることができる技術とのこと。

・デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソンスキップ療法についての説明はこちら

パイプライン:

Eteplirsen(商品名EXONDYS 51)

ジストロフィン遺伝子のエクソン51をスキップするアンチセンスオリゴヌクレオチド(PMO)。ジストロフィン遺伝子のpre-mRNAをターゲットとする。静脈内投与。

開発中の適応症

・承認取得済(FDAによる迅速承認制度)

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(エクソン51スキップで効果を持つ変異のキャリア患者)

Golodirsen (SRP-4053)

ジストロフィン遺伝子のエクソン53をスキップするアンチセンスオリゴヌクレオチド(PMO)。ジストロフィン遺伝子のpre-mRNAをターゲットとする。静脈内投与。

開発中の適応症

・Phase 3

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(エクソン53スキップで効果を持つ変異のキャリア患者)

Casimersen (SRP-4045)

ジストロフィン遺伝子のエクソン45をスキップするアンチセンスオリゴヌクレオチド(PMO)。ジストロフィン遺伝子のpre-mRNAをターゲットとする。静脈内投与。

開発中の適応症

・Phase 3

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(エクソン45スキップで効果を持つ変異のキャリア患者)

SRP-5051

ジストロフィン遺伝子のエクソン51をスキップする組織指向性ペプチドを付加したアンチセンスオリゴヌクレオチド(PPMO)。ジストロフィン遺伝子のpre-mRNAをターゲットとする。静脈内投与。

開発中の適応症

・Phase 1

デュシェンヌ型筋ジストロフィー(エクソン51スキップで効果を持つ変異のキャリア患者)

・この他にもデュシェンヌ型筋ジストロフィーへのアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を用いた遺伝子治療プログラムなどを共同で開発中

最近のニュース:

Myonexus Therapeuticsが開発中の肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)に対するAAVrh7.4を用いた遺伝子治療についての共同開発契約を締結した

コメント:

・FDAに承認されたEXONDYS 51については、Advisory Committeeにおいて反対が多かったにも関わらず承認されたことで話題をよんだ。ただ、これは迅速承認制度を使った仮免許承認であり、追加の臨床試験データを求められている。EUでは承認されていない。

・核酸医薬品に関する独自技術PMOを持っており、他社の化学修飾核酸に比べて毒性が低いなど利点が多い。しかし、核酸医薬品は比較的侵襲性の高い投与を繰り返し行う必要があるところに難点がある。その点AAVによる遺伝子治療は1回の投与で済むことから、核酸医薬品のライバルは遺伝子治療になるだろう。ただ、NovartisのAAV遺伝子治療(AVXS-101)は4-5億円の医療費がかかるとの情報もあり、どちらが主流になるのかは未知数。

キーワード:

・核酸医薬品

・化学修飾核酸

・デュシェンヌ型筋ジストロフィー

・エクソンスキップ

免責事項:

正確な情報提供を心がけていますが、本内容に基づいた如何なるアクションに対しても元製薬研究員ケンは責任をとれません。よろしくお願いします。

最新記事

すべて表示

Surface Oncology (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第144回)ー

がん微小環境において免疫を抑制している免疫細胞やサイトカインに着目し、抗体医薬品によってがん免疫の抑制阻害する治療薬の創製を目指すバイオベンチャー。パイプラインに多くの候補品を持つ。 ホームページ:https://www.surfaceoncology.com/ 背景とテクノロジー: ・患者さん自身の免疫機能を調節することでがんを治療するがん免疫の領域にはさまざまなアプローチによる新たな治療法が開

Arkuda Therapeutics (Cambridge, MA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第143回)ー

ライソゾーム機能の低下と神経変性疾患の関係に着目した創薬を行っているバイオベンチャー ホームページ:https://www.arkudatx.com/ 背景とテクノロジー: ・ライソゾームに局在する酵素の欠失によって起こる病気として遺伝子変異疾患であるライソゾーム病が知られているが、最近の研究により神経変性疾患の一部においてもライソゾームの機能異常が原因である可能性が報告されてきている。ライソゾー

Audentes Therapeutics (San Francisco, CA, USA) ー元製薬研究員ケンのバイオベンチャー探索(第142回)ー

希少疾患に対してアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬の開発を行っているバイオベンチャー。現在課題となっているAAVの大量製造およびヒトへの高濃度投与に関して先行している。2019年12月アステラス製薬による買収が発表された。 ホームページ:https://www.audentestx.com/ 背景とテクノロジー: ・遺伝子治療のベクターとしてアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクタ

bottom of page